悪魔の教育
「グォォン!」
トロちゃんが吠える。
同族だろうが関係ない。
牙を剥き、躊躇なく敵意を向ける。
「はぁ〜……」
オネイが肩をすくめる。
「助かるけど、私の白馬の王子様はトロちゃんになっちゃうわねぇ♡」
――ここにレオンがいれば。
『オネイ様も再生するし、トロールみたいなものでしょ』
……とでも言っていたに違いない。
「じゃあ、トロールは任せるわ」
「私は後ろのオーガでも相手してくる♡」
「グォン!」
トロールの群れと対峙するトロちゃん。
その体躯は一回り小さい。
だが――
明らかに速い。
アリスのドーピング暴走。
その副産物として得た力。
見た目は戻っても、その能力は失われていない。
「あのトロール……味方なのか?」
「たしか、学生冒険者が連れてきた個体だ」
「……噂の、去勢魔法のか」
「あぁ、"睾丸収集家"とか呼ばれてるらしいぜ」
騎士達がざわつく。
トロちゃんは前に出る。
トロールを一体も通さないように。
速く、正確に、位置を取り続ける。
だが――
トロールは止まらない。
吹き飛ばされても。
砕かれても。
――再生する。
しかも、周囲は死体だらけ。
喰らい、吸収し、再生を加速させる。
トロールVSトロール。
誰もが思った。
――泥試合だと。
だが。
トロちゃんは違った。
「グォン!」
動いた。
一瞬。
消える。
――パキュッ
「「「ッッ!!?」」」
空気が凍る。
トロールの“それ”が――握り潰された。
動きが止まる。
遅れて。
「グォォォォォォォォォォォ!!!!!」
絶叫。
全身が痙攣し――
ドサッ
崩れ落ちた。
「……なんだ、今のは……」
誰かが呟く。
だが。
終わらない。
――シュー……
肉が蠢く。
再生。
トロールが、起き上がる。
その瞬間。
目が合った。
トロちゃんと。
次の瞬間――
消える。
――パキュッ
再び。
潰す。
起きる。
潰す。
起きる。
潰す。
――四度。
繰り返される。
「うわっヒデェ」
「見てる俺まで辛い」
「拷問かよ」
騎士達は敵であるトロールに同情していた。
「グォ……」
トロちゃんが、一歩踏み出す。
トロールが――
ビクッと震えた。
「……おい」
「……今、怯えたぞ?」
騎士の声が震える。
トロちゃんが腕を上げる。
トロールは――
動かない。
いや。
動けない。
「グォン」
低い唸り。
その瞬間。
トロールが――
膝をついた。
そして。
ズリ……ズリ……
額を地面に擦りつける。
トロちゃんは迷わない。
当然のように。
その頭を――
ズン
踏みつけた。
それを見た、他のトロール達。
一斉に、目が合う。
トロちゃんと。
トロちゃんは、手を開く。
そして、握る。
ゆっくりと。
見せつけるように。
ビクッ
トロール達が震える。
数瞬の間。
そして――
ズリ……ズリ……
同じように。
地面へ額を擦りつけた。
「グォォン!」
咆哮。
それは――
支配の宣言。
トロちゃんは。
群れの主となった。
トロちゃんは理解している。
“それ”を。
かつて、自分がされたこと。
絶対的な恐怖。
抗えない支配。
「グォン」
顎で示す。
トロール達が向きを変える。
敵ではなく――
味方として。
「……マジかよ」
騎士の一人が、乾いた笑いを漏らす。
「倒せないなら……従わせる、か……」
「……飼い主に似たな」
「あの去勢のレオンってやつ……とんでもねぇ教育してやがる」
ぽつりと呟かれる。
「とんでもねぇもん、作りやがったな……」
レオンの知らぬところで。
その悪名は、また一つ増えていた。




