精霊との対話
⦅ねぇ、聞こえる?⦆
あぁ…こっちのヤクモね。
大丈夫、聞こえてるよ。
⦅少し話してもいいかな?⦆
いいけど…その前に聞かせて。
今、外はどうなってるの?
⦅約束は守ったよ。
火竜の出来損ないは全部倒した⦆
皆は無事なの?
⦅キミのトモダチは無事だよ。
他のことは起きてから確認すれば?⦆
――ほんっと、こっちのヤクモは可愛くないわね。
⦅ボクからするとキミも中々だけど。
まぁ…、それはいいや。
キミは今眠ってて、すぐ目覚める。
その前に少し…話がしたかったんだ⦆
私も聞きたい事なら山ほどあるけど、こっちから呼んでも出てこないもんね?何が話したいの?
⦅…ごめんね。もうすぐ戦いが起きる⦆
――?
⦅まだ詳しくは言えない。
でもキミを巻き込んじゃう。
その前にちゃんと話したかった⦆
…私はそれ聞いてどうすればいいの?
⦅今なら…選ばせてあげる。
ボクはキミは気に入ってるけど、
巻き込みたい訳じゃないから⦆
選ぶって、何を?
⦅今なら、出て行ってあげる⦆
――!?
こっちのヤクモも、あのヤクモも…
おんなじなんだよね?
⦅そうだよ?⦆
って事は、もうヤクモともう会えなくなるってことだよね?
⦅キミが選ぶなら…そうなるね⦆
…ん~…ちょっと待ってね。
――何言ってんの?
戦い?巻き込むかもしれないから、別れるかどうするか選べって事だよね?
…何言ってんの?
だいたい、いっつも急に出てきてイキ…
⦅…全部聞こえてるよ?⦆
――?
⦅全部聞こえてる。
キミがしてること、思ってること。
ボクには、全部分かっちゃうんだ⦆
あぁ~…そういうこと…ね。
隠し事も、ウソもつけないってことね?
⦅そうなるね⦆
じゃあ…聞きたい事も分かるよね?
⦅……⦆
っていうか!私にはそっちの考えは分かんないんだけど?
⦅…ごめんね。
それをするとキミが耐えられない。
だからできない。
…戦いが起きる。
キミたちの時間だと、数年後。
キミたちの世界で言う、神々の戦い。
どうすればいいかは、
ボクの番がよく知ってる。
戦いの前に、ボクの番とは会えるよ。
それまでに、“強く”なって。
“古い歌”を探してほしい。
そうすれば、いつでも会えるから…⦆
「――待って!!」
「あら?目覚めたのね。待ってって?」
大声を上げて飛び起きた私の隣で優しく微笑みかけてくれたのはセレナだった。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「急に飛び起きて…夢でも見てたの?」
「あのね!…あれ?声出てる…よね?」
状況が掴めず混乱したままの私の背に手をまわし、ベッドに落ち着かせながら彼女は続ける。
「落ち着いてゆっくり聞いてね。
火竜の襲撃のことは覚えてる?」
私が頷いたのを確認してから続ける。
「多分ソファの《フェンリル》で、
火竜の撃退には成功。
町に被害はあるけれど…
あなたが気にすることじゃない。
それに、私たちはみんな無事よ。
ここまでは大丈夫かしら?」
もう一度頷いたのを確認すると、カップを手に取り私に飲ませた。
――なんだろう。甘くて優しい味。
「…甘いでしょ?落ち着いてきたわね。
襲撃が起きて、今日で3日目よ。
その間、ソファは眠ったままだったの」
私は天井に目を向けて、その言葉の意味をゆっくりと飲み込んでから頷いた。
「…あまり驚いてはいないようね?」
「…夢っていうか、信じられないだろうけど、さっきまでヤクモと話してたの。皆は無事で、私が眠ってるっていうのは知ってた」
セレナは自分もカップに口付けると時間をかけて飲み込んだ。
焦らすわけでも急かすわけでもないその動作に私はただ見入っていた。
「もう一口飲む?」
そう言って新しいカップを私に差し出しながらそっと囁く。
「少し…秘密のお話をしようかしら?」
――!
「ソファの…ううん、ヤクモについて。
彼方の名を持つ精霊について、かな」
「セレナは…知ってるんだね?
教えて。
…私は何を知っておけばいいの?」
「順番にね。まずひとつ。
この話はノエルも知らないの。
トラヴァスは、此方の名を持つ精霊。
“神に遣わされたもの”」
「…じゃあ、シェルティは違うの?」
「その話はシェルが教えてくれるわ」
そう言うとセレナは、傍らのシェルティに続きを促した。
「ウチはなぁ、“神の魂を宿すもの”。
あんたらの言い伝えでいうところの、
神の依り代…。前の戦さの当事者」
そこから始まる彼女の語りを必死に聞き逃さまいと私は身構えた。
曰く、
この世界はあらゆるものが共存し、
神々の支えを受けて繁栄していた。
神々の対立はほんの些細な事から。
――地の神が創り出した大地について。
その存在を雷の神に伝え忘れ、知らされていなかった雷の神は怒り狂い嵐の神を生み出すと、さらに混沌の神までが生み出された。
正気になった雷の神はすぐに地の神と和解し、混沌の神と戦ったが敗れた。
混沌の神から生み出された新たな神と、この世界に元々いた神が戦い、世界は二分され傷付いた神々は深い眠りに着いた。
――地の神だけは自らの過ちを悔いて眠りにはつかず、新たに山の神を生み出すと世界を繋ぎとめた。
「ウチは、地の神の依り代のひとつ。
混沌の神が最後に産み落としたものが
あんたらの言い伝えでいう魔の神。
これがどうやら目覚め始めてる…」
「魔の神を倒すために戦えってこと?」
「簡単に言うとそうなるなぁ…」
「…どうして戦うの?」
「いずれ会うたら分かる。
“アレ”はおったらアカンもんや」
「…会ってから決めてもいいの?」
「もちろんそれでええんやで。
ウチらは従わせたい訳とちゃうから」
「ヤクモが言ってたんだけど、
強くなれ、古い歌を探せって…
どういう意味か知ってる?」
「強くなれは、器を広げろ…
あんたはまだ未熟やからなぁ。
古い歌は東にある…。
ウチらの真名を知って欲しいんやろ」
「未熟なのは分かってる。
真名っていうのは?
…知ったらどうなるの?」
「誓約ができる。精霊の力を使って寝込んだ…今回みたいなことは起きへんようになる」
「…他に隠してることは?」
「今のあんたには受けきれん。
今話せるのはこれで全部やよ。
今日のところは、これでお終い…」




