表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊と歩む少女 ―古の名を継ぐ者―【執筆再開中】  作者: アインス
第3歩 力を求めて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

未知との遭遇 ド

カーテンの向こうから朝の光が差し込み、まぶたをゆっくりと開け、天井をぼんやりと見つめた。


――ここは、イツカの屋敷の離れ。

思い出すのは昨夜のあの騒がしい宴。


アリアが強引に書類を出し、ノエルが笑い、オリバーが呆れ、ピエール、ファニー、セレナが微笑んでグラスを掲げていた。


そのまま、誰かが毛布を掛けてくれた気がする。

覚えているのは、暖かい声と灯の揺らぎ。


ゆっくりと身を起こし、窓を開けると朝の空気が流れ込み、自然と力が満ちた。


「……いい朝」


ヤクモが寝椅子の上で丸くなって眠り、寝息のように尻尾を小さく動かし、隣ではトラヴァスが欠伸あくびをしていた。


「おはよう。もう起きてるの?」

「んー?…まだ早ないか?」

「ノエルみたいなこと言うね」


――新しい一日が、始まる。

新しい依頼が私()()を待っていた。



◇◇◇◇



屋敷の一室で新生スプライトクインテットの面々は朝食をとっていた。


「お前らよ、

 なんでここでメシ食ってんだ?」


主のイツカ()が焼き魚の身をほぐしながら口を開いた。


「うわっ!ケチくさっ!

 ソファもそう思わない?」

「えっ!私?…そう言えば、

 王様の屋敷で朝食って…」

「気にしなくていいわよ。

 ()()は十分あるんだし」

「そうそう!どうせ昨日誘わなかったからってスネてるだけだよ!」


「…アリアさんと私の朝食は

 いつも()()なんですが…」

「報告と今後の方針の確認作業。

 これは大事な仕事の一環なの」


「…本音は?」とノエル。

「朝食ぐらい楽させて欲しいわ。

 そう思うわよね、ファニー?」

「本当に助かります。

 まだ買い物にも行けてなくて…」


「…本当は?」とまたノエル。

「アリアさんに四六時中くっ付いて仕事覚えろって言われてます」

「面倒見ろって言ったでしょ?

 彼女、物覚え良くて助かるわ」


「おい、ピエール。

 お前なるべく早く家を買え」

「…なぜか理由を聞いても?」

「ギルドにアリアが2人もいたら犠牲が出る」


「オリバー?何か言った?」

「何も!今日は依頼の続きだな。任せてくれ!」


「…筋肉バカめ」とノエル。


「そうね。引き続き()()依頼よ。

 ラグルの森に起きた異変について、

 その原因を調査して」


「スプライトクインテットでの初依頼ね!」

「そうね。楽しみだわ」

「ちょっと!

 リーダーはアタシなんだけど?」


「上手くまとまってるじゃねえか。

 オリバーは固定パーティーは久しぶりだな。

 どうだ?楽しめそうか?」


「聞いてくれ、イツカよ!

 アリアに騙され…「あ~ん」ん」

「これ、美味しいでしょう?」

抗議の声を上げようとしたオリバーをセレナが制す。


「んお!これは旨いな!」

「スープロールサンドよ。

 ファニーがレシピを教えてくれたの」

アリアが説明しながら美味しそうに頬張る。


――薄くスライスしたパンに焼いた卵を挟んだだけ…じゃない。

何これ?ジューシーな熱々卵に少しピリピリする辛味の後に残るスープの美味しさ!

少し混乱しながら質問しようとしたら、オリバーに先を越された。


「ファニー!この卵は!」

「普通の鳥の卵です」


「この香りは!」

「干した魚からとったスープです」


「この辛味は!」

「シラカの実を擦ったものです」


「…続き、話してもいい?」

アリアの確認に、お替りを要求しながら頷くオリバー。


「チョロ過ぎ」

「一口で食べちゃった」

「ファニー、良くやった」

「ホント、お手柄ね」



「じゃあ続けるわね。ラグルの森の封祠ほうしは森を抜けた先の村が管理していたはず。恐らくここで何かあったと考えているわ。」


「確認していい?森の向こう側は山脈よ。麓に村があるってことでいいの?」

「そうね。村というより集落と言った方が正しいかも」


「山脈の麓…でも封祠ほうしを管理してたって事は昔からあった集落って事で合ってるかしら?」

「この国が出来る前からね。安心していいわ。敵対もしていないし、交流もある。ここのハンターにも出身者はいるわ」


「ま、行ってみりゃ分かるか。ラグルの森辺りに“道”はあるの?」

「あの辺りはミミズの間引まびきで行くが、“道”はなかった。出来そうな場所でもねぇな」


「イツカの言う通りよ。他の報告でも“道”はない」


「…人為的なものか、空からってところかしら?」

「あるいはその両方か、ね。深入りはしないでちょうだい」

「あら?コードはいないのかしら?」

「すまねぇ。アイツは今レイブの所で仕事中だ」


「状況は分かった。行ったばかりだし、ウチが適任ね」


「ねえオリバー、依頼が中途半端なままでいいの?嫌でしょ?」

セレナの問いに真顔になったオリバーが頷く。


「よし、決まり。食べたら出発!」

ノエルの言葉と頷くパーティーを待っていたかのように湯気を上げたスープロールサンドが皿一杯に運ばれてきた。

オリバーより先に2つ確保したのは秘密。





◇◇◇◇





「あぁ~、エルクが頭いいってホントね」

「本当ね。ちゃんと言葉が理解できてるわぁ」

「いやいやおいおい!手綱握ってへんだけで、ちゃあんと誘導してたんやけど?」


「トラヴァス、道案内ありがとね。ここからはファニーの護衛よろしく」

「ぐぅ…へいへ~い」


ラグルの森に着いた私たちは入り口でエルクから降りていた。


「アースワーム、出なかったね」

「片付けたばかりだからな!」


「焼けた跡があったが、

 あれはソファがやったのか?」

「そう、ピエール聞いて!

 私ね、ちゃんと制御できたんだよ」


「あら、本当?成長してるのね」


「…え?あの巨体をソファちゃんが焼いたの?」

「ファニー。多分信じられないものが見られるぞ」


「気ぃついたら、ぎょうさん増えてはるなぁ。誰が船頭さんをやらはるん?」

「いいじゃない。シェルも賑やかなの、嫌いじゃないでしょう?」

「セレナも楽しんでるようやし、うちもそう。別に気にしてへんよ」


思い思いの会話が飛び交う“パーティー”の面々を頼もしげに見つめ森へ振り返ると、前と同じ外縁部分のはずだが、表情が違っていた。


風が通り抜けるたび、葉が微笑むように揺れ、かつて沈黙していた森が今は小さく囁いている。


「そろそろ行きますか!念の為歩いて行くわよ。ピエールとファニーはエルクで付いてきて」


指示に従い、御者席にピエールが乗り込んだのを見てから森へと踏み込む。


「ソファ、森の中じゃ≪アルゴス≫はナシでいいからね」


「えっ?今しようかと…見なくていいの?」

「偉いわね。ちゃんと見てたわよ。でも大丈夫。今日は私がいるから」


「そう言うこと~。森はセレナのお庭だよ~」

「あらあら?森はあなたたちの事を覚えているみたいね」


木が幹を震わせ、枝を揺らし、葉を鳴らし、光を散らす。


「“ありがとう”って、

 お礼を伝えてって」

そうセレナが言った後、柔らかな風が通り抜けた。


「風がくすぐったい」

「森の“歓迎”よ」

私の呟きにセレナが微笑みながら答えた。


「本当にいい空気だな。

 湿った感じがない」

「そうね。光も入って、

 暗い感じがしない」


「昨日とはまるで違うぞ!見てみろ。光が封祠ほうしへ案内してくれている」


幸先さいさきいいじゃん。ファニー?ちゃんと記録してる?」

「あっ、はい!ちゃんと書いてます。凄い、ピエール、この馬車全然揺れない」

ファニーの呼び掛けにピエールは振り返って微笑む。


「森が言うには封祠ほうしから出た()()は消えたそうよ。そのままにしておいて良さそうだわ」

「核も砕いたしな。

 間違いないだろう」

「順調、順調~っと」


「森は大丈夫。もう心配せんでえぇけど…この向こうは大変やねぇ」

「――そうみたいね。ノエル!」


「……分かってたよ、分かってたさ。セレナさ、どっか落ち着ける所ないか聞いてくれない?」

そう言いながらノエルは少し開けた場所へ歩を進めていた。



小休止となり、ノエルを囲むように集まったが彼女は話さず、何故か笑顔で場を任す仕草をした。

「――出た。無茶ぶり。

 どうすればいいの?」


「私分かったかも。

 ねピエール、言っていい?」

「まあ大丈夫だろう。

 言ってみてくれ」


「鳥の声が、聞こえないの――」

「――確かに!!」


ファニーの一言に手をパチパチと叩くノエル。


「空か!マズイな」

「…何がいるの?」

「それはまだ分からん。だが俺と…ピエールは相手によっては非常にマズイ」


「…念の為弓矢はエルクに積んではいる」

「助かる、が、それが役に立つ相手だといいな」


「そんなに大きい魔物がいるって事?それが…空を飛んでるの?」


私の一言にパチパチと手を叩くノエル。


「アリアは深入りはしなくていいって言ってたわね。問題は、今ここで引き返すか、何がいるのか確かめるか…あとはノエル次第ね」


皆がノエルに注目すると、ノエルは諦めたとばかりに言葉を発した。


「アリアがアタシに深入りすんなって言うって事はだよ?」


「…しろって事だな」

「間違いないわね」

とベテラン組のオリバーとセレナ。


「ピエール、確認だけど、弓矢積めって言ったのはアリア?」

「あ、私です」とファニー。


「空からなら必要じゃないのか?」

「…そっか」

「間違いないわね」


しばしの沈黙の間にポツリと呟いた。

「皆が言うほど、そんなにアリアって鬼かなぁ?」

「鬼だな!」「鬼よ!」

「鬼ねぇ」「分かります!」

「分かるのか?」


「行くしかない…かぁ。イヤだなぁ」

「ねぇ!何がいるって思ってるの?」


「問題。アタシたちは、

 どんなパーティー?」

「えっと…

 優秀な前衛が2人と

 精霊使いが3人」

合ってるよね?


「相手が空にいて、弓矢はいらないってどういう事?」


「矢が効かないのか?」

「降りてくるからって事ですか?」


「空飛んでて~

 矢が効かなくて~

 降りてくる。

 優秀な前衛2人と、

 精霊使いが3人もいて、

 あの鬼()()()が!

 深入りしないでってアタシに言った。

 おまけに精霊はナ・ゼ・か!

 仲良く馬車で昼寝してる!」


「…冗談だよね?」「いるのか?」

「伝説ですよね?」

「いるぞ!」「いるのよ」

「いるんだなぁコレが」



―――空が一呼吸、沈黙し

次の瞬間、空気が押し寄せた。


耳ではなく、胸の奥で世界が鳴り、内臓が震え、心臓の鼓動が一拍遅れて返ってくる。

音ではなく、魂を叩く“圧”で、見えぬ咆哮ほうこうが世界の骨格をきしませた。

――まさか!ド……


ピエール、信じられないものってこの事?

ファニー、まだそうと決まった訳じゃないだろう?

それに俺が言ってたのはコレじゃない。


コレより信じられないものがあるって言うの?

分からない。分からないさ俺にも!

諦めるな。諦めたら終わりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ