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第2弾、第3弾の裏話。
桜井耕四郎は、高校一年生の息子をもつ父親だ。
ひとり息子の美幸より年上の、養子にする予定だった後追い症候群の子供も里親として養育した。
父の代からつづく製薬会社を切り盛りし、だれからも後ろ指さされることのない社会人であり、洗練された男性だった。
――北方高校万歳。
そんなかれの胸中は、九月に入ってからそのおもいで満ちていた。
「ねえ、お父さん。今度の文化祭でぼく、女装することになったよ」
帰宅時間がまちまちの耕四郎にとって、亡き妻に似た愛息との朝食は一日で大切な時間となっている。
少女だと紹介されてもだれも異議を申し立てない容姿のわが息子は、口のなかのご飯を咀嚼したあとそういった。
「美幸……」
父の顔をみてなにをおもったのか、息子はあわててつけくわえた。
「女装するのはぼくひとりだけじゃないからね。北方高校の文化祭では、全校生徒、全教職員が女装するんだよ。どんな格好をしてきてもいいらしいんだ。ぼく、どういう格好をしたらいいとおもう?」
そういいながら、美幸は学校の文化祭にさいして配布された冊子をみせてくれた。
女装のルールや注意事項、アドバイスなどがしたためられた薄いパンフレット。
化粧や付け毛、胸パッド、毛の処理についてなども事細かに書いてあり、タトゥと整形は禁止されていた。
「……美幸、今日これお父さんに貸してくれないか。うん、ぜひ一緒に考えよう」
「え? ありがとう」
たぶん、美幸は朝の話題として軽い気持ちでいったのにちがいない。
しかし耕四郎の胸は高鳴り、脳裏では息子の進学高校としては眼中になかったローカルな学校を、いままでばかにしてごめんね! と謝っていた。
*
その週の休日、耕四郎は笑顔で美幸を連れ出して、百貨店にむかった。
息子の文化祭での女装については、冊子を返すときに、ふつうに女の子の格好でいいだろうといってあった。息子も一年生だし、凝ることはないよねと返事をした。
「テレビの女性タレントご用達の店なんだ。ここなら美幸の文化祭の服もあるとおもう」
「気に留めておいてくれてありがとう、お父さん」
運転手の片山、女の子めいていることから狙われやすい息子のためのボディーガードである天童、美幸の世話を中心に家の雑用をしている、里子で育てた田中和義をつれての外出だった。
百貨店は女性が絶滅してから息の根をとめられたといわれた産業のひとつであったが、店舗数を減らしながらも生き残っていた。
四階ファッションフロア。人影はまばらだ。
エレベーターであがり、耕四郎が先頭になって進む。
「これは桜井さま、ようこそお越しくださいました」
「やあ、今日はお世話になります」
百貨店のスーツをきてはいたが、仕草や言動は女性めいた係だった。
「ほんとうに愛らしい坊ちゃまですね」
「清楚で嫌味じゃない程度の愛くるしい女の子に変身させてほしい」
そう耕四郎がいうと、係の目が輝いた。
「化粧と、アクセサリーと、靴も下着も全部そろえたい。専門のかたたちも全部よんでください」
「かしこまりました。ただちに」
「と、父さん……?」
わらわらと寄ってきた係に連れられて奥にむかう美幸に、耕四郎は微笑みを返した。
係のものがどさくさで美幸にふらちな振る舞いをしないか見張るため、田中と天童があとに付いていった。




