第12話
エリフィアナが右手を差し伸べてくる。
「ああ、よろしく頼む」
マルキュナはその手に自分の右手を重ねた。
(見た目に反して、ずいぶん優しく握ってくるんだ)
沈黙が落ちた。
エリフィアナは何を考えているのか、マルキュナの手を離そうとしない。
聖女って、こういうものなのか?
いや、こういうものってなんだ?
振りほどいていいのか?
それで傷つけてしまったら?
この図体だからそれはないか?
不敬にならないだろうか?
マルキュナは結局指一本動かせずに固まってしまった。
堪えきれなくなった彼女は、なんとか口を開いた。
「あの、エリフィアナ様は何年生なのですか?」
「俺は三年生だ。あと、様付けはよしてくれ。同じ部活の仲間だろ?」
「分か……りました」
レオニードが、眩しい笑顔を浮かべるエリフィアナを軽く押し退け、今も聖女と同じ空間にいることに困惑を隠せないマルキュナの横を通り過ぎた。
部長の席に腰を下ろし、彼は明るく声を弾ませた。
「また仲間が増えたな! 賢者と聖女! あとは前衛が欲しいところだな!」
確かに。
今は正面から戦えるのはレオニードただ一人だ。
あと一人、いや二人くらい前衛が欲しい。
なぜかマルキュナは、そんなことを素直に考えてしまっていた。
「レオニード君……もしかして本物の聖女を巻き込んだの? 本当に大丈夫? 私には分からないけど、何かあっても知らないよ?」
「マルキュナは心配性だなぁ! 何かあったら俺が助けるさ! なんてったって俺は勇者だからな!」
私の心臓を抉り続ける魔王だと言えれば、どれほどよかっただろう。
「この件は先生にも伝えておくからね。怒られても知らないよ?」
「先生にはもう言ってあるぞ! だから今日は遅れたんだ。なぁ、エリフィアナ!」
エリフィアナはレオニードに拳を突き出した。
「世界を救うためだ。努力は惜しまんよ」
「頼りになる! よろしくな!」
その後、レオニードが魔王への戦い方を語り、エリフィアナが聖典の記述で補い、プルメィラが「つまりこういうことだね」と解説を加える。
マルキュナは頭を抱えたまま、そんな光景をただぼんやりと眺めていた。
自称勇者や自称賢者までは、まだ脳が追いついていた。
しかし本物の『聖女』となると、話は違う。
これから私は武闘家に仕立て上げられるのか、それともまた別の何かになるのか。
できれば、あまり考えたくはなかった。
最近、夜はあまり眠れていない。
そんな気がしていた。




