今日も今日とて上の空
実家に帰ってからというもの、コンビニの食事中心だったのが、食事は母や父の手料理に変わった。一人で寂しくただいまと言っても何も返ってこない孤独の部屋から、おかえりと声がかかる空間に変わった。
父も母もまだまだ現役で仕事をしているものだから、日中は私と、くぅと、ぷんで留守番をしている。私のやる事といえば、眠っていることと二匹を庭に出してやることと、ぼーっとスマホを眺めている事だけだった。父が寝室に使っている和室でゴロンと横になって、外ではしんしんと雪が降り積もる中、パネルヒーターに背中をくっつけて、ぬくぬくとした空気に、気がつけば昼寝をしている事が多かった。あれだけ眠れなかったのに、昼寝が出来るようになり、夜は夜で薬のおかげで頭の中がうるさくなる前に眠ることができている。寝る事が仕事だと言わんばかりに、私はこれ見よがしに一日中眠っていた。
夕食でも作れれば良いのだけれど、その気力は湧かなかった。せめて買い物と思っても、外に出るのは億劫で、日中に出歩いているのを近所の人に見られたら、どうしたんだと興味の目を向けられそうで、買い物にすら行かなかった。母が食材を買って帰ってきても、その背中を見ているだけで重い腰をあげる事はなかった。元々料理をするのが苦手で、苦手な事から逃げている思考に辟易はしていた。だから、せめてもの手伝いだと、朝と晩の茶碗洗いは率先してやることにしている。それでも、母の行動が早いからか、私が行動するのが遅いからなのか、気がついた時にはシンクの中はピカピカになっている事は多々あった。
そうして何もせず毎日を過ごしていたある日、そういえば読んでみたい本があったんだったと、病院の帰りに本屋に寄った。アニメ化されると話題になって、友人からも面白いから読んで見たらと薦められた本は、大きなポップをつけて目立つ所に陳列されていた。アニメ効果はすごいんだなと、私はまずは1巻を手にとった。帰ってからゆっくり読もうと少しだけ心が踊ったような気がしたのだが、いざ文字を読み進めようとすると、不思議な事が起きた。内容が頭の中に入ってこないのだ。
文字は読める、少々専門的な単語が多いものの、読むことは出来る。だけれども、あれだけ好きだった「妄想」が出来なくなった。文字を読んで頭の中でこんな世界なんだろうなと「妄想」するのが楽しかった筈なのに、今の私はただ、文字の羅列を読む…というよりも眺めるのほうが近いだろうか、文字を目で追うことをするだけで、話の世界に没入することができなくなっていた。人が書いたものがダメなら、自分で書いてみるのはどうだろうかと創作をしようと試みたものの、読むことよりも尚更に能力が落ちていた。
楽しめない、どうしてだろう。前まで楽しんでいた事が全く続かなくて、心が踊らなくて、集中が続かなくて…まるで私ではないみたいだった。
結局私は、秒針を子守唄に眠って、起きてる間はスマホを眺めてスワイプを繰り返していた。私のやる気スイッチはどこにあるんだろうかと、スマホを弄りながら自問自答しても、結局は急に糸が切れたかのように眠りに落ちる。
生産性のない毎日。眠って起きて上の空。それでも孤独を感じる時間は少なくて、心はどこか落ち着いている。だけれども…頭の片隅にはいつも「奴」がいる。締め出しても締め出してもいなくならない「奴」は、今日も私の平穏をぶち壊しにかかってくるのだ。ズル休みなんじゃないか、お前のせいで仕事が増えてるんだぞ、もう働けるだろう、そんな言葉が聞こえてくるようだった。
だから私は遮断するしかなかったのかもしれない。眠って眠って眠って、現実から逃げて…。いつになったら、私の思考は正常になるのだろう。昔の私に戻れるのだろう。
そんな事を考えていると、ちゃかちゃかとフローリングを歩く音がして、くぅが私の元にやってきた。珍しい事もあるんだなと、くうの頭を撫でてやると、顔を近づけてきてすんすんと鼻を鳴らしていた。目元にくぅの鼻先が触れたのだが、この子はなんて賢いのだろうと、私はまた一筋、頰を濡らしてしまった。
スワイプって見ると、某芸人さんが頭に浮かぶようになりました。




