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精霊と歩む少女 ―古の名を継ぐ者―【執筆再開中】  作者: アインス
第2歩 仲間を求めて

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消えた商隊 ~帰還~

「ソファご苦労さま。

 ちょうどよかった~。

 向こうも戻ってきたわよ?」


エルクを連れ帰った私に対して普段のノエルが声を掛けて来た。


あれだけ疲弊していたのに、いつもの彼女がそこにいた。

私は何も知らない。何も見てない。

…返事しなきゃ。


「みんな無事…みたいね?」

ここから見える人影は5人。


…商人かな?護衛?の肩を借りながら頼りない足取りの人もいるみたいだけど、確認から始めよう。


「とりあえずエルクに乗せちゃえばいいんだよね?」

問いかけに対し彼女が頷いたので商隊の元へと駆け寄った。


肩を借りていたのはやはり商人で、顔色がまだ青白い。

影喰い(シャドウ・リーチ)の影響?疲労の色は濃いけど外傷は…見当たらない。


護衛の人たちは傷も癒えてるみたいで、ギルドのハンターたちもすでに戦闘に戻れるくらいには回復したらしい。


彼らはノエルの姿を確認すると一瞬だけ驚いた表情を浮かべ、

「すまんがここは任せていいか?俺たちは荷を取りに戻る。すぐ後ろまでオリバーさんが来てるから」

私が頷いたのを確認しながら来た方向へと駆けていった。


「皆さんはこちらへ。私たちのエルクに乗って少し休んでください」

商人と護衛たちは誘導に従って馬車に乗り込む。


「何その手慣れた感じ?アリアみたいでムカつくんだけど?」

いつの間にか後ろにいたノエルが声をかけてきた。


「っ!ビックリした

 …脅かさないでよ」

「後ろが隙だらけだよ。

 まだまだだね」


「いやいや、後ろにいたのノエルじゃん。警戒なんてしてないよ~。それより…大丈夫?」

「ん?何が?…あぁ商隊?よかったよね。本当に、誰も喰われてなくて」


「それもそうだけど、ノエルは?疲れてない?」

「アタシが?なんで?ぶっ倒れたのはソファじゃん!それとも…見なかった事にしてほしい?」


「もう!疲れてないか聞いただけ!別に心配するくらいいいじゃない」


「心配してして~。動けない~。オリバーが戻ったら荷物の積み込みよろしく~」

「ハイハイ!分かりました~っと。あ!戻ってきたよ」


木立の奥から聞こえる重い足音とともにオリバーの逞しい体が荷車を曳いて戻ってきた。


「えっ?あんなの自力で引っ張ってこれるものなの?」

「筋肉バカだからねぇ~。ピエールの仕事一つ取られちゃったね」


「…手伝った方がいいのかな?」

「いらないんじゃない?あのまま筋肉連中に任せとけば?」


「おう、戻ったぞ!全員生きてた!喰われかけた魂も戻ってる。もう大丈夫だ!」

戻ったオリバーの声には、緊張の糸がようやくほどけた安堵が滲んでいた。


彼は一息つくと「あとは連れ帰るだけだ」と続け、私は荷車の散乱した荷を確認し、目を疑った。箱にはみるからにぎっしりと薬草や鉱石が詰まっていた。

――あんなの曳いて疲れてないの?


「嬢ちゃん、ありがとうな!助かったぜ」

「荷物の積み込みは任せな!もう動けるからよ」

「ソファ!後は任せてこっちで休んでていいぞ!」

ハンターたちとオリバーが手際よく荷を移していく。


「うわっ!はやっ!」

「こっち本業にした方が稼げるんじゃない?それか護衛兼運び屋?見てて気持ちよくなるね」

まるで熟練のような動きの3人を目で追いながら思わず叫ぶとノエルも一緒になって作業を見届けた。


「終わりだ!全部乗ったぞ。ノエル、ソファ悪いんだが帰りは屋根でもいいか?」

そう言ってオリバーが馬車の屋根を指さす。


「え~?屋根で見張りしろっての~?」

「行きにアースワーム片づけてあるし、何も起こらんだろ。見張りはこっちでやるから屋根で寝転んでろよ」


「りょ~かい。まだ暖かいし、ちょっと寝るかな~。ソファも後は任せて、ゴロゴロしよっか?」

ノエルに促されて馬車の屋根に登る。


全員が乗り込んだのを確認すると、オリバーが手綱を握り短い号令とともに、エルクがいななき、車輪が軋む音が静かな森に響いた。



最後にもう一度だけ振り返ると、薄暗い森の奥、崩れた封祠ほうしの跡には淡い光が差し込んでいた。


ヤクモが隣でそっと呟いた。


「だいじょうぶ。あの森、もうちゃんと息してる」

「うん。きっともう大丈夫だね」


森を抜けた瞬間、湿った空気が晴れ、柔らかな風が“ありがとう”と囁いたように感じられた。




 ◇




街の門を抜けた瞬間、夕暮れの光が差し込んだ。


石畳の上を進む車輪が軋み、街の喧騒が少しずつ近づいてくる。その音を聞きながら、深く息を吐いた。


「――帰ったな」

オリバーの言葉が実感を運び、あの森の重さが、ようやく遠ざかっていく。


馬車では、商人が顔色を取り戻し、隣で護衛たちが小声で言葉を交わす。誰もが疲労の色を隠せないが、表情は緩んでいた。



ギルドの前に着くと、商人家の者たちが慌ただしく駆け寄る。

「戻られたのですね!」

「ああ、全員無事だ!」

オリバーが短く答えると、周囲から安堵の声が広がった。


「お疲れ。よく頑張ったね」

馬車の屋根から降りたノエルはいつもの軽い調子だけど、言葉でそう言われると少し照れくさい。


ギルドの扉を開くとカウンターのアリアと目が合った。

彼女は手にした書類を一度閉じると飛び切りの笑顔を向けてくれる。


「お帰りさない。無事帰ってきてくれてありがとう」


オリバーが一歩前に出て報告する。


「商隊五名、全員生還。護衛二名は軽傷、商人は衰弱。原因は“影喰い(シャドウ・リーチ)”――封祠ほうしが壊れていた。森全体が呪いに侵食されてすぐといったところだった」


アリアの目が鋭く細まる。

「……封祠ほうしが壊れていた、ですって?」


「ええ」とノエルが補足する。

「オリバーが封祠ほうしを核ごと叩き潰して、ようやく止まったわ」


彼女はしばらく沈黙し、やがて深く息を吐きながら指先で小さく机を鳴らす。


「あの森の封祠ほうしは百年以上前の封印のはずよ。その呪いが()()に蘇るなんて、ありえない」


――なんで?嘘くさいぞ?


「――この件、調査班の編成が必要ね。すぐに手配して」

隣で控えていた職員が頷き、足早に部屋を出ていく。


静寂が戻るとすぐに彼女が続けた。

「ありがとう。本当に助かったわ。本来なら調査隊と討伐隊を組むべき案件よ」


「……ノエルとオリバーさんがいたからです。私だけなら森を焼いちゃうところでした」

褒められてる?照れ笑いが隠せない。


「おい、アリア!すこし話があるんだが?」とオリバーが口を挟む。


「――ラグルの森には、古くから“供物の儀”があったはず。近くの村が毎年、封祠ほうしに供えを捧げていたはずなんだけど」

「儀式が止まって、それで封祠ほうしが……?」

とノエルが眉をひそめる。


「分からないわ。けれど――」

アリアは視線を窓の外へ向けた。

「“なぜ封祠ほうしが壊れたか”は問題。何か意図があるのか――」


「おい、アリア?」


沈黙。


「アリア?」オリバーが腕を組んだ。


「――じゃあ、ウチが行ってくるわ」ノエルが笑って言う。

「調べに行ってくれるの?」

「ウチじゃ不満?小規模で小回りが利いて、それに腕利きよ?」

ノエルが不敵な笑みを浮かべると、アリアの口元にも笑みが浮かぶ。


「おい!!」

「「なに?」」


「何って…言うことがあるだろ?」


「私?オリバーに?何かな?」

「あぁ、アタシたちにお礼でしょ?」

「ああ!お酒ね!上等なの、もちろん用意してあるわよ?」

そう言うとさっき出て行ったはずの職員が酒瓶を手に戻ってきた。


「ありがとう。これこれっと。はい、オリバー」

「ちょっと待て!なんだ?お前は調査隊の手配に行ったはずだよな?戻ってきたら酒?どう考えたっておかしいだろ!!」


「…?なんでよ?」

「別におかしくないわよね?」

「ソファ!ちょっと助けてくれ」


「なんですか?」

――嘘くさかったのはコレが原因ね。多分乗ればいいんだよね?


「今の聞いてただろう?…一体どうしてこうなった…」

少し首を傾げ考えたフリをしたあと、手を打つ。

「えっと…、今から新生スプライト()()()()()()の結成祝いです!」


「違うだろ!」オリバーの絶叫に、してやったりの表情のノエルとアリア。


「うんうん。ソファ、いいよ。それで正解なんだよ」

「偉い偉い。本当に慣れてきたわね」


「オリバーさん…ごめんなさい…」

「…いつの間にそっち側に…」


「まあまあ、メンバー紹介するから。もう館で皆待ってるから。飲も!」

そう言ってノエルはオリバーの首根っこを掴みギルドを出て行った。



「うわぁ~。こんなパターンもあるんだね」

「ソファ。チャンスは一瞬。逃しちゃダメ。このままオリバーをパーティーに確保しなさい」


「え?オリバー嫌がってるんじゃ?」

「大丈夫。あと一押しよ。前衛が欲しいんでしょ?彼なら文句なしよ。それに荷運びなんかは喜んでするわよ?」

「頑張る!何すればいいの?」


「イツカの屋敷でセレナが仕掛ける…」

「え?」

「ソファに助けを求めるでしょうね」

「…?」


「“勧誘”の練習よ。後は自分で確かめて」

そう言ってアリアもギルドを後にする。


残された私は小さく息を吐いた。

間違いなくまた巻き込まれてる。


けれど、なぜか楽しくて足取りは軽やかだった。


イツカの屋敷で待つ“次の物語”を、私はまだ知らない。


どうしてこうなった?

確か後輩たちの護衛任務があって…

アリアが声を掛けてきて…

俺は当然行くと答えた。


だが足がない。

貸してくれるかと聞いたら…

いい方法があると…。

…そこからか!

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