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神々の市場 世界の法則が揺らぐ場所

市場を見て回る中、ドラキチは中央の神殿のような建物へと足を踏み入れた。星空を凍らせた湖の上を歩いているかのように、磨き抜かれた大理石に靴の音が小気味よく響く。ここは市場の心臓部。現実が卸売りされ、運命がバルク売りされる場所だ。その空気は、不自然なほど高価な魔力の香りが混ざり合った匂いがした。


ホールの突き当たり、幾何学的な光の輪に縁取られた先に、イチゴウが立っていた。その髪は、まるで重力を無視した不可能な白の滝。イチゴウだけが感じる微風に吹かれ、煙のようにたなびいている。神の使者というよりは、死後の世界をオートメーション化することに成功したやり手CEOのような佇まいだ。


「消費者よ」

イチゴウの声が、低音のコーラスのような残響を伴って響く。

「ここでは神々に等しい力を手にできる。だが、太陽を掴む者はその熱に焼かれる覚悟が必要だ。世界の歯車の重さを背負う責任……そのリスクを理解しているか?」


ドラキチは襟元をいじりながら、軽く肩をすくめた。その姿は英雄というより、トースターの延長保証に入るかどうか迷っている男であった。

「責任だのリスクだの、書類仕事が多そうだな」

彼はぼやいた。

「だがまぁ、『新規入会キャンペーン』の内容がいいなら、プレゼンくらいは聞いてやるよ。特典は何だ?」

イチゴウの唇が、優雅で、それでいて恐ろしいほどプロフェッショナルな微笑みを刻んだ。イチゴウが指をパチンと鳴らすと、空気が結晶化する。光の破片が溶け合い、超新星の周波数を放つ一枚の羊皮紙が宙に浮かび上がった。

【法則の書】

基本効果:現次元における特定の物理的・形而上的法則の書き換え、編集、削除(※利用規約が適用されます)。

プレミアム特典:「リスク軽減機能 2.0」を搭載。偶発的なパラドックスや突然の存在消滅のリスクを最大85%カット。

代償:契約者は自ら選んだ「究極の願い」一つを、永遠に放棄しなければならない。


ドラキチは発光する文字を凝視した。

「願いを放棄……? マジで永遠にか?」

「永遠に」

遠い銀河のような冷徹な美しさを湛えた瞳で、イチゴウが囁いた。

「宇宙の法則を書き換えるには、まず自分自身の心の一部を欠いたまま生きられることを証明せねばならぬ。さあ、ドラキチ……神になるために、貴様は何を投げ捨てる?」

静寂がドラマチックに引き伸ばされる中、ドラキチは契約書をじっと見つめていた。

「……ちなみに、『二度と税金を払いたくない』っていう願いを差し出すのはアリか?」

イチゴウの神々しいオーラが一瞬、ぴくりと揺れた。

「……契約者よ。宇宙の真理は、そういう仕組みでは動いておらぬ」


●神々との試練

契約を成立させるため、ドラキチは市場の奥にある「神々の座」に向かうよう指示される。そこでは、神々そのものとの「試練」を通じて、自分がその力を持つにふさわしいかが問われるという。


星々の屑をまぶしたような夜市、その最奥に鎮座する「神々の座」。そこは重厚な扉の向こう側ではなく、路地裏の結界を抜けた瞬間に広がる、物理法則がシャンパンの泡のように弾け飛んだ異空間だった。


ドラキチが足を踏み入れると、そこには三柱の超越者が、まるで退屈なティータイムを中断された貴族のように並んでいた。

「おやおや、今夜のゲストは随分と……香ばしい気配がするね」

重力を司る黒鉄の巨人は、動くたびに星系が軋むような音を立てる。時間を司る銀色の女神は、クロノグラフの針をドレスのように纏い、因果を司る白い狐は、無数の「もしも」の尾を揺らめかせていた。

「問おう。人の子よ。この『ことわり』を手にし、お前は何を望む?」

重々しい問いに対し、ドラキチはコンビニにでも行くような軽さで言い放った。

「いやぁ、みんなが笑って過ごせる世界? ほら、この法則ってやつを使えば、家事も仕事ももっと『イージー』にできるでしょ。俺、面倒なのはパスなんだよね」

神々の間に、真空のような沈黙が流れた。女神の時計がカチリと止まり、狐の目が細められる。

「……ふん。ならば見せてみよ。その怠惰な理想に見合う器かどうかを」


【第一の試練:重力(ダイエットの天敵)】

巨人が拳を振るうと、ドラキチの周囲だけ重力が一万倍に膨れ上がった。床がひび割れ、空気さえも鉄のように重くなる。「這いつくばえ」という無言の圧力。

だが、ドラキチはポケットから、さっき市場のタイムセールで手に入れた「浮力の石(限定おまけ付き)」を取り出した。

「これ、重力カット率百パーセントなんだわ」

ドラキチはふわふわと風船のように浮き上がり、巨人の股下をスキップで通り抜けた。巨人の目が点になる。


【第二の試練:時間(締切前の悪夢)】

「小癪な真似を……」

女神が指を鳴らす。空間の時間は、一秒が万年に、あるいは瞬きの一瞬に狂い始める。脳が情報の洪水に耐えきれず焼き切れるはずの拷問。しかしドラキチは、涼しい顔で「創造の契約書」を広げた。

「はい、ここに『このエリアの標準時は二四時間営業』って追記。はい、サインして」

契約の光が奔り、荒れ狂う時間の激流は、お行儀の良い噴水へと姿を変えた。女神は思わず扇子を取り落とした。


【第三の試練:因果(黒歴史の回廊)】

最後に、白い狐がドラキチの前に幻影を見せる。

「あの日、あの子に告白しなかったこと。あの時、安い方の肉を選んで後悔したこと。お前の人生に積み重なった『間違い』を呪え。さあ、どの過去を書き換えたい?」

ドラキチは、自分の「黒歴史」の数々を眺めた。中学時代のポエム、酔った勢いの誤爆メール……。彼はふっと笑い、鼻先をかすめる狐の尾を指で弾いた。

「どれもこれも、最高に笑えるネタだよ。今の俺に繋がっているんだ、一秒たりとも返品不可ノーリターンでお願いするわ」


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