消えた商隊 ~討伐~
「さぁソファ、アンタどうすんの?Cランクなんかで満足?」
「出来るなら…森も救いたい!」
「良く言った!じゃあ、どうする?」
ノエルとオリバーを見上げながら状況を整理する。
やることは簡単。私にも――違う、私ならできる。
あとは間違ってないか確認するだけ。
「一つ聞いていい?“呪いの核”は“封祠”にあるの?」
「「正解」」と2人が頷く。
「封祠を探して、核を火か氷魔法で壊す。どう?」
「探せる?」とノエル。
「やってみる」
「檻の外は任せていいからね。探すのに集中しなさい」
「了解…≪アルゴス≫
――すべてを見せて!」
詠唱とともに、深く息を吐く。
息を吸うたびに、胸の奥で何かが反応した。
五感が裏返り、匂いが“形”を持ちはじめる。
木の根の匂い、苔の湿り、獣の汗。
感じたものすべてが色を持ち線を描く。
「風も、根も、木も――まだ全部、動いてる。この森は縛られてるのに抵抗してるんだ」
一旦息を止めて、さらに呼吸を深く、目を閉じて意識を全て≪アルゴス≫に集中する。
フレイルが共鳴するように輝く。
焦げた鉄?血にも似た“匂い”。でも腐臭じゃない、甘くて鼻の奥を刺すような異臭。
――!!これだ。
「――見つけた!ここよりまだ少し奥っ」
目を開け、方向を指そうとすると足元がぐらりと揺れた。
「ソファ。十分だ。よくやった」
オリバーがそっと背を支えてくれた。
「…アンタならここからでも十分攻撃できるわね?」
ノエルの問いには目で答えた。
フレイルを支えに身を起こそうと力を入れ――
「カンペキ!合格~っ!」
ノエルが急に私を抱きしめた。
あまりに場違いな反応に理解が追いつかず固まる私。
「…ここからあの封祠を見つけるとはな。精霊の力とは言え、とんでもないルーキーだな」
「言っとくけど!今はウチのパーティーの一員だかんね!ソファが欲しいんなら、アンタがウチ入んなよ!」
「お?俺は今ソロだが、いいのか?お前ん所は魔法使い限定じゃなかったのか?」
「今再編成中。セレナとソファ次第だけど候補に入れてあげてもいいよ?」
「面白そうだな。じゃあソファにアピールしておくか。影喰いは請け負った。他は任せていいか?」
「任された。っていうかもう全員見つけた。封印が解けてすぐだったみたいね。ちゃんと生きてるわよ?」
「流石だ――「ちょっと!」」
場に合わない突然の掛け合いに思わず割って入る。
「ノエルさん?説明求む、意味不明」
「未知の敵。ソファ追い込んで、試したの」
私の追求にとびきりの笑顔で指を折りながら答えるノエル。
彼女の態度に怒りで震えながらも力が入らない。何とか落ち着こうと声を振り絞る。
「“危険”だったよね?」
「うん、そだね」
「“まだ”危険だよね?」
「うん、そだね」
「今、ふざけてたよね?」
「うん、そだね」
「私、フラフラだよね?」
「うん、そだね」
「なんでセレナがいないの…!」
「ホントそれ!」
「トラヴァスは止めれないの?」
「そら無理や!」
「なんで?」
「…今俺だけが仕事中やねんけど?」
「そうは見えないけど?」
「…まあ、この程度なら雑魚やしな」
私の中で何かを諦めた音がする。
――まだダメ、オリバーがいる。
期待を込めて彼を見上げたが、帰って来た言葉は――、
「…ノエルが言ってただろ。“後で説明する”って」
「えっ?それが今?」
「とりあえず、影喰い片付けてからでいいか?」
「…了解」
「……出るぞ」
戦斧オブリヴィオンの刃先に走る黒鉄の紋が淡く光ると、彼は全身に魔力を纏わせ、唸りを上げて戦斧を振り上げる。
轟音とともに氷の檻が内側から砕け散り、冷気の渦から歩み出た巨体。
「いい檻だ!この冷気、使わせてもらおう!」
そう言って地を蹴った瞬間、少し大地が沈んだ。
彼は戦斧を構え、一直線に影喰いの群れの奥の封祠へと突っ込む。
黒い霧が人型に蠢き、そうはさせまいと腕を伸ばす――が、届くより早く。
「――喰らえ!」
斧が叩きつけられた瞬間、衝撃波が奔り、封祠が崩れ落ち、呪いの核も粉々に砕けた。
影喰いの輪郭が引き裂かれ、黒い霧が悲鳴のような音を立て虚空へと逃げようとした。
「そこか、――逃がすか!」
大地を蹴り、再び斧を構え一閃。
その一撃は真上から影喰いの中心を叩き潰した。
黒い霧から紅い光が弾ける。
断末魔のような音が森に響き、崩れ落ちた影喰いの残滓は、霧と共に地へ吸い込まれていき、やがてそこにあったはずの“存在”さえも消える。
「……ふぅ」
オリバーは斧を肩に担ぎ、ひとつ息を吐く。
「見えてないのに良くやるわ…。ホントは封祠の位置知ってたでしょ?」
こちらへ戻ってきた彼にノエルが声を掛ける。
「ん?それは当たり前だろう?封印されているモノによっちゃあ、俺には見えんからな。情報だけが頼りだ。位置は出る前に聞いていた」
「…さっき知らないって言ったのに!」
「言ってはいない。首振っただけだ!」
「ノエル!どこから騙してたの?」
「…えへ。最初から、かな?でも封印されてたのが影喰いなのは知らなかったなぁ」
「それはそうだろ?なんの封印かは誰も知らんだろ?」
「…どこが最初か分かんない!」
「えっと~、ソファが湖の依頼を受けてた日に~」
――そんな前から…っ。
「ギルドでアリアと話してたら商隊と連絡がつかないって報告が来て~」
……。
「そしたら、護衛依頼受けたのがオリバーの後輩だってなって~」
………。
「アリアがオリバーに声かけてて~」
…………。
「ちょうどいいから手伝ってって!」
説明されながらワナワナと震えていると、何故かオリバーも固まった。
「待て!ちょうどいいとはなんだ?」
「アリアとね、暑苦しくなくて、臭くなくて、下品じゃないヤツ誰?って。そしたら、オリバーはどう?って話になって~」
「…ちょうどいいとは?」
「ホント偶然。今回の報告が来たの!内容聞いたらオリバーは行くだろうし、ソファも帰ってくる頃だから間に合うし、…アタシはヒマだったし」
「「おい!」」
「オリバーに恩売って、ソファにはレアな敵と経験積んでもらって」
「「おい!」」
「ちょうどいいじゃないって、アリアが!」
「「おい!」」
「また…やられた!」
「ソファもか!」
「オリバーも?」
「アリアはな、鬼だ!」
「あの笑顔で?」
「あれはな、世を忍ぶ仮の姿だ!」
手を取り合う私たちにノエルが笑顔を浮かべる。
「さっ!商隊の連中の抜けかけてた魂も戻っただろうし、荷物も含めて持って帰ったら依頼完了ね。オリバー、力仕事担当でしょ。さっさと動く!」
「…連中の回復には付いてくるんだろうな?」
「とっくにトラヴァスがやってるわよ。ほら。帰って来たわよ。トラヴァス~。オリバーを案内してあげて~」
姿を見せたばかりのトラヴァスが驚いて目を丸くする。
「なんでや!回復させたら戻ってこいって言うてたやんか!」
「言ったわよ?戻って来ないとオリバーを案内できないじゃん」
「なんでや!なんでそんな手間を…二度手間やないか」
「え?じゃあアンタここまで1回で運んで来れんの?」
「…くっ…!オリバー、せめて肩に乗せてくれ…」
「すまん!トラヴァス。せめて乗ってくれ!俺は今自分が情けない…」
「ノエルは無理や。こんな精霊使いの荒いヤツは聞いた事ない」
彼らはブツブツと愚痴を言い合いながら森の奥へ消えていった。
残された私にノエルはエルクを連れてくるよう指示を出す。
渋々指示に従いながらヤクモに愚痴をこぼした。
「ヤクモ…せめて希望という爪を立てさせて」
「いいよ。誰に?」
「ノエルとアリアに…!」
「…むり」
「まさか!ヤクモも買収済み?」
「ちがうよ。ノエルもアリアもいい人」
「それは知ってるよ。でも今回のはちょっとやり過ぎじゃない?」
「いつもすごい心配してるよ。2人ともソファのこと大好き。匂いでわかる」
「それは…わかるけど…」
「今日1番がんばってたのはノエル!」
――えっ?
「朝ノエルからミミズの匂いしてたよ」
――??
「森の音もずっと、ぜんぶ聞いてた…」
≪アルゴス≫に全て集中した時を思い出す。
――確かあの時、
森の全景が掴めた気がする…
意味を理解してとっさに振り返った。
――いた。
すぐに≪アルゴス≫を発動させる。
いつもは背筋を伸ばし、誰よりも前を歩く彼女が、膝をついていた。
いつもは高らかに笑う声が、荒い息の音に変わっていた。
肩を上下させながら、地面に手をつき、指先はわずかに震え、張り詰めた弦が切れ、音もなく沈んでいくように、威勢も強がりも、今はもうどこにもない。
――こっちに気付いてもいない。
突然≪アルゴス≫の視界が閉ざされた。
「分かった?でも、おしまい。見ちゃだめだよ」
何かを言おうとして、言葉が出なかった。
恐らく彼女が最も見られたくなかったであろう姿は、これまで見て来た彼女の姿で最も美しく、そして、熱かった―。
止まっていたはずの森の風が、一筋だけ通り抜けた。
ノエルの息を運ぶように――。
ハンター用語講座
講師:トラヴァス
あん?今度は何や?
《希望という爪を立て》させて?
それはな、一矢報いるっちゅう意味や!
今回の俺もまさにその思いや!
こんなに見えへんとこで頑張ってたのに!
全部ノエルが持ってくんか?
騙されたらアカン!
見つけたのも!
回復したのも!
全部…全部俺とちゃうんか!
あん?魔力?…今回はノエルのや。
アンタは非常用や、ゆうてたな。
指示?対応?…ノエルの作戦やな。
アンタ考えられんの?ゆうてな。
朝のミミズ?…全部俺にくれたな。
アンタにご褒美よ。ゆうてたな。
ノエル励ましたってくれへんか?
朝から頑張ってはったんや!!
今日のノエルは一味違った!




