第31話
はい、当たりました。
放課後間近、教室の空気が少し緩みかけたそのとき、フルッツェラ先生がドアを開けて入ってきた。
いつもならここで明日の予定や連絡事項を確認して終わるはずだった。
今日もいつも通りそんな流れがくるのだろうと思っていたが、先生の口から飛び出たのは想像していたそれではなかった。
「今日は急遽ですが、転入生を紹介します。入って」
先生が促すと、ドアの向こうから入ってきたのは、黒髪を腰までまっすぐに伸ばした、制服のスカートを翻す少女だった。
化粧をしていたものの、シェルミルだとその顔立ちから分かった。
彼? 彼女? は先生の横に立ち、クラス全員の注目を一身に浴びながら、頭を下げた。
「シェルルーシュって言いますっ! 今日からよろしくねっ!」
いつもよりもワントーン高い声が聞こえてきた。
完璧に女の子らしい笑顔と仕草に、教室はどよめいた。
おそらくこれが彼の言っていた秘策であり、彼の思う理想の女性像なのだろう。
マルキュナは「そう言えばシェルミルのことをよく知らなかったな」と思っていたが、輪をかけてよく分からなくなった。
教室はそんなマルキュナのことなどよそに盛り上がり、
男子たちは目を輝かせ、
「えっ、マジで可愛くね……」
「ちっせー、めっちゃ好みだわ」
「俺と浮気してくれねーかな……」
女子たちは黄色い声を上げ、
「きゃー! 超かわいいー!」
「こっち見てー! おいでー!」
「お姉さんたちと着せ替えっこしよ?」
などと思い思いの心の内をさらけ出していた。
教室中が一気に華やいだ。
ただ二人だけ、明らかに温度の違うまなざしの向け方をしていた。
一人目は、もちろんマルキュナ。
もう違和感を抱きすぎて感覚が麻痺しかけている彼女は、ただ呆然とその姿を見つめていた。
もう一人は、
「ねぇ、あの子ってさ……なんか男の子っぽくない?」
クラリーンだった。
小声で、こちらに顔を寄せてきた。
「え……そう……? かな……?」
何を言っても墓穴を掘りそうだったので、一旦知らないふりをしようとした。
それでも声と表情に限界が来ていた気がする。
クラリーンの顔を見る目が若干引きつっていたのが分かった。
「あー、変なこと言っちゃったね。ごめん」
「いいの、確かにちょっと男の子っぽい? 髪が黒いからかな?」
何を言ってるのか。
クラリーンは「かもねー」と言いながら正面に向き直した。
「席はレオニード君の前にしましょう」
フルッツェラ先生が指差した先は、偶然というより、完全に必然的に空いていた席だった。
なぜこんなにも都合がよく……。
そんなことは考えても仕方がなかった。
これもきっと「勇者症候群」か何かなのだと。
都合がよく使われるなら、こちらも都合がよく解釈をしてやろう。
シェルミル、いやシェルルーシュがこちらに手を振って近づいてくるのを視界に入れながらそう決めた。




