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「俺は勇者だ!魔王を倒すぞ!」 ~チート勇者と巻き込まれヒロインの奮闘記~  作者: 川合 佑樹


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第24話

 二人は、路地を駆け抜けながらスリを追いかけていた。


 徐々に、マルキュナの思考がはっきり戻ってきた。


 せっかくの休日。


 友達と過ごす、楽しい時間。


 それさえも、奪われた。


 その事実に気づいた瞬間、


「アラクリティ!」


 マルキュナはクラリーンのすぐ後ろで、俊敏性強化の詠唱を放っていた。


 体が加速し、地面を蹴って前方へ飛び出す。


 その刹那。


 路地の影から何者かが飛び出し、マルキュナの体を暗がりへと引きずり込んだ。


「クラリーン!」


 叫びは虚空に吸い込まれる。


 腰を何かに掴まれ、地面から浮かされた。


 壁からも遠ざけられ、抵抗する間すら与えられない。


 視線を下げると、黒い靄のようなものが腰に巻きついていた。


 引き剥がそうとしても指はすり抜け、触れることすらできない。


 そのまま路地を何度も曲がり、行き止まりの奥深くまで宙づりにされたまま運ばれる。


 そこで体は止まり、地面に下ろされた。


 屋根の上から、声が降ってきた。


「悪かったな。だが、街中で魔法を使うな。捕まるぞ」


 声の主が音もなく地面に降り立った。


 エリフィアナだった。


 その周囲に、十を超える黒い靄が立っていた。


「存在している」というより、「立っている」と表現する方がしっくりくる、捉えがたい不思議な佇まい。


 人の形をしているようだが、はっきりとは捉えられない。


 野外演習で感じた、あの監視の気配。


 おそらく、これがその正体なのだろう。


 エリフィアナが周囲の影に向かって、軽く手を横に振った。


 指先が素早いサインを送っているように見えた。


「下がっていいぞ。周囲の監視を頼む」


 おそらくそんなことを伝えたのだろう。


 影たちは、音もなく溶けるように闇に消えていった。


「マルキュナ、もうなくすなよ」


 彼女はそう言いながら、ポケットから何かを投げてよこした。


 それは紛れもなく、先ほどスリに取られたはずの財布だった。


「これ……どうして?」


「どうしてって、仲間だからだろ?」


「……そっか。ありがとう」


「方法」を聞いたのに、「理由」で返されるのが、勇者パーティらしいと思ったが、それは口には出さなかった。


 それ以上に、ここに財布があるのなら、今頃クラリーンは何を追いかけているのだろう、という疑問が頭に浮かんだ。


 マルキュナはその財布をポケットにしまった。


「せっかくだし、俺と話そうぜ」


 エリフィアナが指を鳴らすと、再び影が現れ、たちまち机と椅子が用意された。


 前にも見た光景だと思いながら、マルキュナは大人しく腰を下ろした。


 お茶とお菓子はないが、話を聞かないと終わらないんだろうなと。


「それで、どこまで知ってる? プルメィラに野外授業で多少は状況を聞かされたんだろ?」


「勇者が……魔王だって話くらい、かな……」


「なるほどな。聖女については?」


 マルキュナは首を横に振った。


「そうか……どうすっかなぁ。この件は俺に一任されてるんだけどよ」


 周囲の空気が、一段階重くなった気がした。


 マルキュナはたまらず口を開いた。


「言いたくないなら、言わなくていいんじゃない?」


「そうしたいんだけどな……ひとまず伝えておくべきことがある。聖女ってのは、エリフィアナっていうのは『コードネーム』なんだ。聖女みたいなことをする奴らはみんなエリフィアナって呼ばれる。この国には少なくとも、その名を持つ者が十三人いる」


「十三人も……?」


「そうだ。それ全部が聖女でエリフィアナだ。んで、それにさっきの影みたいなのが人数分いてだな。それぞれが現在もこの国のために働いている。何してるかはあんまり知らねーけどな」


「それが……何か関係あるの?」


「これはまだ自己紹介みたいなもんだ。聖女っつー役割を全うするだけだからな。俺が死んだら他の誰かが代わりに来る。それを知っておいてほしいんだ。俺の後釜は俺の意思を継いでいる。その時は仲良くしてやってくれ」


 死ぬ。


 護衛と監視がこれだけ揃っている中で、一番かけ離れた言葉に聞こえた。


 ただそれほどの現実がこれから話す内容に含まれているのだろうと、手の中に汗をかき始めていた。


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