冥界の市 無限リサイクルの契約書
冥界の市。そこは、失った未練と等価交換で「ありえない」を売買する、物騒なショッピングモールだ。露店には、使い古された地獄の業火のように「燃え尽きた命の火」がランタンの中でパチパチと爆ぜている。これを芯にして魂を灯せば、死者すら蘇るという。その隣では、失恋したばかりの幽霊たちが「忘却の霧」を求めて列をなしていた。一口吸えば、あんなに愛したあいつの顔も、ついでに借金の額も綺麗さっぱり消去できる代物だ。
さらに奥の高級ブティック(?)では、黄金に輝く「永遠の契約書」が展示されていた。不老不死という究極のアンチエイジングだが、サインした瞬間に心臓は冥界の金庫に保管され、一生冥界の市の警備員としてこき使われるという「ブラック企業も真っ青」な呪い付きである。
「こりゃすごいな……でも、どれも返品不可(物理)って感じだ。危なすぎる」
ドラキチは、鼻をつく硫黄の香りを避けながら市場を歩き回る。そんな中、彼の鑑定眼が一つの風変わりな店に止まった。並んでいたものは、ボロボロの羊皮紙に見えて、実は虹色に明滅する「無限リサイクルの契約書」だ。
【商品説明:この契約書を手にすれば、愛用の剣から使い捨ての割り箸まで、どんな道具も壊れることなく再利用できる。ただし、契約には『一度の使用ごとに記憶を差し出す』というセコい条件が付いている】
「記憶を差し出す、か。昨日の晩飯の献立を忘れるくらいなら安いもんだが……」
ドラキチはニヤリと笑うと、指先から青い燐光を放った。消費者契約魔法の発動だ。契約書の裏面に隠された、豆粒のような文字で書かれた「免責事項」を読み解いていく。すると、どうだろう。隠された拡張メニューが見つかったではないか。
「……ほう、『記憶の代償を、どうでもいい恥ずかしい過去の記憶から優先的に消費する』という限定軽減オプションが追加可能か。これなら俺の黒歴史を燃料に、伝説の武器を一生使い回せるじゃないか!これなら問題ないな。」
ドラキチが勝利に酔いしれようとした、その時だ。
「ヒッヒッヒ……。ほう、お前さんもその商品を狙っているのかい?」
背筋を凍らせるような、シルクハットを叩いたような不気味な笑い声。
振り向くと、そこには影だけで構成されたような細長い男――通称「冥界の商人」が、契約書の束をトランプのようにシャッフルしながら立っていた。その瞳には、甘い言葉で消費者を地獄へ叩き落としてきた者特有の、底知れない強欲な光が宿っていた。
●冥界の商人との交渉
商人は、他者の結んだ契約の「穴」を突き、その魂ごと横取りすることで肥え太ってきた、冥界でも指折りの厄介者だ。彼はドラキチが持つ「無限リサイクル契約書」に、飢えた狼のような視線を注ぐ。
「その契約書を私によこせ。そうすれば、この市場の特等席にある『絶望を希望に書き換える万年筆』でも、好きなだけ分けてやる。悪い話じゃないだろう?」
ドラキチは鼻で笑い、契約書の端を親指で弾いた。
「悪いが、おじさん。俺は『期間限定』とか『特別優待』って言葉の裏に隠された、エグい違約金を見抜くのが趣味でね。この契約は俺が使うよ。だって、俺の黒歴史をリサイクルできるなんて、最高にお得だろう?」
商人の口角が、耳元まで裂けた。
「……ならば勝負だ。冥界の市では、言葉よりも強い『契約魔法』がすべてを決める。知っているか? ここでは納得させられなかった方が、全財産を失うというルールを」




