ゾンビアタック
――森・中層
ドラゴンは、戦場を見下ろしていた。
「……強い個体が多い」
押されている。
確実に。
「……仕方ない」
ゆっくりと、口を開く。
人には決して発音できない音。
意味ではなく――“概念”としての言葉。
「∇√≪βθΖΙπυΜΩΦ√‰」
――その瞬間。
空気が、歪む。
世界の“裏側”に触れたような感覚。
そして。
“内側”から、声が響いた。
『アイツ、面白事に手だしてるなぁ』
『ならよォ――俺も混ぜろ』
『ははっ……代理戦争だ』
『冥界の川の加護を少し分けてやる。』
笑っている。
人ではない何かが。
「…………」
ドラゴンは、それを受け入れる。
やがて。
声は消えた。
違和感も消える。
何もなかったかのように。
記憶すら、残らない。
――だが。
次の瞬間。
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
モンスター達が、一斉に咆哮した。
森が震える。
「「「!?」」」
「な、何だ……!?」
何かが変わった。
明らかに。
“生き物”ではない。
別の何かに。
――オネイ側
倒したはずのオーガ。
その指が――動く。
「……あら?」
グシャリと潰れた胸部。
それが、ゆっくりと持ち上がる。
ボゴォッ!!
反撃。
「今の、死んでいたわよね?」
首を傾げる。
だが。
オーガは止まらない。
血を流しながら。
内臓を零しながら。
まるで“壊れている事を無視する”かのように。
「……面白いじゃない」
わずかに、笑みが深くなる。
――左翼
「おい!!」
「腕、落ちてるぞ!?」
地面に転がる腕。
それが――
切断面が蠢き
傷が塞がる
「は……?」
何事もなかったように、残った方の腕で降り掛かって来る。
「なんなんだよコイツら!!」
サクラは静かに観察する。
「……理が通っておりんせん」
童子切。
確かに斬っている。
だが。
「効いていない……?」
ズバァッ――
袈裟斬り。
深く、入る。
だが。
止まらない。
そのまま踏み込んでくる。
「傷はある」
「されど……倒れぬ」
視線が、わずかに下がる。
足元へ。
ほんの一瞬だけ。
「……?」
だが、その違和感は掴めない。
霧のように消える。
――アイリス側
「ははっ……何それ♡」
叩き潰したはずのゴブリン。
顔面が陥没したまま。
立ち上がる。
骨が折れたまま。
笑っている。
「いいじゃない……!」
ゾク、と震える。
「壊し甲斐があるわねぇ♡」
再び、叩き潰す。
だが――
また、動く。
「……あぁ?」
流石に、眉が歪む。
――右翼
「突く!!」
リリィの槍が、オークの腹を貫く。
確かな手応え。
だが。
ガシッ
「……え?」
オークが、その槍を掴む。
腹に穴が空いたまま。
血を流しながら。
「なっ……!?」
ブンッ!!
リリィごと投げ飛ばす。
「リリィ!!」
マリーが受け止める。
「大丈夫ですか!?」
「えぇ……でも……」
視線の先。
腹に風穴が空いたオーク。
それが。
普通に立っている。
「……何が起きているの?」
――違う。
これは再生ではない。
“死を無視している”。
まるで。
“そこ以外は、決して壊れない”かのように。
だが――
その“例外”が、どこにあるのか。
まだ誰も、気づいていない。
――森全体が、狂う。
ドラゴンが捧げたのは。
神へと至る詩。
その加護は。
【痛覚無効】
【再生(小)】
そして――
致命を外す肉体
疑似アンデッド。
否。
“死に損ないの英雄”。
戦場は。
一瞬で、地獄へと変わった。




