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私の精霊はまさかのポメラニアン?~新米ハンターと賑やかパーティーが繰り広げる異世界冒険記~  作者: アインス
進路を東へ

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オロディア③ やっぱりドラゴン

向かう先から聞こえてくる落雷の音は、ノエルが竜の注意を引きつける為のもの。

だったらその反対側にオリバーがいるはず。


私が合流した時、戦況はすでに動いていた。

――二人の位置は…想像通りね。


ノエルがアジ・ダハーカの正面に向き合い、三つある首のどの視線も他にいかせないように雷を自在に操る。

竜の体からは雷の跡だろうか?所々が焦げたように煙を上げていた。


オリバーは一団の側面に回っていた。

アジ・ダハーカの注意を引かないように、盾で砂竜《サンドドレイク》を弾きながら、身体ごと壁になって退路を作る。

声は出さず、身体の向きと動きだけで一団を誘導していた。


統制の取れた動きをしていた一団もまた、ノエルとオリバーの意図に気付いているのか素直に従って機を窺っているように見えた。


――予想外なのは砂竜《サンドドレイク》の存在ね。

丘から見た時にいなかったあ(・)れ(・)のせいで、オリバーが思うように動けていない。


砂竜《サンドドレイク》の攻撃を防ぎながらもオリバーが私に気付く。

一瞬驚いた表情を浮かべたあと、すぐに目で何か訴える。

――了解。

何を言いたいかが手に取るように分かる不思議な感覚。


―凍らせて。≪フェンリル≫

フレイルが青白い輝きを放った瞬間、オリバーは戦斧を担いでアジ・ダハーカに飛び込んだ。


急に動きを変えたオリバーに驚いたノエルは、彼のいた場所の砂竜《サンドドレイク》が凍ったのを見てすぐに地面から雷の槍を生み出した。


一連の出来事が理解できない一団もまた、その隙を逃さずに私の側を駆け抜けていく。


――成功した。

そう思った時、一団の最後尾の男が声をかけてきた。


「助かった。恩に着る」

悪気なんかない、本心から出た感謝の言葉。


爆音と轟音が響く中では聞こえないはずのその音は場違いな響きとなり、アジ・ダハーカの首のひとつがそ(・)れ(・)を聞き逃さなかった。


雷の直撃を受けつつも、振り返った頭部から私の背後を駆け抜ける一団に向けて瞳と同じ濁紫の何かを吐き出した。


――!!

≪ケルベロス≫炎の壁!

考えたわけではないけれど、咄嗟にそう口にしていた。

フレイルが紅く輝き、足元から炎の壁が出来ていく。

――早く!!

あ(・)れ(・)が私の頭上を越える前に。

――間に合って。


私の頭上から聞こえたのは壁に何かが当たった音。

同時に周囲に広がる水蒸気を見て、ひとつの可能性が頭をよぎる。

――私を覆って!


ひときわ大きな落雷の音と、それに続く大きな爆発音。

私は炎に包まれ、辺りは爆発の残響と、打ち上げられた砂の舞い降りる音のみ。



◇◇◇◇



音がやみ、場違いなほどの静寂のあと私は≪ケルベロス≫の炎を解いた。

砂煙の向こうに見えたのは、アジ・ダハーカの左(・)の(・)頭(・)。

――目が…合ってるよね。


右(・)の(・)頭(・)の視線の先にいるのはオリバーだった。

…多分毒の煙の影響もなさそう。

――鉱竜の防具の効果かな?


中(・)央(・)の(・)頭(・)の視線の先は見ないようにした。

私が無事なんだから彼女は大丈夫。


遠くに駆けて行く馬車の音が聞こえる。

とりあえず、追われていた一団を逃がす事には成功した。


次はここから生きて帰ること。

多分、それで合ってるけど

問題は…どうやって帰るか。


アジ・ダハーカは追っていた一団にもう興味がないのか、私たちだけに視線を固定させている。

私はその視線を感じながら動けなかった。

――ううん、違う。

動かなくていいんだ。


彼らが逃げる時間を稼ぐには、刺激しない事が正解な気がした。

戦って、倒すのは多分無理。

その証拠に、あの爆発音で想像できる傷はアジ・ダハーカのどこにも付いてなかった。


三人とも、動かなかった。

左の首が私を、右の首がオリバーを、中央の首がノエルを見ている。

六つの目がそれぞれ別の獲物を捉えたまま、アジ・ダハーカもまた、動かなかった。


ノエルがわずかに顔を動かして視線だけでオリバーを見ている気がする。

その証拠に彼が盾を少し動かして、オリバーと目が合った。

私は首を小さく縦に振った。

――動かないよ。

そういう意味を込めて振ったつもりだった。

何とか伝わったのか、彼も小さく頷いてくれた。


中央の首が低く唸り、私たちは同時に息をのむ。

唸りはそう長くは続かなかった。


中央の首がゆっくりと持ち上がり周囲を見渡すと、それに左の首と右の首も続き、私たちから視線が外れた。

外れただけで、去るわけじゃなかった。

それからどれくらい経ったか分からない。


あのノエルが動かない。

オリバーも盾を持つ反対側の手でオブリヴィオンを構えたまま動かない。

フレイルを握る手のひらがじっとりと汗ばんでいた。


――何?今の…。

音ではない、何かが空気を震わせた瞬間、アジ・ダハーカの三本の首が同時に同じ方向を向いた。

荒野の奥。

私たちではない何かを見ていた。

大丈夫。ピエールたちが向かった方角じゃない。


巨体がゆっくりと向きを変えて地面が低く鳴った。

一歩、また一歩と遠ざかりながら引き寄せられるように荒野の奥へ。

やがて地を割る音と共に竜は姿を消した。


最後の砂煙が晴れた頃、静寂とともにノエルが息を吐いた。

続けてオリバーが盾を下ろして座り込むと、私もヘタヘタとその場に座り込んだ。

立っていられず、吐き出した長い息が止まらなかった。


遠く、ピエールたちが向かった方角から馬蹄の音が近づいてきた。


「とりあえず、目的は達成したみたいだね」

「…だな」

「…怒ってる、よね?」

「何で来たのかは気になるけど、ソファの行動は間違ってないよ。よくやったわ」

「ま、上等だろ」


砂煙の向こうから現れた騎馬の一団。

先頭の人物を見て、ノエルが安堵でも驚きでもなく、やっぱりという種類の息を吐く。


「遅い」

「間に合わなかったのは認めるが、間に合っていたらどうなっていたか…途中でピエールから話は聞いた…久しぶりだなソファちゃん。まさか嬢ちゃんがこっちに残ってるとはな。ちょっと会わねえうちに強くなったんじゃねえか?」


馬上のレイブは間違いなく将軍の雰囲気を纏った武人だった。

盗賊団の頭領は仮の姿。一目でそう分かるくらいにしっくり来たけど、そんなことはどうでもよかった。


「レイブさん…私お風呂入りたい」

やっとのことで口から出た一言で周囲から大きな笑いが起きる。

――笑えばいいじゃん。

もう立ちたくない。


「おいノエルよ!お前の駆け出しの頃とそっくりだな!」

「うっさい!アタシも風呂!もう立たないからね。ゆっくり早く丁重に連れて行きなさいよ!」

再び起きた笑い声を聞きながら、私の意識が飛んでいく。

――もう無理。

疲れた~…。


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