第6話
マルキュナは一つ前の席の少女、クラリーンと仲良くなったのだ。
出身地は違えど地方出身らしい。
クラリーンは多少裕福な家柄だったが、それが障害になることはなかった。
お昼になると椅子をマルキュナに向け、一緒にご飯を食べる仲になっていた。
「マルっちー。レオっちが、また女の子からちょっかいかけられてたねー」
クラリーンは明るい金髪を大きくウェーブさせた髪を肩まで流していた。
その髪を後ろに軽く払い、果実水の入った水筒を飲みながら、話しかけてきた。
マルっちというのはおそらくマルキュナを指す。
レオっちはレオニードを指しているのだろう。
マルキュナはすでに食べ終えた食事の片付けをしながら、レオニードの方を見た。
お手洗いにでも行っているのか、そこに彼の姿はなかった。
そして安心したように小さく息を吐く。
「そうだね。顔は良いからさ、みんな興味あるんだよ」
「でも、貴族でもないんだよぉ? みんな変わってるよねぇ。わざわざ相手にするぅ? 何か得あるぅ?」
それは嫌味でもなく、ただの事実だった。
レオニードの出自は貴族ではない。
そもそもの話、『彼が誰』なのか、それすら誰も分からなかった。
分かるのは性別と、おそらく同い年であるということだけだった。
レオニードに興味を持った貴族たちはみな躍起になって調べ上げ、結果として『貴族ではない』と結論付けるしかなかったのだった。
「私は彼が貴族じゃなくてよかったなって思ってるけどね」
「そうなの? まぁうちら地方の民じゃ、あれで横暴だったら手もつけらんないもんねぇ」
「そうじゃないよ。なんとなく、貴族じゃなくてよかったなって思っただけ」
「うんうん。分かるー!」
クラリーンは時折このように適当な相槌を打つ。
それに意味はないのだろうが、マルキュナはどこかそこに違和感を感じていた。
それは決して埋まることのない距離感。
もしくは、これが過ごしてきた環境の差なのだろうか。
そんな様子のマルキュナの額を、クラリーンが右手の人差し指でツンと突いた。
「ほらー。また考え事してるー。皺になっておばあちゃんになっちゃうぞっ?」
「もー、跡になっちゃう」
マルキュナは額を右手の平で擦る。
クラリーンはそんな様子を見て笑った。
「でもさ、もし本当に『勇者』だったらどうする?」
「え?」
「だってさ、勇者だった方が面白そうじゃない?」
「面白そうって、魔王かもしんないじゃん」
「まーねー。でも彼が魔王って感じする?」
マルキュナはレオニードの魔王の姿を想像してみた。
それは実に抽象的だった。
黒い服に身を包み、角が生え、口が頬まで裂けている。
「……はははっ! なにそれ、変なのー!」
「あー、出た。マルっちの妄想」
「もー、変なこと想像させないでよ! あー、おかしい」
マルキュナは淑女らしく声を落ち着けようとした。
しかし魔王姿のレオニードを思い出しては、噴き出してしまう。
そんな中、教室にレオニードが帰ってくると、できるだけ笑うのを我慢していたが、
クラリーンが、
「……魔王レオニード」
と前の席からマルキュナにだけ聞こえるように囁き、それを邪魔した。
そして、この何気ないやり取りが、後の悲劇を生んだ。




