第7話
レオニードに話しかける女子は、日を追うごとに減っていった。
それもそのはずだ。
誰もが口にしなくても、みんな知っていた。
同じクラスの男子たちは、その現実を目の当たりにして安堵の気持ちで息をついていた。
もっとも、自分たちが近づけるわけじゃないのに、とは思うのだが。
マルキュナは内心でそう呟きながら、決して口には出さなかった。
しかし、そんな中でも彼に会いに来る存在が一人だけいた。
隣のクラスの女子、ヴァルレーツァだ。
金髪をツインテールにまとめ、くるくると可愛らしく巻いた髪は、誰が見ても一目で貴族令嬢とわかる華やかさだった。
彼女は断られても、あしらわれても、毎日通ってきた。
「愛してますわぁ」
と甘えた声で迫れば、
「そうか、ありがとう」
と素っ気なく返して、それ以上の会話もなく。
「いくらでもお金を差し上げてよぉ」
と持ちかけても、
「金銭には困っていない」
と即座に突っぱねられる。
彼女はめげずに、毎日レオニードの元へ顔を出していた。
「レオニードくぅん。いつになったらパーティに入れてくれるのぉ?」
「悪いな、ヴァルレーツァ。君じゃまだ力不足だ」
ヴァルレーツァはレオニードに極端に近づいた。
隣の席の生徒を無理やり追い払い、その椅子をぴったりと横に寄せる。
そして彼の襟元あたりを、指先でぐりぐりと撫で始めた。
正直、見ていられない光景だった。
けれど誰も声をかける者はいない。
ただ「変な奴と変な奴が、また変なことをしている」と、遠巻きに見られているだけだった。
「つれないですわぁ。でも、そんなところも、ス・テ・キ。芯があって強い殿方ってぇ、最高ですわぁ」
周囲の様子など気にも留めず、ヴァルレーツァはレオニードの頬に口づけをしようと身を乗り出した。
「やめないか。みっともないぞ」
意外にも、それは彼自身の手によって阻まれた。
ヴァルレーツァの顔面が、鷲掴みにされた。
「あのぉ……レオニードくぅん?」
その声には戸惑いが滲んでいた。
明確な拒絶というより、邪魔な物を避けるような、淡々とした仕草。
人間扱いされていない。
そう感じてもおかしくない行動に、彼女の思考は停止した。
そこに助け舟を出したわけではなかったが、
「レオニード君。女性の顔に触れるのは、紳士のすること?」
「えっ……あぁ……そうだな」
マルキュナがレオニードを睨みながら言った。
彼は手を離し、ヴァルレーツァに向かって軽く頭を下げた。
「すまない。ついやってしまった。人のことを淑女だなんだと言える立場じゃないな。俺が、酷い真似をした。許してくれ」
「あぁ……はぁい。大丈夫ですわぁ……失礼いたしましたわぁ」
ヴァルレーツァはまだ少しぼんやりしたまま、周囲を見回すと、ふらりと立ち上がって教室の外へ去っていった。
その頃にはもう、レオニードはいつもの調子で黒板をじっと見つめていた。
「レオニード君。あんなことしちゃダメだよ」
マルキュナが再度詰め寄ると、彼は「なんだ?」という顔でこちらを向いた。
そしてその第一声で、マルキュナは全てを諦めた。
「マルキュナ、聞いてくれ! ちょうど今、やりたいことができたんだ!」
そんな彼の「やってみたいこと」が何だったのか、それが分かったのは、一か月後のことだった。




