第39話
程なくして、
『愛しくる濃いの味パフェ』が、机の上に置かれた。
それは座っていると首を後ろに反らさないと天辺が見えないほどの高さだった。
グラスの縁まで溢れんばかりに盛られた生クリームの山。
真ん中を境に、右側は苺ソースが流れ落ち、左側はチョコソースが絡みついている。
その境界線には、青と金色の小さな花びらが無数に散らされ、トップにはハート形の焼き菓子と、砂糖細工の二羽の小鳥が寄り添うように飾られている。
明らかに一人では食べきれない。
いや、二人でも無理そうな量だった。
「えー……すごーい……」
マルキュナは驚きがそのまま声となってこぼれた。
素直な感想だった。
頼んだからには楽しみじゃなかったというと嘘になる。
甘いものが嫌いな女子などいない。
お祭り騒ぎを圧縮したらこれになると言われても納得がいくそれは、食べたらどんな味がするのだろうという好奇心が勝ってしまった。
だが、苦難はここから始まる。
机に置かれている長めのスプーンは一つだけ。
人間は二人。
できることといえば三つだった。
食べさせ合うか、交互に食べるか……かぶりつくというのも手ではある。
しかし店のおしゃれな雰囲気の中、野蛮なことはできそうにもない。
かぶりつくはなくなった。
店内のプレッシャーも大きい。
周りを見渡すと用意されたかのようにカップルだらけ。
そしてそのカップルが一様に食べさせ合っている。
圧倒的な違和感。
これが当たり前なんだぞと訴えかけてきている。
以前はそんなことはなかった、つまりは……
「やられた」
これは私を嵌めたんじゃない。
もちろん嵌められてはいるんだが、ターゲットはレオニードだ。
彼にそういうものだと思わせて、誘導する。
そういう作戦だと理解した。
マルキュナは机の上に置かれたスプーンをじっと見つめた。
やらねばならないのだろう。
そして店員が横にやってきた。
「それでは、ラブラブカップルトキメキ度チェックー!」
周囲のカップルたちが店員の掛け声を合図に一斉にこちらに向き拍手した。
逃げられない。
退路を断たれた。
そう感じ、スプーンに手を伸ばした。
「なんだ食わないのか?」
そのスプーンをレオニードがさっと手に取り、パフェを掬い、自身の口に運んだ。
「おー、旨いな! マルキュナも食べてみろ! ほら!」
そう言うと、レオニードは何の気なしにパフェを掬い、マルキュナに向けてきた。
この男はこういう人間だった。
おそらくこの行為も一切こちらが考えている意図はない。
ただ恥ずかしがっているのは私だけなのだ。
マルキュナは目を閉じ、口を開ける。
「あーん」
自然と声が漏れてしまった。
その舌先にスプーンが優しく置かれた。
冷たさと甘さが口に広がった。
口からスプーンがゆっくり引き抜かれる。
マルキュナは目を開けると、周りから盛大な拍手が舞う。
なぜかレオニードの顔面は真っ赤になっていた。
「ラブラブカップル成立です! 本日は無料! ごゆっくりー!」
そう言って店員は去っていった。
意味もなく辱められた気がしたが、レオニードには一泡吹かせた感じはしたので良しとした。
それ以上にパフェが美味しすぎたというのもあった。




