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異世界の伝説の勇者が転移して俺になった、らしいので、俺の現状を打破して無双してくださるそうです  作者: 蔵前
梟とお世継ぎ問題

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報告その三 大人の世界にようこそ

俺は地元に戻ってきた途端に非情なる現実に直面し、よって駅前にある個人指導塾に通うことにした。


俺が復学してすぐに、学校側の配慮で休み明けには全員が受ける学力テストを受けさせてくれたたのだが、その結果に俺は泣くことになったからだ。絶望しかなかった。万年十四位だった成績が、二十五位とかなり下がっていたのである。


いろいろ事情があって長期休暇は勉強できなかったし、学校が始まってからも二週間近くのブランクあるし、一週間だけ通った東京の祥鳳学園で俺は授業妨害しかしてなかったし。……単に勉強不足だな。


けどこの順位では志望校受験は完全に死んだ。二学期の中期テストで挽回できなきゃ、ただでさえぎりぎりの内申が壊滅する。


危機感ばかりの俺は、学年順位を知った瞬間に塾通いを決めた。それでスマホで家から一番近い塾を検索しようとしたら、藤が目で見て決めたほうが良いと言って急遽塾探しツアーとなった。藤とは拓海の専属運転手の藤剛(ふじつよし)様で、覇気がないうらぶれた雰囲気をもった二十代のお兄さんである。アングラ役者だったらしく、見た目はそれなりなんだけど。アングラ役者だったから、日の光の下は辛いのかなあ。


さて、彼が塾探しで最初に車を回してくれたのが、我が家から徒歩数分の距離にあった個人経営塾だった。近い。気持ち的に俺はここでよいともう決めた。


保護者の拓海には事後承諾で大丈夫だろう。

大丈夫、俺には金がある。前払いに十万単位の金が必要でもなんとかなる。それに大人である藤を連れて契約しに行けば、塾の事務所は何も言わずに手続きしてくれるはず。問題ない。


「蒲生君。あの、君に一言言っていいかな?」


小さな机に向かい合わせに座るための椅子を置くだけのスペースしかない小部屋にて、入塾試験の結果を持ってきた塾長が、おずおず、という風に俺に結果を差し出しながら語り掛けてきた。


五十点満点のテストにて、英語四十八点、理科四十点、数学満点、そして、国語が三十二点に社会科六点という結果。……やばすぎる。

俺の隣に座る藤が社会科の点数に噴出しての大笑い。


「しゃ、社会科だけ小テストかよ。てん、点が。十点満点テストですか!!」


俺は奥歯をぎりぃと噛みしめる。


「それで、いいかな?」


「はい。今後のカリキュラムとか」


「いや。うちでは無理なんじゃないかな」


「え?」


ぼさぼさの髪が出会った頃の拓海を彷彿とさせるが、地味な顔立ちながら人好きがする眼鏡なとこが違う塾長は、「うちは付属中狙いの塾だからなぁ」と俺の行動全否定する真実を語り始めた。


「ごめんね。中学生が躓く数学や英語はカバーできるけどね、基本的にうちは中受対応なとこなんだ。うちのアルバイト講師は、ほら、優秀だけど祥鳳大学医学部の子達ばかりでしょう。多分、大学受験時には社会科は忘れ去ってる気がする」


俺は私立理系あるあるな、三科目受験の弊害を思い知った。

そうだよね、俺が点数を上げねばならない、国語と社会なんて彼らの受験科目にはない。俺が以前に拓海の取り計らいで研修医や医大生の家庭教師受けた時、社会科だけは苦手なままだったのは、俺の勉強不足なだけではなかったのか。

教えてくれる方も苦手だったからなのか。


「ここまで壊滅的だと時間がなさすぎというか、暗記しかないからねえ。君の学力が上がらなかったら、講師の子の将来にも影響しそうだし」


「あ」


そういや俺はここ近辺で拓海の子だって有名だった。

杖もって足を引きずる中学生は、有名な拓海教授の保護にある子って認識だ。

頑張って俺に教えても、俺が志望校落ちたら拓海が怒る? うん、普通はそうなって、俺に教えた医大生の未来がないって考えるよねえ。


アルバイト学生を思いやる、なんていい経営者なんだろう。


拓海は俺の学力が上がらない責任なんか講師に問わないし、学生の未来つぶすなんてことしないし、そんな考えこそ拓海への侮辱って俺が怒るべきだし、なんだけど。うん、俺に教える医大生の胃に穴が開きそうだねえ。


「けど」


「うん。一か八かって奴もある」


あ、俺の受験はもう、一か八か、って奴でしたか。

慰めるように俺の肩に藤の腕が回った。

慰められなきゃいけないぐらい、俺の進学絶望的?


「これなんだけどね」


俺は差し出してきた講師の手元を見る。

一枚のチラシだが、そこには来週からの連休の文字が見える。


「あの」


「個別対応じゃなくて授業型の塾合宿だ。合宿って言っても、通いだけどね。この連休の三日間、朝から晩まで詰め込み式で勉強するんだ。内容は中受のものだけど、基礎がない君には合っている気がする。もちろん、受ける子達は小学生ばかり。彼らは科目ごとの時間割と部屋替えがあるけれど、君は午前中と午後にある社会科の授業二限分だけを受ける。どうだろう?」


「小学生と一緒に?」


「小学生と一緒に」


俺はとっても親切な塾長に感謝を思いっきり捧げ、合宿用に塾が用意した問題集だけ購入して自分一人で頑張ることに決めた。普通は合宿に申し込まない生徒には渡さない問題集らしいが、合宿に申し込んだことにして金を払えば無問題だ。

申し込んで体調崩して参加できないなんて、あるあるだし。


そして優しい塾長は、合宿代五万円(昼食代など飲食代込み)を社会科だけだしなと割り引いて四万円にしてくれたけど、入塾費一万円プラスで五万円だ。


あれ?


「一人でどうしてもわかんないことがあれば来なさい。合宿参加もその気になったら出席していいんだからね。あと君はうちの塾生でもあるんだから、一人での勉強で捗らないって悩むなら学校帰りにいらっしゃい。事前に連絡くれたら、私が対応するからね」


……そんなに祥鳳大学医学部の学生は社会科できないんですか~。

俺の隣に座る藤からの振動がうるさい。声出さずに笑ってやがる。




だがしかし、俺は拓海に塾の合宿のチラシを見せてしまったせいで、来週の合宿に参加が決定してしまった、ようである。


「あ、甥っ子が講師でいるね。ほら、拓海真琴たくみまこと


「甥っ子さんですか?」


「うん。兄の子だね。東京の大学に行っていると聞いてたけど、こっちに戻ってきてたのか」


「甥っ子さんも医学生ですか?」


「いいや。なんだっけ。うん、理系ではなかった気がする。――あ、そしたら社会科の先生するのかな。よし、晴純。真琴君に社会科をしっかり教えてもらってきなさい。僕からも頼んでおくから」


小学生の中で?

きっっっっっつ!!

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