キーラとエリアス その後
「ん…。ところで、エリアス?」
何度目かのキスを終えて、私は改めて聞く。
名残惜しそうに、唇を離しエリアスは答える。
「はぁ…。何ですか?」
「話って、なあに?」
にっこりと音が出そうな笑顔で、私はエリアスの肩を掴んだ。
掴まれた肩と私の表情を順番に見て、エリアスはため息をついた。
「…フゥー。ここは流されてくれませんか?」
「もちろん、嫌よ。
諦めて、話しなさい‼︎」
少し長くなりますよ…。とだけ伝えてエリアスは、私に一本の杖を持たせる。
「全てを話すことは、まだ、出来ません。
いずれ時が来たら、私がお話します。
その時がくるまで、預かっていてくれませんか?」
「これって…杖?
誰の?」
「私の杖です。
昔、尊敬する主人にいただいた私の宝物です。」
「いいの…?」
「いいんです。
お嬢様に持っていただけるなら、それで。」
そう言ってエリアスは、私を抱き寄せる。
「ちょッ…。
これじゃ、顔が見えないじゃない。」
「そうですよ。
見せたくないんです。
相変わらず、空気が読めませんね。」
「なッ‼︎
何ですって⁉︎」
怒りに任せて私は振り返ろうとしたのだが、あいにくそれはかなわなかった。
「そんな所も、私が好きな所なんです。
こうすると、もっと可愛くなりますかね。」
「…‼︎」
(コイツ…こんなヤツだったッ⁉︎)
エリアスは、私の耳たぶを舐めた。
恋愛経験のない私には、首をエリアスに向けて黙って睨む事しか出来ない。
「……。」
「怒らないでください、お嬢様。
怒った顔も可愛いですが、今はこっちを見ないで下さいね。」
そう言ってエリアスは、私を膝に乗せて後ろから抱きしめる。
(は…恥ずかしいわッ
重くないかしら…?)
突然の事に慌てながらも、エリアスが重くないかが気になる。
(私も乙女的な思考があったのね。)
気になった所が、女の子らしくて安心した事は秘密だ。
そんな心情を知ってか知らずか、エリアスは答えた。
「お嬢様は、軽いですね…。
それにいい匂いです。」
私の髪を一房手に取り、匂いを嗅ぐエリアス。
(もう我慢できない‼︎)
その甘い雰囲気に耐えられず、私は暴れた。
ーーーーーーー ……
「落ち着かれました?お嬢様。」
「ええ、お陰様で。
全く動かなかったけれど。」
散々と暴れたが、私はエリアスの膝の上にいる。
どれだけもがこうにも、後ろから抱き抱える手を引き離す事が出来なかったのだ。
(どれだけ、力強いのよ‼︎)
ピクリとも動かなかった腕に、心の中で悪態をつき、聞いた。
「で?話って何?」
「お嬢様は、この世界…大陸に、女王がいた事を知っていますか?」
「女王って、ベルディナ?」
昔話の中にある名前を必死思い出して答えた。
問題は無事合っていたようで、エリアスは軽く頷きつぎの質問をしてきた。
「では、女王はどうなりましたか?」
「女王?確か…」
(確か…、女王には7人の騎士と7匹の霊獣がいたのよね)
記憶の中のおとぎ話を探る。
………
女王ベルディナには、彼女に仕える7人の騎士と、7匹の霊獣がいた。
7人の騎士はと、霊獣達は皆女王の事が大好きだった。
女王も彼らの事が大好きで、皆で助け合って大切な国を守っていた。
しかし、幸せは長くは続かなかった。
突然、世界は終わりを告げる
絶望を纏った黒い闇が、世界を包む。
黒い闇は全てを吸い込み壊していく。
大切な人を守るため自らを犠牲にして、女王は黒い闇を鎮止めるを決めた。
しかし…彼女に仕えていた騎士達や霊獣達は皆、とても反対した。
「自分達も共に逝く…どこまでも付いて行く」
そう言って聞かない騎士達に彼女は1つお願いをした。
「あとは、頼みます」
誰の意見にも耳を貸さず、女王は国を任せて黒い闇を止めた。
騎士達はとても悲しんだが、女王の最後の願いを叶える為に国をさらに栄させ、大陸を作り出した。
………
(確か、こんな感じだったはず…)
「命をかけて、黒い闇を止めたのよね?」
相変わらず背中から、抱き締められているので顔を見る事が出来ない。
「ええ…。
でもね、本当はそうじゃないんです。」
私の首に頭を埋めて、息を吐くエリアス。
漏れ出る声は、とても辛そうだ。
(く、くすぐったいわ。エリアス)
「ほ、本当は違うって?」
「女王1人の力では、どうにもならなかったのです。
だから、彼女は何度も何度も……」
暖かい何かが、私の首を伝って流れ落ちて行く。
(泣いている…?
でも、おとぎ話の話よね?どうして?)
頭が、状況についていけない。
グスッと、小さく鼻をすする音と共にエリアスは、さらに私を抱きしめた。
「私は、そんな過ちを犯さない。
誰よりも愛しいあなたを、失う事なんてしません。」
「キャッ‼︎
い、いきなり、何するのよッ‼︎エリアス。」
突然エリアスに持ち上げられ、身体を回される。
エリアスの膝の上なのは変わらないが、向かい合わせになっている。
(これはこれで恥ずかしいわ…)
おでこ同士がくっつき、視界はエリアスの顔一色な状況に私は赤面してしまう。
リンゴのように赤くなった頬に、エリアスはクスリと笑いキスをして続けた。
「ん…可愛いですね、お嬢様。
この先いつか、あなたは大きな選択をする事になります。それは、誰にも変えられません。
例えそれが、どんな犠牲を払う選択であろうと必ず…私を連れて行ってください。
そしてその時、私にこの杖を返してくれませんか?」
「言ってる意味がわからないんだけど。」
「今は分からなくていいんです。
ただお嬢様は、約束してくれればいいんです。
何があっても私と共にいると、そう約束してくれれば。」
(全く意味がわからないけれど…)
「いいわ。約束してあげる。
私とずっと一緒にいなさい、エリアス。」
「…‼︎‼︎
ありがとうございます、お嬢様。
キーラ…愛しています。」
意味がわからない約束を、断ってやろうかとも考えた。
(でも、約束してあげてよかったわ…)
心から嬉しそうに笑うエリアスに、私は素直に約束してあげてよかったと思った。
「…ところでエリアス。
まだ、全てではないわ。
あなた、私のドラゴンと知り合いなのよね?」
「…お嬢様。この体勢でお預けを何度もするのは酷すぎます。」
「ばかね。何で私があんたに合わせないといけないのよ。サッサと答えなさい。」
「さすがです。お嬢様…。
どんな時でもブレない神経に、完敗です。
あのドラゴンは、お嬢様が以前召喚した事があるんですよ」
「え?そんなの知らないわ‼︎
魔法生物の召喚なんて、した事ないわ。」
覚えのない事を言われ、私はエリアスの肩を激しく揺さぶる。
激しい揺れにうんざりした顔を向けながらも、エリアスは続けた。
「ドラゴンは、魔法生物ではないんですよ。お嬢様…
お勉強、追加ですね。
確かに…魔法生物は、専用の卵に自身の魔力を与える事で生まれます。
ですが、使い魔は魔法生物だけではありません。」
「使い魔…。
あッ‼︎なら、あれは…。」
「そうです。
モンスターでも、使い魔になります。
ああでも、ドラゴン族をモンスターと呼んではいけませんよ?」
「そうなの?
どうして?」
勉強の追加という言葉に一時は落ち込んだが、今はただドラゴンという生き物の事を知りたい。
食い入るようにまた、エリアスの肩を激しく揺さぶっていた。
エリアスの目は遠い所を見ていた気がするが、そんな事はどうでもいい。
好奇心溢れる私の瞳に、エリアスはため息をついて答えた。
「…はあ。
人を遥かに超える長い時を過ごす彼らは、知能、魔力共に並大抵の人ではかないません。
なので、知能を持つ彼らはモンスターと生き物の括りで呼ばれる事を嫌うのです。
ドラゴン族以外にもいるのですが…
モンスターの最高峰であり、また生物の最高峰としての存在、 霊獣 と呼んでいます。」
「霊獣…
それほどの力を持つドラゴンが、どうして私の使い魔に?」
耐えられなくなったのか、エリアスは私に口付ける。
(まだ、許してないんだけど…まあいいか。)
エリアスの顔が少しだけ離れ、また近づいてくる。
力を抜いてエリアスを受け入れるため、私は目を閉じた。




