第23話
席に着くと、マルキュナはメニューを開いた。
しかし値段を見ているだけで頭が痛くなりそうだったので、クラリーンに全てを任せることにした。
(足りなければ後で頭を下げよう……)
ほどなくして、注文したスイーツが運ばれてきた。
見たこともない果物が山盛りにのった、鮮やかなケーキが二種類。
店側が気を利かせて、どちらもきれいに半分ずつに分けてくれていた。
「わぁ……! マルっち、これ見て! 宝石みたいじゃない!?」
クラリーンが目を輝かせてフォークを構える。
マルキュナは自分の前に置かれた半分をじっと見つめたまま、そっとフォークを刺した。
一口運んだ瞬間、甘さが舌全体を優しく包み込んだ。
「んっ……!」
思わず声が漏れた。
「どう? どう!?」
「……すごい。舌の上で溶けた。そのまま舌も溶けそう」
マルキュナはもう一口進めた。
濃厚なのに、どこか軽やかで、胃が喜んでいるのがわかる。
「でしょでしょー!」
クラリーンが満足げに笑いながら、自分のケーキを頬張る。
「んーっ! やっぱり最高! マルっちももっと食べて!」
「うん……食べる」
マルキュナは、昔母が言っていた言葉を思い出した。
『甘いは美味い』
その通りだった。
「ふふっ、なんか顔緩んでるよ、マルっち」
「うるさい……」
照れながらも、フォークは止まらない。
二人は交互に感想を言い合いながら、ケーキを半分ずつ分け合った。
甘いものに目がないクラリーンと、初めて本物の贅沢を知ったマルキュナ。
その時間は、ほんの少しだけ、彼女の日常を輝かせていた。
ケーキを堪能し終え、クラリーンが注文した紅茶を飲み干すと、二人は店を後にした。
再び賑やかな街道を歩き始め、マルキュナはふと思い至った。
(あれ……? 私、お金払ってない……)
慌てて制服のポケットから財布を取り出そうとすると、クラリーンがその手を止めた。
「お嬢さん、ここは私が」
「だから、払うって言ったのに……」
「いいのいいの。恩に着ないで。正直助かってるんだよねっ。地方組っていってもピンキリでしょ? 協力し合える友達っていうのかな? うちはマルキュナに、知らないところでいっぱい助けられてるから、これはそのお礼!」
断り切れなかった。
正直、メニューを見た時点で払えるかどうか不安だったのも事実だった。
「払う」と言った手前、申し訳なさと恥ずかしさが込み上げてくる。
こういうところで、友達付き合いってなくなっていくのかもしれない……と、気持ちがざわついていた。
どこかでこの礼は必ず返そう。
マルキュナはそう、心に強く刻んだ。
そんなことを考えながら歩いていると、突然後ろから強い衝撃が走った。
「痛っ!」
振り返ると、そこにいたのは腰ほどの高さの子供だった。
服は汚れ、街の華やかさとは明らかに浮いた雰囲気。
子供はこちらの顔を見て、すぐに踵を返して全力で走り去っていく。
「マルキュナ! 財布取られてない!?」
財布……?
マルキュナはポケットを叩いた。
さっきまであったはずのふくらみが、消えていた。
盗まれた。
その言葉が頭の中で何度も回る間もなく、クラリーンはすでに子供を全力で追いかけ始めていた。
マルキュナはまだ状況を完全に飲み込めていなかったが、咄嗟にその後を追った。
楽しい休日は、こうして緩やかに――いや、かなり急に――終わりを告げた。




