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幻想の終末市場 再生の種

●市場の管理人との出会い

ドラキチは市場の中央、売れ残った「世界の終わり」が投げ売りされている露店を歩く。ワゴンセールに「空が割れる演出セット」や「人類の黄昏(香料付き)」が山積みにされていた。

「世界の終わり、今なら八〇パーセントオフだよ!」

どの露店も、誇大広告と不実の告知が渦巻くカオスな状況だ。

「この『全能になれる杖』、注釈に『※ただしトイレの中限定』って極小文字で書いてあるぞ。悪質だな」

ドラキチが指先で空中に幾何学模様を描くと、青白い紋章が浮かび上がる。それは消費者契約魔法Consumer Contract Magicだ。

「不利益事実の不告知を検知!契約取消の光!」

ドラキチが唱えると、詐欺まがいの露店から「売約済み」の札が次々と弾け飛んだ。不当な勧誘に怯えていた客たちの目が、正気に戻っていく。


「この市場を訪れるとは、よほど暇か、人生の迷子か、あるいはその両方だな。ドラキチよ、君は『終末』という概念に何を見出した?」


終末市場の管理人はドラキチの鮮やかな手際に感心し、声をかけた。白い仮面からは、美声の無駄遣いとしか思えないバリトンボイスが響く。


ドラキチは、鼻先をかすめた「爆発寸前の宇宙」の香りを嗅ぎながら、少しだけ考え込んだ。

「うーん……、それは賞味期限の切れたプリンのようなものだ。絶望の味がするが、案外お腹を壊すだけで済むかもしれない」


管理人は三秒ほどフリーズした。

「……ふっ、良い答えだ。実に安上がりで、たくましい」

管理人が指を鳴らすと、市場のガラクタたちが意志を持ったように踊り始めた。

「では、では、君の存在が問われる試練を受けてもらおう」


●存在の試練

市場の最果て、埃と魔法のスパイスが混ざり合った怪しげな路地裏。案内された空間で、ドラキチは絶句した。目の前に浮かんでいるのは、紛れもなく自分自身。しかも、鏡写しというにはあまりにキラキラと美化された自分だ。


美化された俺が、聖歌のようなBGM(どこから鳴ってるんだ?)を背負って問いかけてくる。

「お前は異世界で何を求めている? 本当に『お得』だけが目的か?」

「え、重っ。急に哲学的なこと聞くじゃん」

ドラキチは後頭部をかきむしった。

「……まあ、そりゃあ『実質無料』とか『期間限定ポイント一〇倍』とかは大好きだよ? むしろ三度の飯より好きだよ。でもさ、俺が必死にクーポンをかき集めてんのは、それを使って仲間と囲む廉価な料理がうまいからなんだわ。俺が笑って、みんなも『ラッキー!』って笑う。その空気が一番の『利益』っていうかさ」

言い終わるか終わらないかのうちに、空間がグニャリと歪んだ。演出が派手すぎる。まるで安売りのタイムセールに突入した瞬間のスーパーの熱気だ。


目の前に現れたものは「終末再生の契約書」。

「……なになに? 『終わりゆく世界を一度だけ再生する』? 効果デカすぎだろ。あ、特典もあるのか。……『代償を次元的に分散し、個人の負担を軽減』。なるほど、リボ払いみたいなもんか? 違うか」

だが、ドラキチの指が「代償」の欄で止まった。

【再生された世界では、自分の存在が一時的に消える】

「うわぁ……。これ、俺だけ祝勝会に参加できないパターンじゃん。飲み会代だけ出して先に帰る上司かよ。寂しすぎるだろ」

ドラキチは少しだけ、本当に少しだけ考えた。

脳裏をよぎるのは、安物だけど最高に笑える宿屋の朝食や、頼りない仲間たちのマヌケな顔。

「……まあ、いいか。俺がいなくても、あいつらが腹抱えて笑ってる世界が残るなら。それはそれで『期待値』はプラスだしな!」

羽ペンを走らせた瞬間、契約書は爆発的な光を放った。ドラキチの手の中に残ったのは、一粒のパチンコ玉……ではなく、神々しく輝く「終末再生の種」だった。


「……さてと、お買い上げありがとうございました、ってか」

見送りに来た市場の管理人は、シリアスな顔で格好いいセリフを吐いた。

「終末とは、全てを失う恐怖であると同時に、新たな可能性を見出す希望でもある。君はそれを理解しているようだ」

ドラキチは最高に「商売人」らしいニヤケ顔を浮かべてみせた。

「買い被らないでよ。俺はただの強欲なんだ。お得な取引をこれからも続けたいから、世界が滅んじゃったら困るでしょ? 在庫あしたがなきゃ商売あがったりだよ」

「……フッ、強欲な救世主様というわけか」

管理人が指を鳴らす。

「ちょ、待って! 消える前にこの種、どこに植えれば一番コスパいいか教え――」

ドラキチの叫びは、転送の光の中に溶けていった。


次回予告

幻想の終末市場で「終末再生の種」を手にしたドラキチ。次なる目的地は「神々の市場」。そこでは、この世の法則そのものが取引されているという――!?


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