消えた商隊 ~結成~
部屋の中央には黒檀の大机。
その両脇に三人掛けの深紅の寝椅子が向かい合うように置かれ、机の奥――窓際には、二人掛けの淡い灰色の寝椅子が寄り添うように据えられていた。
重厚だが、どこか温もりのある空間、戦場ではなく、策と休息とが交わる場所――
イツカの屋敷の“作戦室”とも、“憩いの間”とも呼ばれる部屋である。
窓際の寝椅子にセレナが腰掛け、両脇の寝椅子の片方にいる2人はピエールとファニー、逆側の寝椅子にはオリバーとノエル。
アリアを追いかけて、入った部屋の中はこんな感じ。
何かを慌てて誤魔化そうとするオリバーと、してやったりの表情のノエル、ファニーは笑みを浮かべ、困惑するピエール。セレナは…いつものハッとするような笑みに加えて…あれで服着てるの?
「お待たせ~。遅かったかしら?」
と中の様子を気にも留めないアリア。
「ん~ん。ちょうどいい感じ?」
とノエルが振り返り答える。
「そ?じゃあ、ソファここ座って」
そう言ってアリアは手前の椅子を指す。
「あれ?ここ座っちゃったらアリアはどこに座るの?」
「すぐ戻るわ。ヤクモちゃん出して待っててね」
私は言われるままに椅子に座るとフレイルからヤクモが出てきた。
「ルベラだよ。まってていい?」
――前に貰い損ねたオヤツのことか!
「…!あ~。いいよ。大人しくしててね」
「本当に…精霊なんですね…」
「何?ファニー。信じてなかったの?」
ヤクモが喋った姿に驚いたファニーの呟きに、ノエルが答える。
――その言い方怖いって。
もっと優しい口調でないとファニーが…
「いえ。主人からも聞きましたし、こちらへ来る時も姿は見ていました。ただ…喋ってるのは初めてで…」
「アタシのは五月蠅いぐらい喋るよ?1日ぐらい預かってみる?」
そう言うと彼女の髪留めからはトラヴァスが姿を現した。
「ノエルと髪の色同じや!赤はえぇなぁ」
「わっ!今度は猫?折れ耳可愛いぃ」
飛びついてきたトラヴァスを膝に抱え耳をぴょこぴょこと弄るファニー。
そのやり取りを見ながらオリバーとピエールが世間話を始めた。
「やはりオロディアでは精霊は珍しいのか?」
「珍しいというか、私は物語でしか知らない。向こうでも魔法使いはいたが、その力はこちらとは別次元だ」
「そうか。俺は詳しくはよく知らんが、オロディアは精霊に嫌われているそうだからな」
「そうなのか?なぜ?」
「何かにつけて戦ばっかり…昔は精霊狩りって迷惑な話もあったなぁ」
いつの間にか窓際に姿を現していたシェルティが呟く。
「精霊狩り?」
「精霊も…異人狩りゆうてエルフも…なぁ?」
「あったわね。そんな事も…」
「暗いのはナシ!オロディアは精霊に嫌われてるでおしまい!」
話に興味を持った一同を制すノエル。
「ほら!もう足音聞こえて来た。アレは少し放っておいていいから、オリバー。このお酒、開けていい?」
「構わんぞ。元々お前らへの礼じゃないか」
扉が勢いよく開いてアリアが現れる。
「グラス持ってきたわよ!はい、ソファ。皆に配って!…ヤクモちゃぁ~ん♡はい♡ルベラの実」
グラスの乗った盆を私に渡すとすぐさまヤクモの前に膝をつき器いっぱいのルベラの実を差し出す。
赤い小さな実を喜んで食べるヤクモに幸せいっぱいの表情で構わず撫で回すアリア。――には目もくれず、行き渡ったグラスをそれぞれ手に取った一同。
「さっ。乾杯しましょ」
セレナがグラスを掲げると皆も同じようにグラスを掲げた。
「うわっ。これ美味しい」
「ほんと…」
「あっ、ファニーお酒大丈夫よね?」
「大丈夫です。凄く飲みやすいです」
「いい酒だ」「染みるな」
杯を合わせた瞬間、静かな笑いがこぼれ、口にした酒が舌の上でやわらかくほどけていく。
「じゃあ、飲みながらね。仕事の話よ。セレナとピエールはいなかったから、そこからね」
そう言ってノエルが切り出すと、ピエールは少し前のめりに、ファニーは姿勢を正した。
「今日“ラグルの森”へ商隊失踪の調査に行ってたの。封祠が壊れてて、森ごと呪いが広がってた。ここの3人で問題は解決したわ。商隊も全員無事。ここまではいいわね?」
「ちょっ…短すぎない?」
「ソファ、これがノエルだ」
飲み干したグラスにお替わりを注ぎながら諦めたようにオリバーが呟く。
「だいたい想像できるから大丈夫よ。ノエル続けて」
オリバーにお酒を注いで貰いながらセレナは、気にもせず続きを促した。
――お妃様に従う騎士みたい…。
「…問題は“なぜ封祠が壊れたか”よ。封印維持の儀式があったらしいけど、何故か途絶えてるっぽい。多分何か起きてる」
「より詳細な再調査…という事か?」
「そんなところね。ギルドからの正式依頼。どうする?ピエール。受ける?」
「ああ。しっかり休ませてもらった。役に立つかはともかく、体は問題ない」
「どうか主人をよろしくお願いします」
「…だってさ?オリバー」
「俺?なぜそこで俺なんだ?」
「さっき言ってたじゃん」
「聞いたわね」
「…」「……」「………」
沈黙に耐えられず私は声を上げた。
「あの!壊れた封祠の確認をしないと、壊した…オリバーさんが…無責任…かと」
言いながら自信を無くし段々小声になる。
「あ、オリバーが返事しないからソファが泣いた」
「あら?こんな幼気な少女を泣かして、夫の無事を祈る新妻の期待にも応えられないなんて…」
「どう見ても泣いてないだろ!分かった!行くから!俺なんで責められてんだ?」
「よし!」
「ありがとうございます!」
「パーティー登録完了っと」
「前衛が揃ったわね」
「待て!今なんて言った?」
「私かしら?前衛が揃って助かるわ」
「違う!その前だ!」
「私ね。パーティー登録完了したわよ」
振り返るオリバーがアリアの持つ書類に愕然とする。
「アリア…今お前はヤクモと…」
「失礼ね。依頼受注の相談なのよ?しっかりと記録しました。業務完了っと」
そう告げるとすぐにヤクモと戯れるアリア。
「良かったぁ。これでカンペキ!運転手兼、荷物持ち兼、素材剥ぎ取り係兼、見張り兼、ソファの戦闘教育係ね。」
「…戦闘教育いるか?お前の仕事だろ」
「…仕事が同じだ。同志だな」
ノエルへの突っ込みは憐みの表情を浮かべるピエールに遮られ、ふと疑問をぶつけてみた。
「ねえねえ、この場合どっちが先輩になるの?」
「ややこしいわね。ノエルがリーダー。次に私が誘われて、ソファ、ピエール、オリバーの順かしら」
「ハンターとしては?」
「私、オリバー、ノエル、ソファ、ピエールね」
「年齢順だと?」
「あら?それを聞いてどうするの?」
――あれ?なんか怖い。誤魔化さなきゃ!
「あっ!そうだ!ファニーも一緒に来ない?」
「えっ?いいんですか?」
「アリアの代理?で報告書作成の実地訓練ってことで。いいわよね?アリア」
「構わないわよ。元々そのつもりだったから」
私の誘いに乗って来たファニーを見てノエルが尋ねると、ヤクモと戯れながら答えるアリア。
「だってさ。ピエール、安心していいよ。トラヴァスがファニーの護衛」
「トラヴァスが?頼めるのか?」
ファニーの膝ですっかり寛いでいるトラヴァスが尻尾で答える。
「ちょっと待て!奥さんが来るなら…クイン…」
「往生際わるっ」
「あら?続きが気になるわね」
「…奥さんが来るなら…前衛は俺が請け負おう…」
「男らしくてステキね」
「バカだけどね」
血の涙を流さんばかりの表情でオリバーが白旗を上げた。
「うわぁ~。こんなパターンもあるんだね」
「ソファ。言ったでしょ?チャンスは一瞬。私たち3人相手で逃げられる訳ないじゃない」とアリア。
「決まり~!じゃあ新生スプライトクインテット。結成パーティー始めま~す!」
「――明日から、皆で旅できるね」
呟きに、皆が微笑んだ。
その笑顔を映す灯が揺れ、夜の館は静かに新しい風を孕んでいた。
…飲んでくれ。いつも俺で済まないな。ピエールはここに溶け込んでいるのか?
ソファがノエル化したらもう止められんぞ…何?声が小さい?…男にはそういう時もある。
共に飲もう!
あとレビューだ。パーティーが揃った。誰が好きだとか嫌いだとか…誰かの活躍を期待してくれれば、登場シーンが増えるそうだ。




