第14話
そして辿り着いたのは、新聞部。
数室隣の部室だった。
つまり、それなりに「格の高い」部活だということだ。
そんなことに気づいているのはマルキュナくらいで、レオニードはノックもせずにドアを開けた。
「入るぞ! 頼みがあって来た!」
部屋の広さは同じだったが、机と資料の山、本棚、写真機材が所狭しと並んでいた。
席に座って原稿を書いていた男子部員が十名ほどと、黒板に何かを書き込んでいた生徒が、一斉にレオニードへ顔を向けた。
「武闘大会を開く! その宣伝を頼みたい!」
レオニードは部屋に入りながら、さらに大きく宣言した。
断られるはずがない。
そんな態度が丸見えだった。
自覚がないところが本当に厄介だ。
黒板に文字を書いていた生徒が、穏やかに答えた。
「やあ、レオニード君。急な要件だけど、話は聞こう。まず、武闘大会って何かな?」
「武闘家を集めて戦わせる大会だ。その宣伝をしてほしい」
生徒は首を横に振った。
「悪いけど、うちは伝統ある部だよ。いきなり来て宣伝をねじ込むなんてことはできない。きちんとした手続きを踏んでくれれば検討するけど」
「手続きとは?」
「まずは大会が本当に開催されるのかが不明だ。そんな話は学校側から一切入ってきてない。嘘だったら宣伝なんてできない。あと、大会の知名度次第かな。宣伝する価値があることを示してくれないと、他の記事を下げてまで載せる理由がないんだ」
マルキュナは心の中でガッツポーズした。
(あれ? これ、勝てるんじゃ……? 頑張れ、部長さん!)
しかし、次の瞬間。
明らかに不可解で、でもどこか「当然」のように感じてしまう現象が起きた。
レオニードが部長に近づき、肩に手を置いた。
「はっはっは! 難しいことを言うなよ。俺は勇者だ。できないことなんてない。そうだろ?」
そして部長の肩を引き寄せ、鼻と鼻が触れ合いそうな距離で目を覗き込んだ。
「君はここの部長だったな? 先日も話したよな」
「ああ、そうだ。先日は驚いたよ。部室を明け渡せだなんてね。今も驚いてるけど?」
「良い目をしている。正直、君みたいな真面目で優秀な人間が、ただ『毎年いる部長』の一人として終わるのはもったいないと思ってるんだ。将来は何を目指してるんだ?」
「卒業したら新聞社に就職が決まってる。そこで編集長になるのが目標かな」
「そうか。いい未来だな。でも、今のままじゃ無理だ」
「どういう意味だい?」
レオニードはさらに顔を近づけた。
「箔が足りない」
「箔……? 魔法学校の栄誉ある新聞部の部長は、歴代みんな新聞社で編集長になってる。そんな僕に不足があるっていうのか?」
「いいのか? そのままで?」
部長の顔色が明らかに変わった。
レオニードはそれを確認すると、底冷えするような声を響かせた。
「部長は毎年いる。その部長は毎年編集長を目指す。そんな中で『栄誉』って何だ? 変わらない毎日を届けるのが新聞の仕事だとしても……本当にそれで満足か? ……毎日同じ原稿を校正して、誰かのスクープを羨ましそうに見上げて、定年まで『ああ、あの時一歩踏み出せば……』って後悔しながら過ごす人生で、本当にいいのか? 大スクープを掴んで表彰される自分を、想像したことはないか? 有名人の独占インタビューでもいい。誰にも奪えない、君だけのポジションを今、手に入れられる。これはチャンスだ。勇者である俺の側で、その歴史の瞬間を見届ける。一歩目がこれだ。武闘大会。この機会を逃しても、確かに君は編集長になれるだろうさ。でも、ごく平凡な、がつく編集長だ」
「しかし、すぐには……」
「時間はある。他を消す必要はない。そうだろ? 今、ここで一枚、俺の武闘大会の記事を一面に貼るだけでいい。それだけで君は『普通の編集長』から『伝説の編集長』に変わる。決めるのは君だ。俺はもう、君ならやってくれると信じてるよ」
レオニードは手を離し、踵を返した。
その瞬間、顔はいつもの爽やかな勇者の表情に戻っていた。
部長はその場にへたり込んだ。
勇者パーティ一行は、部屋を後にした。
扉が閉まると、エリフィアナがレオニードを振り返った。
「少々強引が過ぎたな」
そう言い残して、彼女は走り去っていった。
部室を越え、廊下を曲がり、どこかへ消える。
「強引だったか……?」
レオニードが、珍しく不安げな顔でマルキュナに尋ねた。
(聞くくらいなら最初からするなよ……!)
そう思ったが、代わりにマルキュナが出したのは、彼の背中をポンと叩く行為だった。
「レオニード君が強引じゃなかったこと、ある?」
「……それもそうか」
武闘大会が本当に始まれば、これまで以上に面倒なことに巻き込まれそうだ。
そんな思いで、もう一度だけ強めに背中を叩いた。
レオニードは不思議そうな顔をした。
マルキュナは、初めて彼に一矢報いた気がした。
(やればできるじゃん、私!)
しかしその小さな勝利の余韻は、次の日にはあっという間に吹き飛んだ。




