梟は親族となった青年を自宅に送る
港湾倉庫で起きたことは、俺は一日も早く忘れたい。
蒼星を保護して連れ帰って来てくれた鹿角の胸に、俺は初めて自分から飛び込んでしまったほど鈴木さんは怖かった。鹿角は優しい方だった。俺はもう少し鹿角に優しくしようと思った。
鹿角は俺を悠達のところへ返してくれたし。
あの後、全貌を聞かせようか、と鹿角は言ってくれたが、俺はパス。警察の誰が裏切り者で、どうして悠にだけ目隠しをしていたのかって理由は聞いたって仕方がない。あの時点で蒼星と悠に洗脳のための心理的負担をかけていたなんて、俺は知りたくはない。
蒼星は奴らの言いなりの人形に、そして蒼星が失踪してしまった場合はその罪悪感で悠を操れるように、なんて下種な話は知らなくていいんだ。悠はそんな状況でも自力で逃げたし、熊を退治までした凄いやつなんだから。
でもさ、悠が俺がいたらって何度も言うから、俺のようになるためにって囮捜査というバイト勧誘されてホイホイついていくなんて! あいつは裏バイトが危険って知らないのか?
さて、その蒼星だが、現在入院中だ。
洗脳の一環か、強い向精神薬などを注入されていたようで、薬を抜く治療には最低でも一週間は必要らしい。鹿角は蒼星の入院について、蒼星に小遣いを与えず必要な分だけ申告制なんていう、経済DVを行っていたために蒼星が裏バイトに参加せざる得なかった結果、と母に説明したそうだ。
騒ぎたいならどうぞ、蒼星君の未来が潰れてしまいますね、と、しっかり言い聞かせたから大丈夫と含み笑い付きで報告してくれた。
それにしても、あのババアは何だよ。常に誰かを精神的にいたぶらなきゃ死んでしまうっていうのかよ。
それで話を戻すが、蒼星は現在、祥鳳大学の隔離病棟にて入院中である。
蒼星にはどうして入院しているかの事実は伝えていない。変な薬を体に入れられたのも、その薬を抜くための点滴などの治療も、拓海教授による「兄弟間のテレパシー実験」のためと思い込ませている。蒼星の心の安定のためだ。
だが協力を仰いだ拓海こそガンだった。
拓海は「兄弟間テレパシー? イイね」って、検証実験したくなった模様だ。
「晴、蒼星君に向けて何か念じて!!」
そんな電話を蒼星への回診のたびに掛けてくるのやめて!!
蒼星と「通じた?」「何考えた?」と、言葉かわすのすげー気まずい。
「晴純君、スマホがチカチカ光っているよ」
俺はスマホの画面を見て、スマホを光らせている理由を知ってスマホをどこかに放り捨てたくなった。俺が祥鳳大学理工学部から借りてた耐雷ドローンを飛ばし、港湾倉庫に雷誘導を行ったことについてお怒りどころか論文にしろと兵頭が煩いのだ。
俺のせいで家の電気代が凄いから雷から盗電できないかな、という思い付きの結果ですなんて発表、それなんて羞恥プレイ? それに、雷の誘導が出来なかったらドローンを落として羽で奴らを切り刻んでやるつもり、だった殺人計画。開示なんかできないよ。
大体俺は受験勉強しなきゃならない受験生なんだよ。ケツに火がついてる、ぐらいギリギリな。
「ほっときゃいいです。本当に必要な連絡なら、真琴君か藤さんにかけてきます」
「晴~。お兄さんは運転中だぞ。面倒でも自分が出なさい」
運転席の藤は後部座席の俺を叱る。
けれど藤と比べ物にならないぐらい真面目な真琴は、自分のスマホを取り出して、電話が来たら出るぞってスタンバった。――兵頭さん、真琴ガードなんか簡単に突破するよ。俺が出たほうが俺のダメージが少なくないか?
「君に助けてもらった恩は返さなきゃね」
「俺は何もしてない。三穂子さんを害した奴らは、自分の強欲で勝手に死んだだけ。逆に復讐できなくてごめん」
「いいよ。君のおかげでみほりんへの気持ちをあいつらにはぶちまけられた」
え、返してって叫んだだけだよね、君は。
でも真琴が納得しているならいいか。
あの夜、もちろん真琴は死んでないどころか怪我一つしていない。
ただし、何も知らせずにあの展開だったので、アドリブできない彼のために俺は彼をわざと転ばせたり地面に押し付けたり、鈴木から手渡されてた血糊ブシューさせたりと大変だった。そのかいあって真琴は、俺を主君みたいにして扱うようになってしまった。
ええ? だ。そんなんだから親父殿に勘当されるんだぞ(三回目)。
だから俺は今日、真琴を真琴の親父さんへ返品に行くのだ。
「晴、ここが拓海センセイの生家だよ」
自宅から一時間半。同じ県内なのにどうして、と思うぐらい遠かったが、俺は藤が止めた家の門を見ただけで、仕方がないなって思った。
複雑な屋根の重なりに朱や緑に色が塗られた木枠、部屋が何部屋あるかわからないお屋敷。なんか、屋敷と呼ぶより御殿って感じ。
「ここが君ん家? 真琴さん家って、ホテル?」
「曾祖母の趣味らしい。稼ぐけど家族サービスがない曾祖父がどこまで自分や家庭に無関心なのかを知りたいがために自分の趣味を注いで建てた?」
「曾祖父さん関係なく、完全に趣味でしょう。これ途中でダメだしされても止まれないだろう規模に設計だよ?」
「そうだよね。でも中は大したことないよ。掃除が大変だから、自分が使うとこしか掃除してないし。……僕の部屋、そのままだと思うけど、勘当ってことで片付けられたかなあ」
「とりあえず、行くぞ。親父さんに挨拶だ」
「でも、父さんいないかも」
「安心しろ。俺がちゃんとアポ取った。親父さんはちゃんといる」
「ほえええ。でもいいよ。僕は晴純君と叔父さんと一緒でも、ぜんぜん困ってないし。晴純君のご飯、実家のご飯よりおいしいし」
真琴は俺の作る飯を大変気に入ってくれている。
毎回おいしいおいしいと食べてくれるのは嬉しいが、だがしかし、人見知りの俺が真琴と差し向かいで毎回飯を食うのは、実にとても苦痛なのだ。
付き合ってみれば真琴は素直だし心優しいし、間違いなく拓海の甥だって認めるしかない空気の読めなさだ。拓海と同じ、素っ頓狂系。飯時間が落ち着かない。
ついでに、お化けが怖いって理由で、受験勉強している俺の部屋にやってきて、俺のベッドで勝手に寝てしまうのも苦手。それを知った拓海まで、昼寝に戻ったからと俺のベッドで寝てたりする。最近晴純とのふれあいが少ないからって言うの、キモいから止めて。
俺はしみじみ思う。
拓海とうまく同居できてるのは、拓海が多忙な人間だからなんだろうな、と。
「上手くいかなかったら、晴純君家に戻っていい?」
「俺の家じゃないだろ。亮さんの家」
「ふふ。君の家だよ。マンションは叔父さんが建てたけど、住む場所としての家は君が作り上げたんだと思う」
「部屋に置いてあるインテリアは全然弄ってないし、部屋の内装変更やら掃除業者雇って指示してるのは、秘書の兵頭さんだよ。俺じゃないって」
「モノじゃなくて、家には君がいないとって感じになってるってこと。家に帰ればみそ汁は良い感じに作ってあるし、冷蔵庫には夜食用の冷菜が皿に盛られて食べられるのを待っている。最高だよ」
「冷菜泥棒はお前か。あれは亮さんのだ。俺が寝ちゃってたら飯が食えない。何も腹に入れられずに終わらないように用意してあるんだ。勝手に食うな」
「ごめん、でも我慢できなかった。でもそっか、叔父さんが僕が出ていくって言った時に、すごくうれしそうな顔をしたのは。そっか、僕は邪魔だったのか」
「それは、父親と話し合うって奴に賛成だからだよ」
俺は結局慰めていた。
なんだかんだ言っても、真琴には好意を抱いているのだ。
社会科の点数上がったし。
でも、彼は家に帰るべきだ。
「じゃ、行きましょう。俺があなたを守ってあげますよ」
「そんなに僕を実家に帰したいんだ。なんか、寂し」
「俺は受験生なの」
「点が取れるようになったから、僕はいらないんだね。僕は君に使い捨てられるんだ!!」
「捨てるんじゃない。元居た場所に戻すだけだ!」
「晴、それまんま捨て犬」
「晴純君はひどい!!」




