執事、不注意が仇になる
なんとか危険を悟られずに無事に、お嬢様を試験会場に送り届ける事が出来ました。
なるべくお嬢様には、暗殺者などの人の世の闇を見せたくない。
いずれはお嬢様も知る事になるのでしょうが、今はまだ知る必要はありません。
(少しでも幸せでいて欲しい…)
少し落ちてしまう気持ちを無理矢理切り替える。
「そのためにも、まずは先程の気配の特定をしないといけませんね。
大事なのは、お嬢様の安全です。」
(声に出さないと、気持ちの切り替えが出来ないなんて私もまだまだダメですね。)
「ピピ丸。」
気配を探るために放った、魔法生物を呼ぶ。
しかし、反応がない。
(おかしいですね…。いつもは呼ぶとすぐにでてきてくれるのですが。)
何かあったのではと思い、ピピ丸に向けて魔力を送る。
「ピ…ピ。」
掠れたようなピピ丸の声が足元から聴こえて慌てて下を見る。
(…‼︎)
「何があったんですかッ⁉︎ピピ丸‼︎
急いで手当てをしてあげますからねッ…‼︎」
足元に、無数の切り傷がつけられたピピ丸の姿があった。
(一体誰が、こんな事を…ッ‼︎)
傷口に触れないように、ピピ丸を手のひらに乗せて治癒魔法をかける。
(傷が塞がらない…?)
いくら治癒魔法をかけても、ピピ丸の傷口は塞がらない。
「隠れてするべきなんでしょうけど…ッ‼︎」
ピピ丸の辛そうな姿を見た私は、何も考える事が出来なかったのです。
ただ、救ってあげたい気持ちで使ってしまった。
ピピ丸の傷はみるみる内に塞がっていく。
まるで、時が戻っていくかのように…。
私は、気がついていませんでした。
何者かがジっと私の事を見続けていた事に。
「さぁピピ丸、何があったのか教えて下さい。」
何も知らない私は、ピピ丸に何があっのかを聞いている。
『時空魔法、ラウムツァイト。実在していたのか…』
ジッと私を見つめる視線は、そう言い残し姿を消した。
ーーーーーーー……
その昔、過去に戻りたいという願いや未来を覗きたいといった願いを持つものが多くいた。
その願いのために多くの人が、魔力を使い時空を歪めようと試みた。
しかし、時を操る魔法は強大すぎた。
大きすぎる魔法は、時に人の命を奪い、呪いを生む。
呪いの力は凄まじく、術者の命だけではなく周りの命…人だけでなく植物の命ですら奪っていく。
大地を黒く染め上げる、全ての命を奪う呪い。
人々は呪いをおそれ、逃げ惑う。
その事を知った当時の女王、ベルディナは時を操る魔法を禁呪として使用を禁じ、呪われた地を封鎖するように命じた。
しかし時すでに遅く、呪いは大陸のほとんどを飲み込んでしまっていた。
そこで女王は、信頼の置ける部下に大陸の未来を託し、自身の命と引き換えに呪いを封じた。
完全に呪いを浄化して戻ってくると、部下達に約束をしてー…
女王の部下達は自らの時を止め、女王が戻ってくるのを待ち続けている。
輪廻転生を繰り返し、女王が完全に呪いを解いて戻ってくるその日まで彼らは待ち続けている。
それが、大陸の端にある作物が育たない黒い土地 『ラウム』に伝わる伝説。
禁呪、ラウムツァイトの物語だ。




