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神々の市場 法則の書

神々の座に、今度は温かな静寂が満ちた。

「……合格だ。お前のその、救いようのない気楽さに免じて」


神々との対話を終えたドラキチの手には、古びた羊皮紙……ではなく、滑らかな光沢を放つ「法則の書」が握られていた。

「さて、ここからが本番だ。神様相手でも、契約は契約だからね」

ドラキチは不敵に微笑むと、指先をペンに見立てて空間に魔法陣を描き出した。消費者契約魔法が発動される。


神との契約には「魂の半分」や「千年間の奉仕」といった、冗談のような重い代償コストがつきものだ。しかし、ドラキチは「書」の余白に、まるでお洒落なカフェのトッピングを選ぶような軽やかさで、いくつかの「特約事項」を書き加えていく。


特典1:代償の分割払い(無利子)

特典2:神々の加護によるポイント還元

特典3:初回契約につき、呪い無効化バリアを無料進呈


「よし、これで負担は最小限。むしろプラスまであるな」

消費者契約魔法の光が収束し、契約が成立した瞬間、市場の空気に心地よい鈴の音が響き渡った。隣で一部始終を見ていたイチゴウが、呆れたような、それでいて深い感銘を受けたような面持ちで拍手を送る。

「……君という男は。神々の試練を『節税対策』のように攻略する人間を、僕は初めて見たよ。その契約への徹底した向き合い方、実に見事だ。この『法則』が君の手でどう書き換えられていくのか、今から楽しみで仕方ないね」

ドラキチは「法則の書」を鞄へ放り込むと、まだ星屑の香りが残る神々の市場を後にした。背後に広がる異空間の入り口が、シャンパンの泡のように弾けて消える。目の前に広がるものは、相変わらず理不尽で、けれど少しだけ愛おしい異世界の日常。

「さあ、帰るとするか。この力があれば、明日の朝飯を最高に美味しく焼くことだって、立派な『世界の改変』だろ?」

ドラキチの新しい冒険が始まる。それは世界を救う英雄譚というよりは、世界を誰よりも快適に、そして愉快にサボり倒すための、お洒落で自分勝手なクロニクル(年代記)だった。


●生活改善

自宅に戻ったドラキチが真っ先に「法則の書」を開いたのは、伝説の魔王を封印するためでも、失われた王国を再建するためでもなかった。彼が対峙したものは、自宅の「絶望的に水圧の低いシャワー」と「湿気でじっとりした羊毛のベッド」である。

「救世主だの魔王だの、そんなものは後回しだ。神様、悪いけど世界平和の前に、俺のクオリティ・オブ・ライフを上げさせてもらうわ」

ドラキチは「法則の書」に指先を滑らせ、まるでお洒落な雑誌のレイアウトをいじるように、物理法則を書き換え始めた。


【生活改善事案 第一号:熱力学の再解釈】

まず着手したのは温度管理だ。呪文を唱える代わりに、消費者契約魔法のプルダウンメニューから「常に快適な二四度」を選択。窓から吹き込む隙間風を「適度なアロマを含んだ微風」へと変換し、部屋全体を春の昼下がりのような多幸感で包み込んだ。


【生活改善事案 第二号:質量保存の法則、一時停止】

次に狙いを定めたものは、煎餅のように硬いベッドだ。

「ここに『雲の上の弾力』と『寝返り時の摩擦ゼロ』の特約を付与。ついでに、枕の裏側は常にひんやり冷たい仕様で」

ドラキチが「保存」ボタンをタップすると、古びたベッドが淡い光を放ち、沈み込んだ瞬間に魂が抜けるほど心地よい「究極の寝具」へと進化した。


【生活改善事案 第三号:因果律による自動洗浄】

仕上げは、旅の汚れが溜まった洗濯物だ。

「『汚れがついた』という過去の事実を、『最初から新品だった』という因果に置換。はい、サインして」

脱ぎ捨てられたシャツが宙に浮き、一瞬の閃光とともに、柔軟剤のコマーシャルのような清潔な香りを漂わせて畳まれた。

「……完璧だ。これこそが『法則の書』の正しい使い方ってやつだよ」

ドラ茶(もちろん、最も飲み頃の温度に固定済み)をカップに注ぎ、ドラキチは満足げにソファに深く沈み込んだ。


次回予告

神々の市場を経たドラキチが次に向かうのは、「運命の市場」。そこでは、未来そのものを取引するという――!?



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