レイブからの依頼
「あ~もう食べれない…」
砂竜の肉鍋を堪能した私たちは、レイブたちが大鍋を片付け、卓を用意してくれている間、窓際の寝椅子で寛いでいた。
「脂が凄かったけど…くどくなかったね」
ファニーと感想を言い合っていると、セレナが卓の果物に目を付けたのか、何やらゴソゴソと動き始めたので、全員が自然に彼女を囲うように席に着いた。
卓の上にあったのはネズの実。
彼女はどこからか取り出した数種の草と花を卓に並べると、指先から細い風を生む。
刃のように薄い風がネズの実を撫でて、多分必要な部分だけを宙に浮かせる。
そこに同じく水差しから水を浮かべて混ぜ合わせると、温めているのか湯気が立った。
立ち込める湯気を空気の渦に通して水差しへと戻していくと、最後にネズの実を指先で潰して水差しに絞る。
「えっ?色が変わった?」
水差しからグラスへ注がれた淡く青い液体からは微かな酒精の匂い。
「魔法でお酒作ったの?」
差し出されたグラスから一口。
香草のさっぱりした香りが鼻を抜けて、後からネズの実の甘酸っぱさとほのかな苦み。
「……おいしい」
「でしょう?魔法で作ると雑味が消えるの。欠点は酒精が弱いことね」
そう言って自分もグラスに注いで、セレナは静かに一口飲んだ。
その姿はすごく絵になるんだけど…
「魔法で…アリなの?」
「ファニー…多分アリなんだよ」
目を丸くしたままのファニー以外はグラスを傾けながらレイブの戻りを待つ。
◇◇◇◇
「メシは満足したか?」
酒樽を担いだレイブが現れたのはちょうどセレナが作ってくれたお酒を飲み干したころだった。
「そう言えば…食事の時は仕事の話は嫌い、でしたよね?」
「その通りだ!よく覚えてたな!」
「って事は今から…?」
「分かってんじゃねえか。
こっからは仕事の話だ」
そう言ってレイブはニヤリと口角を上げる。
「まずは、礼を言わせてくれ。そっちの夫婦は知ってるだろうが、お前らが助けてくれたのは、ウチの近衛師団長だ。説明は省くがウチで匿う手筈だったんところを…見た通りバケモノに追い掛け回されててな。助かった」
「それはいいんだよ。仕事とか関係なく助けるって言い出したのはウチのピエールだしね。だからアンタたちの思惑なんかどうだっていいよ。さっきのでチャラにしてあげる」
「…チャラか?仕事の手付けって訳にはいかねえか?」
「あの肉はこっちのでしょ?」
「…オーケイ。じゃ仕事に関しては…内容次第ってとこだな?」
「分かってんじゃん。あと今日の一泊分はバケモノ追っぱらったんだからタダにしなさいよ」
「ここはいつから宿屋になったんだ?…まあいい。話を戻すぞ」
そう言ったレイブにノエルがどうぞと手を向ける。
「今回もあるモノを運んでほしい。…前の中身については?」
「見たわよ。言いたい事なら山ほどあるけど、アンタは中身の事を言うなって契約だったんでしょ?気にしなくていいよ」
「…オーケイ。今回は中身について口止めはされてねえ」
「もったいぶってんじゃないわよ。“誰を、ドコに”運んでほしいわけ?」
「…言ったら断れねえぞ?」
「何言ってんの?こっちはね、巻き込まれてる事くらいとっくに気付いてんの!どうせ断ってもココが鉄火場になってバカ騒ぎに巻き込まれるんでしょ?」
ノエルの言葉にレイブがお手上げとばかりに手を上げる。
「…ひとつ、いいかしら?」
珍しくセレナが手を上げた。
「私たちはね、今は純粋に旅を楽しんでるの。だから、貴方たちの小競り合いに興味はないわ。それに私たちを“戦”に巻き込む気なの?」
「セレナよ。そうしない為の仕事なんだが、それでも駄目か?」
――急に空気が重くなった。
やっぱりセレナは怒ってて、薄々分かってはいたけど絶対に怒らせちゃいけない人なんだ。
「貴方がそう思ってくれていて、今回の仕事を依頼するわけかしら?」
「その通りだ。これはウチの国のイザコザだ。それに雇われてくれとは言いたくねえ。だが、ブツを逃がすにはお前らの力が欲しい」
そう言って頭を下げるレイブにもう一度ノエルが話に入る。
「だからブツじゃないでしょ。“誰を、ドコに”運んでほしいわけ?」
「ウチの王妃と姫だ」
「…ドコへよ?」
「行先は任せる。イザコザが収まるまで預かってもらえないか?」
「…報酬は?」
「ウチの火山への入山許可なんかどうだ?」
…火山ってなんだろ?
その言葉を聞いた途端、ノエルがニヤリと口角を上げたのが気になってしょうがない。
「商談成立…ね。受けてもいいわ。ただし条件がひとつ」
「聞こう」
「王妃と姫サマに会わせて。アタシたちが気に入らなきゃ、この話はナシ。朝になったらここから出て行くわ」
「…オーケイだ。多分そう言うだろうと思って風呂で準備させてる」
「なんで…お風呂なんですか?」
あ、言っちゃった。
「王妃がそう言ったんだよ。会うなら風呂がいいってな。ただ男共はここで酒でも飲みながら待っててくれ。部屋で休むってんなら好きに使ってくれていいぜ」
そう言うとレイブは酒樽からグラスに酒を注ぐと一気に飲み干した。
オリバーが黙ってグラスを手に取り、行ってこいと目で促す。
「私たちはちょっと…」
「そうだな。王妃と姫に会うのにこの国を出た俺たちがいては話がややこしい。先に休ませてもらおう」
ピエール夫妻は後は任せるとノエルに告げてから案内されて部屋を出て行った。
「じゃあ、行きましょうか」
お風呂へ向かうのは、ノエル、セレナとなぜか私。
――なんで私も?




