第17話
マルキュナがレオニードとの決別を決意した翌日。
教室にいる間、彼女は彼の姿を極力視界に入れないよう努めた。
授業中はもちろん、休み時間も、できる限りクラリーンと話をしていた。
最近あった面白い話だったり、スイーツの話だったり。
とはいえマルキュナ自身は外に出かける余裕などなく、結局はクラリーンの楽しげな報告を一方的に聞くだけだった。
クラリーンも、マルキュナが意図的にレオニードを避けていることに気づいているようだった。
けれど、それについて一切触れようとはしなかった。
午前中の授業が終わり、午後の授業が始まる。
今日の授業は野外学習。
「魔界」と呼ばれる場所への実地演習だった。
王都の門を出てからわずか十分。
魔物が生息する危険地帯。
見た目はただの森に過ぎない。
それがかえって、不気味だった。
普通の森なら、鳥のさえずりや小動物が葉ずれを起こす音が響くものだ。
ここにはそれがほとんどない。
代わりに、どこか遠くで木の幹が軋むような、呻き声が響いている。
「これから魔界に入る! 班決めを行え!」
フルッツェラ先生の声が響き渡った。
この授業は三学年合同で行われる。
王都近郊の魔界は冒険者たちによってある程度間引かれているため比較的安全だった。
学長は慎重を期して、毎年希望する二年生と三年生を同行させることにしていた。
とはいえ、参加するだけで評価が上がるため、人数はそれなりに多かった。
みんなが集まっている中にはちらほら見える程度だったが、すでに森の中で探索を始めている先輩がほとんどだった。
彼らの役割は監視と、度を超えた危険の排除。
積極的に魔物を討伐するわけではない。
「よろしくねー!」
「今日は頑張ろうねー!」
周囲でそんな明るい声が飛び交う。
クラスメイトたちは自然と仲の良い派閥同士でグループを組んでいく。
普段からレオニードの世話ばかり焼いていたマルキュナは、友達の数が少なく、こういう時に頼れるグループがなかった。
「……もっと交流だけはしておけばよかった」
ぼやいたものの、たとえ交流があったとしても、身分の差は簡単には埋まらない。
結局、似たような状況になっていただろうな。
マルキュナはクラリーンの姿を探したが、見つからず、ため息をついた。
そのとき、後ろから明るい声がした。
「おー、探したぞ!」
振り返ると、そこにいたのはエリフィアナだった。
「マルキュナちゃん! こんなところにいたのかい?」
「マルキュナさん、こんにちは」
その横にはプルメィラとシェルミルも立っていた。
そして、その後ろからレオニードが割って入るように顔を出す。
「マルキュナ! 勇者パーティの完成だ! 今日は魔物を借り尽くしてやろうな!」
昨日の出来事など一切忘れたかのような、輝く笑顔だった。
その手には、木の棒が握られている。
「それでは決まったな! 森に入るぞ! 各自二時間の探索を許可する! 回復の先生も連れてきている、遠慮なく戻ってこい! 何かあれば魔法でも魔石でもいい、すぐに合図しろ!」
マルキュナが答える間もなく、フルッツェラ先生の合図で魔界の探索が始まった。
「いざ、出陣!」
その掛け声はレオニードからではなく、右手を高く掲げたプルメィラから発せられた。
「「「おー!」」」
レオニード、エリフィアナ、シェルミルがそれに続き、揃って右手を掲げた。
マルキュナは少し後ろからその様子を見守り、結局彼らについていくことにした。
(授業のため、評価のため……しょうがない)




