消えた商隊 ~巨大ミミズ~
目の前には地の竜蛇アースワーム。の死体。
巨大ミミズが首を両断されてなお、モゾモゾと動いていた。
――キモっ。次は私の番。
「私だってやってやる!ヤクモ、デュオ!」
ヤクモが輝きを放ち構えたフレイルの柄に入る。
地表を盛り上げながら、ひび割れた土の奥から――別の巨大ミミズの黒い頭がこっちへ来る。
「≪ケルベロス≫――お願い、噛み砕いて!」
三重の輪が重なり、赤と青と黒の光が渦を巻く。
フレイルが紅に染まり、炎が立ち上がると空気が唸り、熱が爆ぜ、三つの咆哮が響く。
地獄の番犬――ケルベロス。
その姿は火の塊、牙は灼熱の刃。
三つの頭が同時に咆哮を放つと、周囲の空気が一瞬で焼け、炎の鎖が地を這う竜蛇の胴を絡め取る。
轟音とともに、赤熱の火が爆ぜた。
鱗が焼け焦げ、泥が蒸発し、炎の中で竜蛇がのたうつ。
「…抑えなきゃ≪ケルベロス≫もういい――!」
炎が一度、激しく脈打ち――やがて鎮火。
燃え残った土と焦げた鱗が地面に転がったが、まだ形があるのを確認して思わず膝に手をついた。
「…形、残せた。ノエル!制御できたよ!」
「やったじゃん!上出来よ。あと3つ。オリバー、1体よろしく」
さらに残りの3体が潜む地点へ雷撃を放ちながらノエルからは当然のように指示が続いた。
――そうだった。巨大ミミズは全部で5体。
まだ三つの巨影が地中を蠢いている。
砂を巻き上げて残りのアースワームが次々に姿を現し一斉に咆哮した。
地面を割る尾に唸る顎、弾ける泥に構わずオリバーが前に出る。
「俺が前を受ける!左右は任せた!」
先頭の一体がその巨体からは考えられないほど跳ね上がるが、対するオリバーは踏み込み斧を振り上げる。
斧と顎が衝突する轟音に地面が爆ぜ、衝撃波が走る。
「喰らえぇぇッ!」
次の瞬間、黒い鱗の首が一閃で吹き飛び、また一体巨体が崩れ落ちる。
「もう…?あんなに簡単に…」
驚いている私の隣でノエルが手を上げる。
「風、裂けて――行くよトラヴァス!」
彼女の手から歪んだ空間が放たれた。
――!?
それを目で追った先では巨大ミミズの首が2体とも斜めに崩れ落ちる。
…今の何?風の刃?どれだけの密度があればあの巨体を切れるの?
「地中だと厄介だけど、地上ならキモイだけよ」
笑みを浮かべたノエルの髪が、逆風に揺れた。
風が通り抜け、灰と黒い血煙が舞う。
「ソファ、上出来よ。ちゃんと力を抑えてる」
「…なんとか制御できたみたい」
「コツ、掴んできた?」
「ヤクモがね、イメージを形にしてくれるの」
「それで十分よ」
そう言ってノエルは微笑んだ。
――悔しさ?…力の差じゃない。
こんなに悔しいぐらいカッコいい人たちと一緒にいるんだ。
「ノエルは相変わらずだが、ソファ!すげぇな。見ろよ。丸っ焦げだぞ」
私が倒したアースワームの前で、オリバーは焼け焦げた跡を興味深そうに見ている。
「…まだ熱気が消えてないんで気を付けてください」
「そうか?もうヤクモ“核”食べてるぞ?」
――!言われて気付いた。
「え?いつの間に出たの?ヤクモ!」
「精霊の御馳走だろう?自分の手柄だしいいじゃねぇか!」
「トラヴァス~1コだけだからね。もう1コは頂戴ね」
両断された“モノ”の核に向けて駆けたトラヴァスはノエルの指示通り1つを大事そうに抱え、1つをノエルに差し出した。
「ケチやなぁ。ミミズは腹持ちええねんで!」
「金にもなんのよ!腹持ちいいなら1コで十分じゃん」
「お?じゃあ俺からお前たちへの礼だ。俺の倒した2体の分、食っていいぞ」
「ホンマかいな?」「ホント?」
トラヴァスとヤクモは目を丸くして、オリバーの倒したアースワームの元へ向かう。
「ありがとうございます!…ヤクモ!まずお礼でしょ」
「アタシからもありがとね。ホントにいらないの?」
「構わん!欲しけりゃまた倒せばいい」
核を咥えた2柱はオリバーの肩に乗り頬擦りをして感謝を表す。
「その気前の良さにこの子達こんなに懐いてんのに…なんでアンタの前に精霊出ないの?」
「向こうに聞いてくれ!俺が知るかよ」
「…その斧。斧も凄いですけど、さっき跳んでましたよね?」
「おう。コイツの能力みたいなもんでな。肉体強化っていうのか?戦闘中は重さを感じねぇんだ」
「筋肉バカにピッタリの武器なのよ。普通あんなもの振り回せないわよ」
「そうかあ?“ダンナ”はブーメランみたいに投げてワイバーン狩ってたがな」
「あの“バカ”は例外!あいつ脳ミソも筋肉でできてんのよ」
「それってイツカさんのこと?あの人もこの斧使えるの?」
「元々あの人のだよ。昔賭けの報酬でな。俺がダンナから頂いた、今じゃ相棒だよ」
「私のフレイルと同じで多分魔道具?だよね?」
「さ!森への障害は片付いたし、これで後で通る連中も当分は大丈夫でしょ。森まで一息に行っちゃうわよ」
ノエルの一言でエルクに戻り再び“ラグルの森”を目指す。
向かうその先――かつて“生の楽園”と呼ばれたその場所は、いまや命が逆流し、影が根を下ろす森へと変わっていた。
そう言えば、まだ森に着いてもいなかったんだ…。




