第26話
マルキュナは灰色の空間の中で、魔法を唱え続けていた。
「パーセプション!」
「アラクリティ!」
「ストレングス!」
感覚を極限まで研ぎ澄まし、身体を加速させ、筋肉を鋼のように硬くする魔法が発動した。
合わせて黒い影たちが、靄のような触手を伸ばして次々と襲いかかってくる。
避けることが難しく、執拗に攻めてくる。
受けると打撃の衝撃が骨にまで響く。
マルキュナはできるだけそれを躱し、捌き、拳で弾き返した。
そんなことがすでに数えていられないほどの時間繰り返されていた。
重ねてここがどこかすら、マルキュナは分からなかった。
あの路地でエリフィアナから「すまないな」と言われた直後だった。
彼女はただ一言、
「強くなれ」
とマルキュナに告げた。
その言葉と共に、机の上に魔法道具が影によって置かれ、即座に発動した。
気がつけばマルキュナはこの空間にいた。
ただ灰色の空間。
エリフィアナはおらず、その代わりに影たちが周りに立っていた。
「あの……これは」
影はその質問の答えに対して、攻撃で示してきた。
正面から靄が伸び、マルキュナの頬を攻撃した。
吹き飛ばされ、床を転がった。
即座に他の影が集まり、マルキュナの回復を行った。
そして体を持ち上げられ強制的に立ち上がらされる。
「なんで……」
今日はもう疲れたから帰りたかった。
次に学校でクラリーンに会ったら、『ありがとう』と『ごめんね』と言おうと思っていた。
その矢先、またこんなことに巻き込まれる。
しかし覚悟するしかなかった。
こうなった時のこの世界は私のことなどなんとも思っていないのだと。
きっと私の『役割』とはこういうものなのだと。
そんなことを考えている内に、もう十度は地面に転がされていた。
ふっきれた。
その言葉が似合うほどの咆哮が口から出た。
「ふざけんじゃないわよおおおおお!」
不格好に拳を振り回す。
影は横から足元に靄を伸ばし、マルキュナを簡単に転ばせた。
「ぐへっ」
カエルが潰れたような声が出た。
拳を地面に叩きつけて立ち上がる。
「誰がやった?」
マルキュナは周囲を見渡した。
見た目から区別がつくわけはなかった。
だが、どことなく鼻から感じ取った。
個別の匂い。
それを頼りに地面を蹴り、真後ろの存在に体を返しながら殴り寄った。
距離を取られ当たらなかった。
しかし周囲の圧力はどこか減った気がした。
おそらく彼らが伝えたいのはこうだ。
(戦い方を教えてやる)
それからずっと。
腹は減らず、眠気もこない。
受けたダメージは即座に癒され、魔法を放つ速度も、判断力も、身体の操作も、確実に上がっていくのを感じていた。
なら強くなってやる。
殺意と冷静が混じり合いながら、彼女は拳を握りしめていた。




