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「俺は勇者だ!魔王を倒すぞ!」 ~チート勇者と巻き込まれヒロインの奮闘記~  作者: 川合 佑樹


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第30話

 マルキュナがシェルミルに連れてこられたのは、学校の屋上だった。


 昼休みの陽射しが、雨上がりの屋上を照らしていた。


 朝まで降っていた雨はすっかり上がり、床のタイルは乾いて暖かく、春の柔らかい風が頬を撫でる。


 今日は珍しく日差しが強く、屋上全体がほんのり熱を帯びているような心地よさがあった。


 柵で囲われた広いスペースには、昼休みの学生たちが思い思いに座っていた。


 女子たちと男子たちのからかい合う声があちこちで飛び交っている。


 人気がないところに行くと言っていたわりには、予想以上に賑やかで人目につきやすい場所だった。


 けれどシェルミルはそんなことなど全く気にしていない様子で、近くのフェンスに背中を預けて腰を下ろした。


 そして自分のすぐ横の床を、叩く。


「座って」という眼差しに引き寄せられ、マルキュナは何も言わずにその隣に腰を下ろした。


 傍から見れば、仲の良い恋人同士か。


 いや、年の離れた姉弟かもしれない。


 もしくは、姉妹に見えるかもしれない。


 そんな中、シェルミルがそっと上目遣いにこちらを見てきた。


「お話があります」


「うん、だから来たんだけど」


「……おす」


 瞬間、シェルミルの肩が縮こまった。


(……あ、まずった)


 何も口を挟まない方がよかったのかもしれない。


 きっとシェルミルなりの、ちゃんとしたプランがあったのだろう。


 それをたった一言でぶち壊してしまったことに、彼の表情を見て気づいた。


 勇者パーティのメンバーって、なぜこうなのだろう。


 レオニードは人の話を聞かない。


 プルメィラは簡単な会話すらかみ合わない。


 エリフィアナはいつも楽観的すぎる。


 そしてシェルミルは、こうして言葉が詰まる。


 これで本当にパーティとして上手くやっていけるのだろうか……?


 気がつけば口を開いていた。


「ゆっくりでいいから、話してよ」


 なぜ自分がこうしてアシストしているのか、自分でもよくわからない。


 でもいつの間にか、「仲間」という意識が芽生えていた。


「どうせ勇者のことなんでしょ?」


 こうなったら覚悟を決めるかと、もう一言付け加えた。


 シェルミルは深く息を吸い、静かに吐き出した。


 ごく普通の深呼吸だったが、マルキュナはそこに魔力の動きを感じ取った。


 灰色の空間でエリフィアナに叩き込まれた過酷な訓練の成果。


 魔力の流れに敏感になった目が、彼の体内で整然と渦を巻く魔力を捉えていた。


 それは武闘家としての呼吸法。


 一呼吸ごとに体内を巡る魔力が乱れを失い、研ぎ澄まされ、安定していく。


 シェルミルはもう一度、息を整え、


「その……ですね」


 シェルミルは少し声を落とし、言葉を選ぶように続けた。


「勇者は、魔王なんです」


 知ってます。


 その説明はもう三回目なので。


 とは言えなかった。


「うん……プルメィラさんも、そう言ってた気がする」


「そうなのですね……では、話が早い。実はマルキュナさんはその影響から狙われているんです!」


 それも知ってます。


「ええと……たしかこの間、エリフィアナと休日に出会って、そんなことを言ってた気もするような……」


「そうでしたか……では、これももう知っているのかな」


 知ってそうだった。


「教えてくれる?」


「はい。僕はこの国の暗殺部隊の構成員なのですが、マルキュナさんはこの国の王女から狙われているんです」


「へーそうなんだ」


 全く知らない情報が飛んできた。


 ちょっと待ってほしい。


 ただ普通に生きてきた平凡な家庭環境から、少なくとも三大派閥から狙われることってある?


 魔王、勇者、王女……王女!?


「あの、なんで私が王女から狙われているの?」


「王女は、勇者と結ばれることを強く望んでいらっしゃるんです。その障害になると判断されたマルキュナさんを……排除したいと考えているようです」


 排除、か。


 ずいぶんストレートな表現だ。


「うん、なんとなくそんな気がした」


 驚きよりも、むしろ「またか」という諦めが先に立っていた。


 人間図太くなるのって早いものなのだなと。


「それでですね!」


 シェルミルは声を明るくした。


「つい先ほど、エリフィアナさんと相談しまして、僕も四六時中、マルキュナさんの警護に当たることになりました!」


「四六時中って」


「はい。登下校、授業中、就寝など全てです!」


「ちょっと待ってよ、あなた男でしょ? 寮には入れないじゃない」


 シェルミルは自信満々に胸を張った。


「大丈夫です! 秘策があります!」


「秘策って……」


 どことなく嫌な予感がした。


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