密室の対談 王と王
ラグーナ公国君主の私室では、王同士の対談が非公式に行われていた。
公国側は君主のほかは、軍を預かるハビエル将軍と公国国営ギルドのマスターのカルロス。
相対する反対側には、イツカとアリアのみ。
火竜の襲撃の事後処理に追われる中、非公式ではあるが、他国の王の訪問に緊張感が走る。
「…久しいな。息災で何より」
「そっちは大変だったみてぇだな。この場じゃガブリエル…でいいか?」
君主の名を軽々しく口にされたことで、ハビエル将軍が顔色を変えるが、それを手で制して対談を始めるラグーナ公国君主ガブリエル。
「構わぬ。其方をここに通したのだ。ハビエルもカルロスも受け入れよ。でなければ下がれ」
有無を言わせぬ主君の言葉に、両名は恭順の意を示した。
「まずは礼を言わねばなるまい。此度の火竜の撃退は其方らサンドライトのギルドの者と報告を受けておる。…この通りだ」
そう言って頭を下げようとするが、イツカがそれを制した。
「ウチのヤツらに間違いはないが、俺に頭なんか下げんなよ?俺の指示じゃあねえ。たまたまここにいて、あいつらがそれに対応しただけだ」
「…ふむ。では後ほど改めて場を設けるとするか」
「そうしてやってくれ」
言葉と共にイツカの裏表のない笑顔を見て、公王ガブリエルも頬を緩めた。
「俺が来たのは他でもねぇ。今回の襲撃について、情報の擦り合わせと、これからどうするかを聞いておきたい」
「…ふむ。こちらも同じだ。其方が直接来てくれたのは話が早くて助かる」
「情報については、私から。お二人とも間違いがないか確認させて頂いても?」
そう言ってアリアが書類の束を机に置くと、ハビエル将軍とカルロスに尋ねた。
「無論、願ってもない」
「俺は無視してくれて構わん。投げやりで言ってるんじゃないぞ?そっちがイツカの旦那にアリア、こっちは殿下と将軍。俺は口を挟むべき立場じゃねぇ」
そう言ってギルドマスターのカルロスはお手上げとばかりに席を立ち、入り口そばの席に腰を下ろした。
「…続けます。こちらが報告を受けた限りでは、先日東側上空より火竜の大群が襲撃、同日こちらのギルド所属のハンターにより撃退、現在は復興作業中であり、その後の襲撃については未確認…ということでよろしいでしょうか?」
「…こちらの損害はそちらには関係ない…か。いや、すまん。他意はない。各地点でこちらの撃退も確認しているが、襲撃の規模に対し、被害がごく僅かなのは間違いなくそちらのハンターの力によるものだ。私からも感謝を」
「…では本題に。襲撃について、事前に宣戦布告はありましたか?」
「ない…どころか未だに公式には声明は受けていない」
「では貴国はどこが仕掛けてきたと?」
「…オロディアであろう」
ハビエル将軍が答えを渋る中、公王が口を開いた。
「失礼ながら、根拠を伺っても?」
「火竜の襲撃など聞いた事もない。我が国の水龍にも聞いたが、答えは同じ。竜種が棲み処を脅かされた以外で攻め込む理由はただ一つのみ、上位種である龍の命。即ち火龍の封印の地であるオロディア以外は考えられぬ。問題はなぜ火龍がそのような命を下したか…」
「火龍の命だけってのは早計だぜ?」
「…なんと?」
「聞いた話じゃ今回の襲撃はレッサードラゴンの類のみ。名有りどころか、フレイム種も報告を受けてねぇ。違うか?」
「確かに報告を聞く限りでは、確認されているのはレッサードラゴンの亜種のみ。…ですがそれにどういう意味が?」
ハビエル将軍が同意しながらも尋ねた。
「ウチの地龍が言うには、火龍の波動を感じないそうだ。ただ地龍より水龍の方が火龍とは繋がりが深いだろう?聞いてほしいんだ。火龍が目覚めてるのかどうかを」
「…少し時間を貰えるか?聞いてこよう」
そう言って公王は席を立ち、カルロスがそれに続いた。
「聞いてもよいか?火龍の命とそれ以外のものによる思惑と、どちらにせよオロディアである事に変わりはあるまい?」
場に残ったハビエル将軍が尋ねた。
「オロディアだろうってのは、こっちも同じだよ。だがまるっきり意味が違う。それこそゼロかイチくらいにな」
「――??」
「いいか?火龍が動くなら水龍も動く。場合によっちゃあウチの地龍もだ。そうなったらそこら中で龍だの竜だのが大暴れで人間なんてほとんど残らねぇ。だが火龍が目覚めてないなら、今回の襲撃は他の理由ってことになる。それなら元凶を叩けば何とかなるかもしれねぇ」
「イツカ殿は元凶に心当たりが?」
「ウチもオロディアに攻め込まれた。撃退はしたが向こうの動きは探らせてる。潜り込ませたヤツが言うには、“王室の動きがおかしい”だとよ。これに関しちゃあ向こうの一部の軍部も動いてる」
「一部の軍部…盗賊か?」
「知ってるなら話が早い。あいつらはまだマトモな王妃と姫を匿ってるって話だ。俺が出てきた時点では情報はそこで止まってる」
「相変わらず耳が早過ぎるな」
「ウチの目と鼻を舐めるなよ?」
「ふん…。あんな場所に国を作った連中を舐める理由が見当たらんわ。そちらの方針は既に決まっていて、我が国がどうするか…その確認か。手際のいいことだ。なぁアリアよ?」
「私には何のことだか…」
フンと鼻を鳴らしながらも笑みを浮かべるハビエル将軍は歴戦の勇士の風貌となり口を噤み、程なくして公王が部屋へと戻り席に着く。
「待たせたの。結論から言おう。火龍は目覚めておらぬ。…故に今後の話は其方らとの共同戦線となろうな」
「相変わらず話が早いな?」
「迷うてはおれん。其方らが裏切らぬのも知っておる。儂に他に理由が必要か?」
「全くねぇ!ウチは北から行く。質は保証するが数は少ねぇ。南に回せるのは今回の英雄達だが、多分俺が言えば答えは“ノー”だ。そっちに任すぜ」
「なんと…。では事が済めば我が国に迎えるとしよう」
「相変わらず食えねぇおっさんだぜ。ガブリエルよ」
「ふん。其方らは国を出た時から全て織り込み済みであろう?よう言うわ」
王と王との非公式の対談はたった5人…実質4人でその全ては運ぶ。
巻き込まれる運命のものたちの知らぬ密室で。




