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追放された鑑定士ですが、本当の能力は"未来の価値"が見えることでした。王国が滅びてももう遅いので、辺境で商会を作ります  作者: まつたけひめ


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第2話 辺境への旅

毎日20時頃に投稿できるようにがんばります!

王都アストリアを出て、三日が経った。


 街道は思いのほか整っていた。王国の幹線路だけあって、石畳が馬車の轍に沿って続き、要所には休憩所もある。だが王都から離れるにつれ、その整備も粗くなっていく。四日目を過ぎたあたりから、石畳は土道に変わり、休憩所の看板は傾き、すれ違う旅人の数もめっきり減った。

 

 俺は馬を一頭買い、単独で街道を進んでいた。

 

 宿での出費と馬の購入で、手持ちの金貨は二十枚を割り込んでいる。節約しながら動く必要があった。

 馬の名前は、まだ決めていない。

 

 前の持ち主が「クソ頑固で売りに出した」と言っていた栗毛の雄馬で、確かに気性は荒かったが、俺が神眼鑑定で覗いた未来では、この馬は三年後に「この大陸で最も信頼される商会の看板馬」として絵に描かれていた。

 だから買った。それだけのことだ。


「お前、名前はどうする」

 

 試しに話しかけてみた。馬は耳を動かすだけで、答えるわけもない。


「ならクロと呼ぶ。毛色は栗色だが、まあそれは気にするな」


 クロは鼻を鳴らした。不服そうでも、嫌そうでもなかった。



  *



 六日目の昼。


 小さな村に差し掛かったとき、街道の脇に人だかりができているのが見えた。

 馬を緩め、遠目に状況を確認する。


 村人らしき男たちが数人、荷馬車を囲んでいた。荷台には布が積まれているようだが、その一部が道に散乱している。どうやら車輪が外れたらしく、御者をやっている年配の男が途方に暮れた顔で腰を落としていた。


 俺は馬を止め、自然に神眼鑑定を流した。


 荷馬車に積まれた布の束。現在価値、銀貨十二枚相当の平織り綿布。未来価値――四ヶ月後、アーレント辺境の市場で銀貨三十枚以上で取引される需要品。


 御者の老人。年齢、六十二歳。寿命、残り十四年。適職――商人補佐。現在の悩み、車輪の修理費が払えない。


 俺は馬を降りた。


「手伝いましょうか」


 老人が顔を上げた。疑うような目だったが、俺が鑑定士の徽章を外した格好の、どこにでもいる旅人の見た目だと分かったのか、少し警戒を解いた。


「車輪の軸が折れちまって。修理屋のある街まで三里はあるし、ここで荷を降ろして運ぶにも人手が足りん」

「荷を預けられる場所はありますか」

「この村の集会所を貸してもらえるか頼んでみたが、村長が渋ってな」


 俺は少し考えてから、村の方向を見た。


 集会所の屋根が見える。神眼鑑定で視線を向けると、その建物が映し出された。現在の用途、集会所兼倉庫。未来――八ヶ月後、この村を拠点にした小規模な物流の中継地点として改装される。


 村長という人物の姿も、遠目に見えた。六十代、太った男。現在の悩み――村の収入が減っていること。つまり金の話をすれば動く。


「村長のところに一緒に行きましょう」


 老人は目を細めた。「あんた、旅人だろう」


「通りすがりです。でも、渋っている理由が分かる気がするので」



  *



 村長は俺の顔を見るなり、胡散臭そうな目をした。


 だが俺が「荷物を二日預けるだけで銀貨三枚」と提示すると、その表情が変わった。


「……二日で三枚か」

「ええ。修理に一日、荷の積み直しに一日。それ以上はかかりません」

「三枚は高い」

「では二枚でも構いません。ただ、もう一つお願いがあります」

 俺は村の外れに広がる畑に目を向けた。神眼鑑定が、そこに映るものを俺に教えていた。畑の端に、刈り取られずに残っている雑草の束。現在価値、ゼロ。未来価値――三年後に万能薬の素材と判明し、金貨換算で相当の値がつく植物。

「あの畑の端に生えている草を、少し分けていただけますか。旅の途中で薬草を採取する趣味がありまして」


 村長は拍子抜けした顔になった。「あんな雑草でいいのか」


「ええ、あれで十分です」

「……好きなだけ持っていけ。どうせ邪魔なだけだ」


 取引は成立した。

 老人は少し呆然とした顔で俺を見ていた。


「あんた、いったい何者だ」

「ただの旅人です」と俺は答えた。「通りすがりの」



  *



 雑草を荷物に加え、再び街道へ。


 この植物が万能薬の素材と判明するのは三年後だ。それまでは「ただの草」として扱われる。だが、俺の目には確かに見えていた。


 適切な乾燥処理をすれば長期保存が効く。三年後、薬師ギルドがその成分に気づいたとき、大量に持っているのは俺だけになるはずだ。


 商売というのは、結局のところ、他の人間が気づいていないものに先に気づくことだ。


 俺の神眼鑑定は、その「気づき」を時間ごと与えてくれる。

 三年間、それを誰かのために使ってきた。

 これからは、自分のために使う。



  *



 八日目の夕刻。


 街道が森に差し掛かったあたりで、前方に複数の気配を感じた。


 俺は馬を止めた。


 戦闘力は並みだ。それは自分でも分かっている。鑑定士として三年間パーティーに同行してきたが、剣の腕はせいぜい市井の衛兵程度で、魔法は簡単な補助系しか使えない。


 だが準備はしてある。


 森の入り口に差し掛かる前に、神眼鑑定で周囲を流し見る。


 街道脇の茂み、三カ所。人間、四人。現在の状態――待ち伏せ中。武器、短刀と棍棒。目的、旅人への強盗。未来――このまま活動を続ければ、二週間後に王国騎士団の討伐を受けて全員捕縛される。


 俺は荷物から、小さな袋を二つ取り出した。


 一つは強烈な刺激臭を放つ薬草を乾燥させたもの。魔物除けとして売られているが、人間にも効果がある。もう一つは、発煙する素材を混ぜた火打ち石用の粉。


 どちらも、旅の前に王都の市場で買っておいた。「この街道では八日目に強盗が出る」と神眼鑑定が教えていたから。


 馬を木に繋ぎ、俺は荷物を持って茂みの外側を大きく迂回した。

 五分後、街道を抜けていた。

 背後で、誰かが俺の姿を探して茂みをごそごそしている音が聞こえた気がした。


 俺は歩きながら、小さく息を吐いた。

 これでいい。争いは好まない。相手が怪我をするのも、俺が怪我をするのも、時間の無駄だ。

 知識と準備があれば、たいていのことは避けられる。



  *



 十日目の朝、小さな宿場町で一泊した。


 宿の食堂に入ると、冒険者らしき男たちが数人、騒がしく話していた。


「聞いたか、ダンジョンの話」

「ランベルト山のやつか? 魔物が増えてるってな」

「増えてるどころじゃない。Bランク以上の魔物が平地まで出てきてるらしい。近くの村が二つ、避難したって話だ」


 俺は食事を取りながら、さりげなく耳を傾けた。


 ランベルト山。アーレント辺境への道中に存在するダンジョン。神眼鑑定で把握している情報では、そのダンジョンは今後三年間で急速に拡大し、周辺の街道が一時的に封鎖される。


 だが今は、まだそこまで危険な状態ではない。俺の目には、現在の脅威レベルが映し出されていた。街道から距離を取れば通行は可能だ。


 問題は、多くの旅人がこの情報を聞いて迂回路を選ぶことで、街道が混雑するということだった。


 俺は地図を広げた。


 迂回路は一つ。だが、その道は来年の初夏に橋が崩落する。今使うぶんには問題ないが、頭に入れておく必要があった。


 食事を終え、宿の主人に声をかけた。


「ランベルト山の方向に向かうのは危ないですか」

「一人旅ならおすすめしないね。でも街道を外れなきゃ、今のところは大丈夫らしい。今朝も冒険者のパーティーが通ったよ」

「分かりました。ありがとうございます」


 俺は部屋に戻り、地図に書き込みをした。

 現時点でのランベルト山の危険域。安全な通行ライン。念のための退避ポイント。そして、一年後に橋が落ちることへの備忘。

 この記録が、いつか役に立つ日が来る。俺の目には、それが分かっていた。



  *



 十三日目。


 空が広くなってきた。


 王都周辺の密度のある森と耕作地が遠ざかり、代わりに起伏のある荒野と、遠くに連なる山脈のシルエットが見え始めた。


 これが辺境の入り口だ。


 道行く人間の数がさらに減り、すれ違うのは行商人か、冒険者か、訳ありの旅人ばかりになった。俺は馬を歩かせながら、周囲の風景を神眼鑑定で流し続けた。


 荒れた土地。現在価値、農業には不向き。未来――排水路を整備すれば、五年後には主要な穀倉地帯になれる土地。


 放棄された小屋。現在価値、廃屋。未来――修繕と改装次第で、街道沿いの優良な宿泊施設になれる立地。


 枯れかけた泉。現在価値、ほぼゼロ。未来――地下水脈の上に位置しており、適切な掘削で豊富な水源になる。


 何もない、と人は言う。


 だが俺には、この荒野が無限の可能性で満ちて見えていた。


 他の人間が「廃れた辺境」と呼ぶこの場所に、俺は最初から別のものを見ていた。


 値段のついていない価値。気づかれていない才能。誰も掘り起こしていない資源。


 三年間、勇者のパーティーで誰にも認められなかった。


 だがここでは、俺が唯一の鑑定士だ。


 競争相手もいない。比べる基準もない。


 ただ、自分の目が見えるものを、正しく評価する。それだけでいい。


 馬のクロが、ふいに速度を上げた。


 前方に、小さな町の輪郭が見え始めていた。


 地図によれば、アーレント辺境伯領の入り口にあたる宿場町、ロウゲイトだ。俺の目的地であるアーレントの中心集落まで、ここからさらに半日ほど。


 俺は手綱を軽く握り直した。


「もう少しだ、クロ」


 馬は耳を動かした。


 夕暮れが近づく空の下、ロウゲイトの町が少しずつ大きくなっていく。


 粗末な建物が並ぶ、小さな宿場町。活気があるとは言い難い。見た目だけなら、確かに「何もない辺境」そのものだ。


 だが俺の目には、その町の先に、もう一つの風景が重なって見えていた。


 十年後、大陸でも有数の交易都市へと成長したこの地の姿。広い大通り、賑わう市場、立ち並ぶ商会の看板。


 それを実現するのが俺の仕事だ。


 王都で追放された日から、もうそれは決まっていた。


 俺は馬を進め、ロウゲイトの入り口をくぐった。


 辺境への旅が、終わった。


 そして、本当の始まりが、ここから動き出す。

面白そう、先が気になるなど、感想お待ちしております!

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