第9話
レオニードが突然言い出した『勇者部』は、膠着状態を迎えていた。
マルキュナにとっては、聞こえのいい話に思えたかもしれない。
だが、それ以上に面倒な事態が待っていた。
「部活申請には最低五人必要です。それから、部室の確保もお願いしますね」
「先生。なんで私に言うんですか?」
担任のフルッツェラ先生は、レオニードではなくマルキュナに向かって告げていた。
午後の仕事が控えたマルキュナは、早く仕事場に向かいたい中、教室で呼び止められていた。
最初から部活は乗り気ではなかった。
むしろ、このままうやむやに終わってくれればいいとさえ、今まさに思っていた。
しかし先生は、そんなマルキュナの願いをあっさり裏切った。
「レオニード君が毎日、魔法研究部に押しかけてくるんですよ。どうにかなりませんか?」
どうしろというのだ。
「どうにかなりませんか?」は、こっちのセリフだろう。
とは、口が裂けても言えない。
ただ、目は口ほどに物を言うという。
マルキュナの表情を見た先生は、ふっと口角を上げた。
「ダメかしら?」
「先生。これまでの様子を見て思ったんですけど……彼は絶対にあきらめません。やると決めたらきっとやり切るんです。それが他人に迷惑がかかる形になってもです。だから、一度ちゃんと分からせてあげる必要があると思います。これは動物のしつけと同じです」
「分からせてあげる……? とは、どういう意味ですか? それにしつけだなんて、お下品ですよ?」
「レオニード君はまだ現実を知らないんです。自分を本物の勇者だと思い込んでいる。そして今、全部活を倒したと息巻いています。だったら、魔法研究部の精鋭とぶつけて、コテンパンに負けさせてあげたらどうでしょう?」
「でも、魔法研究部の子たちも歯が立たなかったと聞きました。それをどうやって倒せと?」
「戦い方ですよ。一対一じゃなくたっていいじゃないですか。一度負けたんです。「それなら部活対部活だ!」って、部室争奪を総力戦でやってみたらいいんですよ! 彼は絶対に逃げません。そういう奴なので!」
マルキュナのこめかみに、血管が浮かび上がる。
関わりたくないのに、なぜこんな意味不明な提案に巻き込まれているのか。
突っ込んでいないのに、首を無理やり突っ込まされている感覚があった。
そしてその中心には、必ずあのレオニードがいるのだ。
「……分かりました。一対一ではないのは不本意ですが、部活動にも影響が出てしまっていますから……魔法研究部の威信にかけて、レオニード君に真の魔法というものを、分からせてあげましょう!」
勘のいい人なら、この会話だけで結果は想像できるはずだ。
そう、レオニードは魔法研究部のトップ3を単独で叩き潰し、部室を無事に手に入れた。
それは、この学校の最強軍団を倒したも同然の快挙だった。
魔法研究部は、なんとかレオニードの情けで「併設」という形で生き残った。
というよりそもそも申請する人数が足りていないため、その対応でしか活動が認められなかった。
この噂は、学校中に広がった。
尾ひれもついて、
「レオっちが学校を牛耳るらしいよ」
今まさにその情報を、マルキュナはクラリーンから聞かされていた。
「牛耳るはないでしょ。あいつ、そんなタイプに見えないよ?」
「えー、わかんないよぉ? 実はってことあるじゃん。ほら、『魔王』気質だったりして」
「もうそれはいいから」
「だってさー。この学校始まって以来の大事件じゃん! 一年生が上級生ボコボコにしたなんて、楽しまなきゃ損でしょ?」
「そういうのは、部活の申請書に名前書いてから言え」
クラリーンはどこを見ているのかわからない目で、口笛を吹くふりをした。




