第十一話 傷害罪
「ねえサン。そんなに落ち込まないで・・・・・・どうしても見つからなかったらまた作りましょうよ。私も手伝うし、金はあげるから」
「・・・・・・」
サンの放心状態は二十分続いたが、口から洩れたのはエリーの期待した答えではなかった。
「・・・・・・もういいよ。結局誰も相手にしてくれなかったし・・・・・・作るのも探すのもやめる」
「サン・・・・・・」
「(な、なんか、思ってたのと違う・・・・・・)」
部屋の中は絶望的な雰囲気が流れていた。
"偏見発見装置"の喪失を嘆くサン、それを慰めるエリー、そして棒立ちするベル。
ベルには無論、使命があった。
彼女は2222年から遥々、この1970年代のアメリカにやってきて、理由はわからないが"偏見発見装置"を取り締まらなくてはならなかった。
「エリ姉、私はこれからどうすればいいんだ。最愛の発明品は誰にも見向きされず、社会的地位も最悪。私はいま、持たざる者だ。この自由の国で、私のような者はどうやって生きればいいんだ・・・・・・」
サンは通常運転を始めたかと思うと、ぐずぐずと泣き始めた。
彼女の顔はぐちゃぐちゃに潰れ、鼻からは糸が引き、唇は小刻みに震えていた。
エリーはまた慰める。
「安心しなさい。アンタには私がいるじゃない。私はアンタがしたいことなら何でも応援するわ。"偏見発見装置"のときはついイジワルになっちゃったけど、今度は絶対応援するから」
「エリ姉・・・・・・!」
二人は抱き合った。
サンだけでなく、エリーの目にもうっすらと涙が浮かんでいた。
自分の過ちを後悔しているのか、サンの不運を共に嘆いているのかは定かではなかったが、彼女はサンの為に泣いていた。
「エリ姉、私頑張るよ。何をかは分からないけど、頑張る!」
「いますぐは駄目よ、サン。まず自分と向き合うのよ」
彼女らの歯車がゆっくりと回り始めた。
ここから新しい何かが始まる気配がしていた。
「・・・・・・」
まずい。
そう思った人間がいる。
「(どうしよう。とても逮捕とかいう雰囲気じゃない)」
ベルは考えた。
「(いま彼女らを尋問すれば、何かの大きな力が働いて私は悪役となり、必ず作戦は失敗するだろう。作戦が失敗したら、どうなるか?私を頼ってくれた"同志たち"まで悲しませることになる。それだけは避けなくてはならない・・・・・・だが、彼女らをこのまま放っておくのも駄目だ。それこそ"仲間"から失望されるだろう。やはり逮捕だ。逮捕しかない!)」
ベルはこのしんみりとした空気を壊すように、一度咳払いをした。
「あ、貴方がたがどうであろうと、250年間たくさんの人の自尊心を傷つけたのは傷害罪に値します。よって試作品をもう一度用意して貰い、開発者・投資家共に正式に有罪であることを──」
突然、サンが立ち上がった!
「どうしたのサン!」
エリーは、自分の腕からするりと抜けた彼女を見上げ、悲哀の情を染み出した。
「お前・・・・・・今なんて言った?」
サンの声は怒りに震えていた。
「だから正式に証拠を提出───」
「違う。その前だ」
「・・・・・・?」
ベルは自分の発言を反芻し始めた。
しかし彼女のセンサーには何も引っかからなかった為、素直に答えた。
「たくさんの人の自尊心を傷つけたのは傷害罪にあたると・・・・・・」
「・・・・・・そうか」
ぽん。
サンは音もなく忍び寄り、ベルの肩を叩いた。
そして───
「だははははは!!」
サンは大地を揺るがすほどの大笑いを始めた。
「傷害罪?うひひひひ!!」
まるで悪魔のような彼女の笑いは、部屋中に響き渡り、ベルとエリーを愕然とさせた。
傷害罪。
未来では、"偏見発見装置"は兵器だったのである。




