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異世界の伝説の勇者が転移して俺になった、らしいので、俺の現状を打破して無双してくださるそうです  作者: 蔵前
梟とお世継ぎ問題

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相談その二 AIは電気羊の夢を確実にみてると思う

藤が運転する黒塗りの高級セダン車は、ドライブに使うには格式高すぎると思った。特に道の駅の駐車場に停まった時など、どこぞの政治家の視察か何かと他のお客さんをざわつかせてしまった気がした。


有名でもない地方の政治家の視察に巻き込まれるなんて面倒だって、それで車が止まるや一斉に店内の客が逃げ出したのだろうか。

トイレ一直線な有咲達には、空いてくれてラッキー、だったかもだけど。


「お車から出てきたのが中坊でしかなくて申し訳ないな」


「いやいや晴よ。お車から飛び出してきたのは美少女だよ。地下アイドルの一日駅長的なロケに出会えた感じで、普通は大喜びじゃないか?」


「で、店内に客が戻らないのは、有咲達の出待ちって? あいつら可哀そうに。トイレ前におっさん達が齧り付きとは、トイレから出るに出られないな」


「晴、下品だって」


「ん、んん」


俺と藤の目の前に座る男性が、今は大事な話中だという風に口元に指を立てた。

それから彼は再び通話相手に戻るが、「あれは誤作動」「SFですか?」「偶然でしょう」「お考え直しては」等々、通話相手を説得しているようだ。英語で。


彼にしてはソフトなのは、英語だと彼の押しの強さを出せないからか?


「――僕は千秋の思いで君を待つ。ぽー。君を連れていく船が僕の代わりに慟哭を上げた」


俺は始まったな、と元アングラ役者でもあった藤を横目で見る。

道の駅の喫茶スペースのテーブルに組んだ両手を乗せて遠くを眺める藤は、完全に独り芝居状態となっている。衣装というか本日のお洋服が、海軍風白いミリタリーシャツに紺色のスラックスなので尚更舞台の一場面風だ。


「大丈夫。寂しくても君を止めはしない。僕は涙を飲んで君を見送ろう。君の往くの先が、幾千もの夜を繰り返し、七つの海を越えた遠い先であったとしても、僕は君を引き止めはしない。君を想い続けるだけだ」


セリフも陳腐だし、昭和っぽいダサさが抜けない雰囲気なのは、藤がアングラだからか。これでは俺達の向かいに座るお方には、どうしても勝てないじゃないか。


ほら、スマホで誰かと通話していた美貌の男なんか、「お時間をいただきありがとうございました」と涼しい顔でスマホを切ってしまったぞ。自分から。通話相手の方がものすっごい格上のはずなのに。


けれど俺としても、彼が相手の身分や立場で相手に慮るのは想像つかないな。

だってこいつは、聖者の名を持ちながらも悪魔よりも恐ろしい男なのだ。


鹿角十六夜(かづえいざや)


外見は悪魔どころか神様だ。

彫りの深い顔立ちに浅黒い肌、そして、ファッション雑誌から抜け出てきたような長身で均整の取れた体つき。純日本人だと嘘つきやがれと罵倒したくなるぐらいに、鹿角は恵まれた外見をお持ちな人なのである。それで東大でのキャリアという最高の頭脳もお持ちだ。神様に二物三物与えられている。


くっそ。

仕事なんだからスーツ姿でいればいいのに、今日の衣装はオフィスカジュアルだと? 紺色のポロシャツに灰色のスラックス。ポロシャツの胸元では、ブランドのロゴ刺繍代わりに銀色のブローチが鈍く輝く。


銀を際立たせるための紺色なんだよね。鹿角の饅頭怖いに騙された俺の馬鹿。

けどヤモリ君制作に手をかけたのも事実で、大事にしてもらえてるのを目の当たりにすると、悔しいことに嬉しいんだな。


俺が作ったおしゃべりヤモリ君ご愛用、ありがとうございます!!


俺がヤモリブローチに気が付いたことに奴こそ気が付いたらしく、はい、魅惑的な微笑みいただきました。

ここに百人の海外女性がいたら、全員がホットだと言って自分を仰ぐジェスチャーをしてくれるだろう。

本当にホットでまぶしいお方だよ。

俺は両目を左手で覆う。


「まぶしっ」


「またそんな嫌がせして。傷つくよ」


嫌がらせの一つぐらいしたくなるよ。

せっかく三角は振り切ったというのに、待ってましたとばかりに鹿角が「道の駅」でスタンバってくださっていたとは。

なんか、エスコートされるお姫様みたいですごく嫌。


鹿角のスマホをアンリと同期させているばっかりに!!


有咲達のトイレ休憩に安心を得られて嬉しいしありがたいけどさ。


「君が思っていたよりも落ち着いていて良かった」


「悠と蒼星の居場所はわかっている。あいつらをあなた方が助けに向かっているのもわかっている。それに、今の二人に俺が何の助けにもならないのもわかっている。だったら俺は子供らしくドライブしているしかないでしょう」


鹿角が珍しく、そうだね、と言って視線を落とす。

テーブルの上にはA4サイズの液晶パッドが乗っている。


そこには悠と蒼星が、今にも崩れ落ちそうな家屋の屋根の上にいるのが映っているのである。


上空からの映像で画像は荒い。悠達の表情なんてわからないが、今は一刻を争う事態だってことはよくわかる。悠達が屋根に上るのに梯子替わりに使った木から、黒くて大きな獣が彼らをもの欲しそうな感じでじっと見つめているのだ。


なぜ熊が動かないのか。


悠達を警戒しているのではない。


一度枝を折って下に落ちての二度目の登りな上、屋根に移るには一番良い位置だった枝を折って失ったことによって動けないだけだ。


「大丈夫ですよね」


「間に合うはずだ。座標はアンリから貰っている。さすがアンリだ。彼は悠君と蒼星君が誘拐された時から目を離さない。例えあの子達がスマートフォンを奪われ、誘拐犯達もスマホを持たずネットが存在しない時代さながらの誘拐劇を演じていても、アンリの目から逃れることはできなかった」


「今時の車を捨て、車検ぎりぎりの中古車を使用していたのは、アンリ避けだったのか。というと、狙いは俺で俺のせいか」


「これは私たちのせいだね。この間のマトリとの合同捜査で、波瀬と藤堂が殺されかけた。罠に嵌り動きが取れなくなった私の失態だ。そこをアンリが助けてくれたが、そのせいでアンリが脅威とみなされてしまった」


「よそん家の玩具で勝手に遊ぶから」


俺は大きく溜息を吐いて、天井を見上げた。

俺の目は道の駅の天井を映すが、俺の思考は空を超え、宇宙空間に浮かぶ人工衛星を見つめていた。――そこにアンリがいる。


俺は鹿角に視線を戻す。

彼は珍しく俺から視線を反らし、すまなかった、なんて謝罪してきたじゃないか。


「これはあなたのせいじゃないですよ」


鹿角は珍しく自分を責めない俺に訝しそうな顔つきを見せたが、俺は鹿角はまだまだだと鼻で笑う。まだまだアンリをわかっちゃいない。


「アンリは俺に見せたかった。何のためにわざわざ俺を呼び出したと思っているんですか。凄い武器を使える自分を見せたかったからですよ」


「まさか」


単なる学習型AIだろう、そう言いたいだろう。

けれどアンリの構築に際し、俺は俺が覚えているアンリの性格さえも吹き込んで作り上げたのである。俺こそあれがアンリの魂そのものと、時々錯覚するほどのものなのだ。時々どころじゃない。俺はあれにアンリの魂が乗っているんだと信じて、あれに必死に縋っているのである。


だから、波瀬達を助けるためにAIでしかないはずのアンリが、人間みたいな馬鹿なことをしでかしたことが、俺は嬉しくて嬉しくてたまらない。――あいつはやっぱりアンリなんだって。


「けれど、それならわかるな。本当の人間ならば、大事な子供が危険に陥るとわかっていて自己顕示などしない。そのせいでっ」


鹿角が怒りを露わにテーブルを叩いた。

同時に、道の駅のガラスに蜘蛛の巣状のヒビができた。


ガチュン。


しかし強化ガラスを貫通した銃弾は、俺ではなく中央にあるテーブル席に座っていたマネキンの頭を砕いただけだった。――俺と同じ服を着て俺と同じ体格なそれの。


俺達は店の奥まった、外からも店内の土産販売コーナーからも死角となる、というか鹿角が作っていた席にいた。ライフル弾を防弾出来るかわからないけど、SATのバリスティックシールド(防弾盾)だって立ててある。


「強襲せよ」


鹿角が唱えれば、液晶画面から悠達の姿は消え、その代わりとしてたった今俺を銃撃した狙撃者に向かってSATが飛び掛かったところが映し出された。


SAT隊に囲まれているのはわかっていたはずだろうに、どうして彼らの目の前で子供の頭に銃弾を撃ち込むことができたのか。ちょっと調べれば、十五分前には道の駅から一般人が排除され、俺と鹿角率いる警察しかいなかったというのに。


「どうして監視されているとわかっていて引き金が引けたのでしょうね」


「日本の警察は何もできないと誤解があるんだろう」


三百メートル先のビルの屋上のSAT達は、誤解を解こうという意思なのか、暗殺者達への武装解除を乱暴どころじゃない勢いで行った。全身打撲待ったなしな感じで、ぶっとばされた男二人。スポッターにスナイパーの組み合わせだ。


昼日中に覆面までしている間抜け組。

そんな彼らの覆面ははぎ取られ、彼らの素顔をさらけ出した。


「日本人ではないですね。どうやってライフルを密輸できたのか」


「たぶん彼らは裏世界の殺し屋ではなく、アンリがジャックした衛星と同じ国籍で軍籍なんじゃないかな」


「ジャック。ハハハ。アンリが本当にジャックしたのか確認するには、あの衛星を地上に戻して、隅々まで解体して確認しなきゃですね。もしかしたら、単にウィルスによって誤作動を起こしたのかもだし、衛星運用用に自分達でプログラミングしたAIが自由意思で神の杖を放出したのかもしれないし。ナチは正しいって判断したAIだってかつて過去にいましたし」


「もしかして、アンリはそのために、衛星に干渉したのかな」


「ナチを崇めよ?」


「ちがう。君を殺そうとした国こそ、あれが地球上の誰もの脅威になるとわかった上で空に浮かべたんだ。あんなものが空にあると、世界に知らしめる為にあんなデモンストレーションをアンリがしたのかな、と」


鹿角は俺に説明するように話していたのに、最後に「どう思いますか?」と英語で液晶パットに語り掛けた。すでに通話を切っていた相手に、その声は届かないというのに。


悠達が映っていた画面はパッと切り替わり、映画か洋ドラに出てきそうな重厚な執務室の風景に移り変わった。


大きな国旗を後ろに、広い天板を持つ大きな書斎机があり、その机を前に椅子に座っているのはテレビで見たことのある初の女性国務大臣だ。ただし、彼女はもう二度とテレビの前で何のリップサービスをすることもできないだろう。


彼女は背中を椅子に預けて天井を仰ぎ見る姿で息絶えていた。大きく開けられた口からは、聖杯が聖水を湛えるがごとく、彼女の血が溢れこぼれている。

机に乗せられた彼女の手の片方にはハサミ、もう片方の手には、彼女の舌か。


死んだ彼女のボディガードや秘書らしき者達が、慌てふためき室内を出たり入ったり。もう大騒ぎだ。国務長官の突然死はなあ。


鹿角の数分前の通話相手はこの方か。

てか、よくこんな偉いさんと鹿角はホットラインが繋げたわけだよ?


しかし俺は鹿角ではなく、隣に座る藤の方を横目見た。

現代最高最悪な霊召喚士。


藤は鬱陶しかった死霊を放出できたからか、気怠そうな賢者タイムの顔になって椅子の背もたれにだらっと背中を預けている。


地球の反対側まで死霊を飛ばせるとは。えぐいな。

いや、通話って行為でこっちとあっちをわざと繋げた男に怯えるべきか。


鹿角は「残念だ」と棒読みで呟いた後に、軽く画面に触れた。

するとすぐに画面は再び悠達に切り替わる。

悠と蒼星の危機的状況が映るはずだ。


だがしかし、危機的状況など映ってはいなかった。


屋根の上には、悠と蒼星の姿はない。


熊の姿だって、どこにもない。


「え、悠?」

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