未知との遭遇 ドラゴン
隆起した地龍ナーガの背に乗ったイツカ、ノエル、セレナ、私の4人は鉱竜ファフニールが待つ山脈の麓を目指していた。
地龍の表面は岩の塊みたいにゴツゴツしていて、隙間からは赤い光の筋が水脈のように走っていた。
速度のわりに驚くほど揺れず、地面がそのまま移動しているような、そんな感覚。
「ねぇ、これって地龍の鱗?岩?」
誰に言うでもなくそっと背に触れながら尋ねてみた。
冷たいはずの岩肌は、奇妙に暖かい。
「鱗みてぇなもんだが一応皮膚の一部みてぇなもんだぞ?ちゃんと生きてるからな。龍てのは、どいつも大概こんなもんだ」
「そうなんですか…
乗り心地も穏やか。
でもなんでこの国に地龍が?」
「理由はそのうち知るかもな。
今は滅多にない経験を楽しめよ。
地龍に乗るなんざ普通はねぇぞ。
今は大地の均衡を整えてるからな」
「で?結局アンタが出て来るんなら最初から来れば良かったんじゃないの?」
ノエルがイツカを睨む。
あれはまだ怒ってるよ…。
「あそこに何が封印されてたか?
なんて知る訳ねぇよ。
鉱竜が出てきて、
俺は地龍に呼ばれて、
お前らが帰ってきた。
ま、そんなトコだな」
「ホントに?」
なおもイツカを睨みながら問う。
「今回はマジだ」
「今回は?」
「諦めなさいよ。イツカとアリアよ?今までの依頼だって、別に危険はなかったじゃない」
やり取りを見ていたセレナがそう言ってノエルに微笑む。
「ムカつくじゃん!
いいよ!分かったよ!
この依頼までは受けたげる。
この依頼終わったら、
一回“ここ”出て行くからね」
「おぉ。いいじゃねえか。
セレナも嬢ちゃんも、
せっかく外に出れるんだ。
楽しんで旅してこいよ」
「いいんですか?
行きたい!旅したい!」
「そうそうすぐではないはずよ?
…見えたわ。鉱竜よ」
すぐじゃなくても、皆で旅がしたいの!
だってどう考えたって楽しそうじゃん!
◇◇◇
降り立った場所は、ファフニールがいた森の切れ目だった。
鉱竜ファフニールは姿勢すら変えず、ただ黄金の瞳を開けて待っていた。
地龍ナーガは頭部を低く垂れ、鉱竜ファフニールと目線の高さを合わせた。
二柱の神話的存在が対面した瞬間、周囲の空気から時間が消えたように感じられた。
『我が身を与えし地胤よ。
封印が解けたようだな』
地龍ナーガの静謐な声は、大地全体から発せられているようだった。
≪地龍よ。御身に問いたい。
何故ニンゲンに加護を与えた?≫
鉱竜ファフニールの声は、岩石がぶつかり合うような重い音だ。
ナーガは静かに答える。
『汝が眠りより醒む前、
この地に異変があった。
地の神の御威が薄れ給うた』
≪……≫
『地の神の御声を賜ったのが
この国の王を名乗るその者であった。
この者は神の御言葉を仰ぎ、
我を再び現世に還した。
我は今、地の神と共に在る。
この者は自身の血肉を差し出し
地の神はこの者に誓約を御賜与なされた。
我も御意を賜り、この者に加護を与えた』
≪守護の神は?≫
『まだ誓約を御賜与されてはおらぬ。
故にその御心を推し量る訳にはいかぬ』
≪御身は地の神の御意に従い
ニンゲンに加護を与えておられるのか?≫
『然り。汝と同じく
いくつか封印が解かれたようだ。
遠からず、戦の幕は開かれよう。
汝は如何に?』
≪我は御身の地胤。
御身が地の神の御意を賜り
加護を与えるのなら、我は従うのみ≫
『承った。
我は地の神の側を離れられぬ。
…汝が認めし者に加護を与えよ』
地龍ナーガはその巨大な体躯を轟音と共に地中へ沈め、
やがて遠い雷鳴のように響き、徐々に小さくなっていった。
≪ニンゲンよ…≫
「地龍は行っちまったな」
≪構わぬ。我は地龍の意に従う。
加護を与えるに相応しい者は?≫
「…今ここに来てるのは、
お前らが言う加護持ちだ。
ウチのやつらから選んでくれ。
希望があるなら聞くが、
その前にひとついいか?」
≪……≫
「封を解いたのは誰だ?」
≪知らぬ。オリエンスの方へ去って行った。
先に訪れた番と匂いは似ておった≫
「オリエンスということは…、東ね」
――聞いた事のない地名…。でもセレナなら知っていてもおかしくないか。
「番って事は、
ピエールとファニーのこと?
匂いって言うのは?」
「オロディアの人間って事よ!」
「まあそうだろうな。
嬢ちゃんの依頼にもあったろ?
ゴブリンコロニーの討伐だの、
その後のゴブリンもコレも
全てウチを攻める為の工作ってとこか」
「あの豚がこんな手使う?
せいぜいゴブリンくらいじゃないの?
なんで封印の位置なんか知ってんのよ」
「単独じゃなく国としてか…
他に協力者がいるか…
この辺りが妥当でしょうね
尋問はどうなってるの?」
「口を封じられていやがる。
上手い事利用されたんだろうよ。
その話は後だ。
鉱竜よ。
加護を与えてくれるのはありがてぇ。
だが候補者を連れてくるのも面倒だ。
移動して貰いてぇんだがいいか?」
≪構わぬ。ここより地龍に近付けよ≫
「じゃ洞窟の前でいいか」
「…あそこ今どうなってんのよ?」
「確かアリアが町造りしてたわね」
「えっ?町?」
「数千人単位で人が増えたからね。
洞窟への前線基地兼宿場かしら」
「洞窟って…そんなに凄いの?」
「この国のハンターでいうなら、
あっちにいるのがここの主力。
あの……マウロだっけ?
あの子も洞窟」
「前は“道”って言ってたよね?
それが洞窟なの?」
「ソファは上の道ね、精霊の住処。
あのコは下の道よ、深淵の洞窟」
「ハイハイ。細かい話は後で。
そんな事より地龍帰ったわよ?
帰りどうすんのよ?歩き?」
「待ってろ。 おい鉱竜!
案内するから乗せてってくれ」
――!!
竜を移動させるだけじゃなくて、乗せてもらうつもり?…あ、龍に乗ってきたんだった。
≪フハッ、フハハハッ…!
面白い…ニンゲンよ。
行きに地龍を駆り、
帰りは鉱竜を駆るか。
構わぬ。案内せよ ≫
鉱竜ファフニールはそう言うと尻尾をこちらに向け、その背へと導きゆっくりと立ち上がった。
「こんなっ!あれ?
地龍と形が違うよ?」
鉱竜が立ち上がった際の揺れに耐えながら、地龍と鉱竜の違いについて尋ねた。
「知らないの?龍と竜で違うのよ」
「そんなの普通知らないでしょ!
どっちもドラゴンじゃないの?」
「簡単にいうとだな、
龍ってのは蛇だな。
竜はトカゲだ」
≪フハハハッ…!これは愉快。
神と地龍が共に気に入る訳だ≫
「お前らが龍だの竜だの言うからだろ」
≪龍とは、神の僕
竜とは、龍の僕
我は地龍の身より生まれし者≫
「っていうことは、前に来た時、鉱竜は地龍と戦うつもりはなかったの?」
≪地龍が道を違えてはおらぬか
我はそれが知りたかったのだ。
そなたらは戦いも辞さぬ様であった
どうであろうか?我にも勝てると?≫
「アタシたちだけじゃ、ジリ貧ね。
属性の相性が悪すぎたわ」
「ノエルの言う通りね。
あの時はオリバー次第かしらね」
「ホントに任せるつもりだったんだ…」
「お前ら鉱竜と戦うつもりだったのか?」
「しょうがないじゃん!
話が通じるかなんて知らないし、
オリバーもいたから何とかなるかなと」
「死にはしなかったでしょうね。
ソファ次第で目はあったわよ」
「そんなの言ってなかったけど?」
――こんなのと戦えるわけないじゃん。
≪ふむ…。嵐雷の者と翠旋の者。
“闇”の力を持つ戦士がおったな。
守護の神次第ではあるが我の負けだ≫
「ほら!勝てたじゃん!」
「嬢ちゃん次第で五分五分じゃねぇか」
≪勝算は、危うき際に立つ。
竜種に対し寡兵でありながら
天秤の量り次第とは、天晴れなり≫
「鉱竜よ。こいつらと一緒にいた戦士ならどうだ?」
≪ふむ…。“闇”の力のせいで
彼の者は神の加護は受けられまい。
我ならば容易かろうて。 ≫
「いいの?今オリバーいないけど」
「いいのいいの!多分喜ぶから」
「決まりだな。後で会わせるからよ。
お前らで話付けてくれよな」




