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星々の市場

冥界の市での騒動を解決し、「冥界の帳簿」を手にしたドラキチは、ギルドでのんびりと日常を楽しんでいた。窓の外では、夜の静寂がしっとりと街を包み込み、遠くで酔っ払ったゴブリンの鼻歌が聞こえる……そんな、ありふれた、愛おしい「いつもの夜」だった。


だが、彼の平穏は長く続かなかった。ふと彼が顔を上げ、星空を眺めたその瞬間。夜空のカーテンが「バリッ」と音を立てて引き裂かれた。現れたのは、星々を飲み込むほど巨大な、虹色の光の渦。そこから放たれた金色の流星たちが、ピアノの鍵盤を叩くようなリズムで地上へと降り注いだ。


その一つがドラキチの目の前に着弾する。土煙が晴れると、そこには蒸気機関と宝石が結婚したような、見たこともない造形の装置が鎮座していた。

「――ピ。親愛なる欲深き魂へ」

装置から、冷たくもどこか甘美な、真鍮の歯車が擦れ合うような声が響く。

「星々の市場への招待状。ここでは銀河の塵から神の吐息まで、宇宙中のあらゆる交易品が競られる。訪れる者は、重力に縛られぬ『新たな次元の契約』に挑むべし」


ドラキチの瞳の中で、黄金のコインが踊った。

「宇宙規模の市場……。『お得』の香りがプンプンする。宇宙の果てにしかない特売品、俺が買い占めずして誰が買うんだ!」


翌朝、マクラがギルドでその話を聞き、驚いた様子で言った。

「宇宙? 宇宙って、あの空の上にある、神様しか行けない空虚な場所のことですか!? この世界の常識を超えてますよ!ドラキチさん、あなたの頭のネジは冥界に落としてきたんですか!?」

マクラの悲鳴に近いツッコミを、ドラキチは爽やかな笑顔で受け流す。

「まあ、いつものことだよ。地獄の次は星の海。それだけのことさ」

彼は光り輝く招待状を見つめた。

「いいかい、マクラ。世界を救うのは勇者だが、宇宙を動かすのはいつだって『良い取引』なんだ。こんなビッグセール、逃したら死んでも死にきれないだろ?」


●宇宙の商品たち

招待状に従い、装置の中に入ると、ドラキチの周囲は眩い光に包まれた。眩い閃光がドラキチの網膜を焼き、次に目を開けた時、そこは重力すらも「古い規則」として捨て去った、宇宙の掃き溜めにして宝物庫――「星々の市場」だった。


「おっと、着地失敗……いや、着地する地面がないのか」

浮遊する極彩色の屋台、触手で算盤を弾く異星人、そして銀河の塵を煮込んだような芳醇な香辛料の匂い。ドラキチは、自らの常識が音を立てて崩壊し、代わりに「わくわく」という名の無責任な好奇心が脳を支配するのを感じた。


「地球のデパ地下も、異世界の闇市も、これに比べりゃ砂場の遊びだな」

ドラキチは漂うように露店を巡る。そこには、物理法則を鼻で笑うような逸品が並んでいた。

「いらっしゃい。この『時空の種』はどうだい? 植えれば自分専用の四畳半空間が手に入るよ。家賃無料、ただしお隣さんは十次元の化け物だけどね」

「こっちの『ワームホールポータル』は激安だよ! 瞬時にどこへでも移動可能さ。行き先は完全にランダム。昨日の客は温泉に行こうとして太陽のど真ん中に着いちゃったけど、返品不可だ!」

そんなデタラメな商売がまかり通るカオスな市場で、ドラキチの瞳が鋭く光る。彼は指先をパチンと鳴らし、古今東西の悪徳商法を粉砕してきた呪文を唱えた。

「消費者契約魔法発動!」

彼の視界に、商品の背後に隠された「小さな文字の注意事項」がオーロラのように浮かび上がる。ターゲットは、無限の魔力を放つがいつ爆発してもおかしくないじゃじゃ馬、「星の欠片エネルギー」だ。

「……なるほど、爆発リスクの免責事項が契約書の裏の裏に隠されてるな。だが、消費者契約魔法の特典『エネルギー供給安定化』を上書き(オーバーライド)して付与すれば……よし、これなら核爆発に怯えずに魔力を充電できる!」

ドラキチが意気揚々と契約書ホログラムにサインしようとした、その時。

宇宙の静寂を切り裂くように、市場全域に「キュイイィィィーーン!」という、鼓膜を逆撫でするような警告音が鳴り響いた。

「おいおい、クーリングオフの期間すら与えてくれないのかよ!?」

屋台の店主たちが一斉にシャッターを下ろし、触手を震わせる。星々の輝きが、不吉な真紅へと染まっていく。どうやらこの市場、お買い物ガイドには載っていない「裏イベント」が始まったらしい。


●宇宙海賊の襲撃

その日、市場を包んでいたものは、熟れた果実の香りと、次元を跨ぐ行商人たちの喧騒。だが、運命の歯車は無慈悲にも宇宙海賊「ブラックギャラクシーズ」の襲来という、最悪のバグを引き当てた。


空を割って現れた漆黒の艦隊。それは、まるで星空にぶちまけられた墨汁のように不吉だった。

「ひゃっはー! 契約書のない略奪こそが、宇宙の真理だ!」

野蛮な咆哮とともに、市場の警備員たちが次々と光線銃に沈んでいく。圧倒的な「暴力」という名の物量。


「これ、放っておいたら市場が大混乱だな……」

阿鼻叫喚のなか、ドラキチは消費者契約魔法で状況を把握しながら呟いた。


「お買い物には、常に『特約』が付きものですよ、皆さん」

ドラキチは市場で手に入れた「ワームホールポータル」と「エネルギー盾」を起動。そのまま、彼の切り札である【消費者契約魔法:有利誤認の逆転劇】を唱えた。



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