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精霊と歩む少女 ―古の名を継ぐ者―【執筆再開中】  作者: アインス
第3歩 力を求めて

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39/40

未知との遭遇 ドラ

~ある登場人物の目線~



()()の正体を確かめる必要があった。

恐らくまだ少し距離はある。


森を歩き進めると、()()から風が逃げていく。木々が一斉に逆らうように枝を震わせ、葉が地を転がる。


地表を這う振動に地の底で鳴る低音。

骨が共鳴し、意識の奥で響いている。


誰も声を発さなかった。


すぐそこには森の切れ目…



最初に鼻を刺したのは鉄の臭い。

血と硫黄が混ざったような、焦げた金属の匂いと喉の奥に残る苦い鉄の味。


森の出口で、風が逆流し、そこにあったのは巨大な影。


その周囲を無数のワイバーンが囲んでいた。

旋回しながら鳴き声を上げるが、恐怖の共鳴にしか聞こえない。


群れを成してはいるが、

()()に支配されているわけではない。


恐怖の圧に囚われ、

ただ逃げられずにいるのだ。



体の奥で何かが拒絶する。

命がこの場所を“危険”と叫ぶ。


影の中心に、金のようで

金ではない光がひとつ、

それが“目”だと気づいた瞬間

膝が勝手に折れた。



「…ファニー!ファニー!

 分かるか?こっちを見ろ」


自分を呼ぶ声に気付いた私は振り返る。


「良かった。分かるか?…いいか?

 落ち着いて、ゆっくり息をしろ」


声の主は夫であるピエールであった。


私は愛する夫の指示に従い、息を吐き、ゆっくり吸って、また吐いてふと気が付いた。


鼻を刺す鉄の臭いがしなくなっていた。


もう一度深く息を吸い込んでみる。


鼻の奥に残るのは遠くの記憶

微かに、だが確かに嗅いだことがある心地良い香り。


(…シラカの花の香り…)


懐かしい、心を落ち着かせる匂い。



「もう大丈夫ね。…驚いたわよね?」


声の主は()()と私を遮るように前に立っていた。



恐る恐る周囲を確認した。


背後の森では木々が変わらずざわめいている。


この周囲だけは穏やかで暖かい。

まるで夫に腕の中で目を覚ました朝のように全てを包む優しさで満ちていた。


「セレナ。すまない。もう大丈夫そうだ」

膝をつき、私の手を握りながら彼がそう言う。


「あら?平気よ、これくらい。抱き締めてあげたらもっと落ち着くんじゃないかしら」


そう言って、こちらに微笑みかけるセレナ。



―― 最初はセレナが嫌いだった。


私たちを再会させてくれた恩人の1人というのは理解している。


それでも夫を誘惑するような仕草が嫌いだった。


再会したあの日、

夜通し駆けて来たはずなのに、

抱きしめてくれた夫の体からは

なぜかほのかに花の匂いがした。


いけないとは思いつつ、彼を疑った。


彼が私をアリアさんに預け、依頼を受けて戻ってきた時、ギルドで彼を誑かす彼女を見た。


間違いない。このひとだ。


私の体は勝手に動いた。


気付いた時には持っていた報酬を机に叩きつけていた ――



「セレナ~、落ち着いたなら

 そろそろ止めないと

 戻ってこなくなっちゃうよ~」


隣からノエルの声がした。


「大丈夫よ。もう止めたわ」とセレナ。


「今のって、何なの?」

「魔法障壁と、一種の幻覚だな。沈静効果があるんだがやり過ぎは危険だ」


「危険って?」

「さっきのファニーみたいに、賽の河原で石拾ってるな~って思ってたら、次の瞬間にはお花畑で蝶追っかけてるの」


「失礼ね。もっと前で戻ってきたわよ」


どうやら魔法か何かの効果だったようだ。


それにしても、なぜ?

森を抜けてからの状況は変わらない。


()()は動いてはいないようだが


無数のワイバーンたちは変わらず

旋回しながら鳴き声を上げている。


私たちがここに留まる理由などないはずなのに。



「どうしよっかなぁ~」

そう言いながら隣で()()()()()顎に手を当て考え込むノエル。


(いや、早く逃げないと)


「こんなところで見るとはなぁ」

そう言いながら胡坐あぐらをかいたままのオリバー。


(なんでよ。逃げるでしょ)


「物語上の存在だと思っていた…」

私の手を握ったままの夫が呟く。


(違うでしょ。逃げようよ!)


「私も、初めて見た」

座らないまでも感心した様子のソファ。


(そんなの当たり前じゃない!)



「村はなんとか大丈夫そうだわ…。地下か小さな洞窟に避難してるわね」


「“供物の儀”なんて続けてたくらいだしね。何が封印されてたかは知ってて備えてた。か」


「あんなのどこに封印されてたの?」


「多分奥の山脈の麓だろう。

 知らないのか?ソファ。

 この国にはよくあるんだ」


()()ある?なんて国なの?)


「どうするんだ?」


(ピエール。もう一つ踏み込んで)


「あ、ファニーもう大丈夫そうだね。セレナもご苦労さま。こっちおいでよ」


そう言って自分の隣の地面を叩くと、セレナも自然とそれに従う。


私もピエールに手を引かれ訳も分からず、……座った。


(……帰るんだよね?)




◇◇◇




「とりあえず、作戦会議だね」

「えっ?」「そうね」「そうだな」

「…聞こう」

(……。)


「奥の村だけどさ、あとどれくらいなら持つかな?」

(…確かに、それは大事だけど)


「あっ、アリアが集落って言ってたよ」

「ならそれほど数はいないという事か」


「森が言うには、多くても30人程度らしいわよ」


(…森?何を言っているの?)


「そんなところだろう。あとは食料か」

「どれくらい蓄えがあるのか。だな」


封祠ほうしが壊されたのは、

 ほんの数日前だそうよ。

 それまでは村人がよく来てたって」


(どうしてそれが分かるの?)


「じゃあ()()も出てきたばっかり?」


「それは見るからにそうだろう。理由は分からんが、封印が解けたことにまだ気付いてないな」


「寝てるって事でいいのか?」


(さっき目が合ったわよ!)


「じゃああのワイバーンの群れは?」


(そう、それもよ)


「いきなりあんなもんが出てきたら

 そりゃあ誰だって驚くだろう?」


(あ、確かに)


「ん~、じゃあとりあえず~、

 数日なら食料は大丈夫そうね」


「そうね、避難先があるくらいだし、

 そこは心配しなくても良さそうよ」


「どうするんだ?」


(ピエール。もっと踏み込んで!)


「そこなんだよね~」

「そうね」「どうするかな」


(――!)


「あのさ、ちょっと聞いていい?」


「「ん?」」


()()、ドラゴン…だよね?」


(あ、聞いてくれた)


「そうだ」「そうね」

「見りゃ分かんじゃん」


(分かるけど…)


「まさかこの目で見れるとは思わなかった」


(え?ピエール、そこじゃないよ)


「…なんて名前のドラゴン?」


「なんで知らないんだ?ソファ。

 あれは“鉱竜ファフニール”だ」


(…え?ピエール?)


「あら?凄いわね、多分間違いないわ」

「鉱竜なのは分かったが名前までは」

「なんで名前なんか知ってんのよ?」


(それは聞きたい)


「物語で読んだ!出てくるだろう?」

 ――ドンッ!!


「あんたバカぁ?」

(――あ、言っちゃった)


「肘だよ」「入ったな」

「うわぁあ、痛そう…」


「ふふっ。もう大丈夫ね。

 じゃあ話を戻しましょう」


「じゃなくって!ドラゴンですよ!?」


「ホントだ。ファニーが復活した」


「逃げないと!ドラゴンですよ?」


「ワイバーンもいるな」

「もし見つかったら…」

「襲ってくるでしょうね」


「じゃあやっぱり逃げないと…」


「村はどうするつもりだ?」


「…後で、救助に…」



「「誰が?」」



「それは…ギルドで、討伐隊を組んで…」

「まあ、それも方法ではあるな」


「ちょっと待ってくれ!」


「はい、ピエール君」


「確認させてくれ。

 鉱竜は、倒せるのか?」


「時間はかかるがな」

「相性がねぇ」

「ソファならどうかしら?」


「私?ムリムリ。

 倒したことないよ!」

「そんなの知ってるから!」


「火で倒すのか?」

「いや…爆発するな」

「え?爆発するの?」


「では氷か?」「その後どうすんのよ」

「オーガみたいに持って帰れないよね」


「岩山みたいに溶かすのか?」

「ピエール、それダメ」

「岩山?何の話だ?」


「「……」」



「先にワイバーン片付けよっか」

「それが良さそうね」


「じゃあピエールは俺と待機だな」

「了解した」


「えっ私は?どうすればいい?」

「ソファはね、氷ね」「氷?」


「いい?とりあえずの作戦よ。

 ワイバーンをこっちにおびき寄せる。

 シェルティが風の壁で誘導。

 残りでワイバーンを撃ち落とす。

 ソファはね、小さくていいから

 氷のつぶてを撃ってみて」


「やってみる。大きさはどれくらい?」

「ヤクモの頭ぐらいでいいんじゃない」


「分かった。ヤクモ、≪デュオ≫」

呼び掛けに応じてヤクモがフレイルのに入る。


さまになってきたじゃん

 行くよ!数は多いから集中!」

そう言うとノエルは指先からワイバーンに向け稲光を数発放った。




◇◇◇




――座っていて良かった。

でなければ私は腰を抜かしていただろう。


――座っていて良かった。

隣にしがみ付ける夫がいたから。


空に渦巻く灰色の群れ。およそ百を超える影が、鉱竜を囲い円を描いていた。


ノエルの指先から稲妻の糸が一筋、空へ昇るとその光に群れが反応し、一斉に身を翻した。


次の瞬間、百の影がこちらへ降り注ぐ。

あれほど遠くにいた群れが、まるで何かに引き寄せられるように一直線にこちらへ降りてくる。



その直後、風が変わり、さわさわと葉擦れのような音がした。


目の前のセレナの足元から、無数の葉が吹き上がった。

それは森の息吹が形を変えたようで、無重力の緑が空へ舞い上がる。



――!!

急に体の半面が冷気に襲われた。


ソファが武器を構え、白い霧が足元を包んでいた。

手に持つ棒の先端の輝石が狼をかたどり、白銀の輝きを放っている。



「ファニー。大丈夫だ。

 安心してしっかり見て、

 アリアに報告してくれ」


そう言いながら胡坐あぐらをかいたままのオリバー。


「ここに来る前に言っただろう?

 多分信じられないものが見られるぞ」


そう言うピエールからも緊張感は伝わってこなかった。


(みんななんでこんなに冷静なの?)


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