第2章11部 滝の音は
第2章11部 滝の音は
ジメッとしていて暗い廃鉱をひたすら歩くと、
広い空洞に出た。
不思議な色をした岩石や、古びた写真が展示されていて、
足尾銅山について紹介されていた。
「よーし、みんないるかー?点呼しろー…」
「じゃあ、4班…あっ……」
「………?」
小林さんと目が合ってしまい、言葉が出なくなった。
おいおい、何をやってるんだ俺は…。
「みっ…みんな、いる…よ、ね?」
「全員いるけど」
「だっ、だよね。先生に行ってきますー…。」
なんで敬語?俺自身訳がわからないくらい焦っていた。
「よっ…4班全員いました」
「なに…?城谷の班は6班じゃないのか?」
「えっ、あっ…そうでしたっけ」
俺がみんなに視線を送ると、相川が頷いた。
「あっ、はい。多分、そうだと思われます。」
「よし、気をつけろよ。行ってこい!」
「失礼します…。」
さっき小林さんと目が合った時、何かが頭をよぎった。
なんの事かは思い出せないが、どこかで見た事のある顔。
いつもとはまた違った緊張感が走ってしまう…。
「おまたせー…」
「おせーぞ、城谷。早く行かなきゃ時間が無くなるぞ?」
「そーだよ、城谷くん。早くいこ!」
「だね。じゃああの変な石見に行こっか」
「うん!」
相川と神野さんは口を揃えて返事をした。
だが、小林さんは返事をしない。
「あれ、小林さん。石見学でいいよね?」
「…あっ。いいよ」
「なんか小林さんぼーっとしてるね」
「そうかな、そんなことないよ。
相川くんは楽しそうだね」
「まぁね。ワクワクする」
「…。」
そんな2人の会話を眺め、俺は無言で石に向かって歩いた。
黄緑色に鈍く輝く岩石は、ずっしりと台座に座り込んでいるようだった。
「山田せんせー!これってエメラルド!?」
「そんなわけないだろ、これはキ石の結晶だ。」
「なんだ…」
「なんだとはなんだ!この岩石を掘り出し、削り出すためにはたくさんの人の労力がかかっててだな…」
「あーあ。相川くんやっちゃったねー」
「まぁ、山田は話長いからね…」
「うん…」
「ごめん。みんな…」
昼の2時を指していた俺の腕時計は、気づくと30分も進んでいた。
「いいよ、あれは仕方ない。」
「もー、相川くん。30分返してよねー」
「えっ、どうやって?」
冗談だよ、という顔をして、神野さんは笑っている。
ざわざわ…がやがや…
「バス車内では、お静かにお願い致します…」
バスの運転手には同情する。運転に集中したいはずなのに、テンションの上がった学生が大声で話しているなんて、可哀想だなぁと思う。
俺は華厳の滝行きのバスに乗ってから一言も喋っていない。
運転手を気遣っているから…と言いたいところだが、普通に喋る人がいない。神野さんと相川は意気投合したのか、楽しそうに話している。小林さんは、足尾銅山に着いた時からなんだか気分が悪そうだ。
「………」
「………」
「神野ー、さっき湯川が言ってたんだけどさー…」
「そんなこと言われたんだー。ぜんぜん関係ないじゃん!…」
俺はやっぱり臆病者なのか?
俺はなんのために小林さんに近づくため頑張ったんだ?
こんなの…嫌だ。
「小林さん、なんかあった?」
俺は訊けた。声が震えてなかったか心配だった。
「うーん…うん。」
少し悩んだ顔をして答えてくれた。
「そっか…」
なにがあったの?
その一言さえ言えれば、れっきとした会話になっただろう。
しかし、俺の口からは飛び出てこなかった。
『ようこそ 華厳の滝へ』
そう書かれた木の看板を横目に、俺たち6班は施設に入った。
外はジメジメしていて暑かったが、滝までのトンネルは涼しく、寒いくらいだった。
長いトンネルの先、光が差し込んでいる。
あの先には華厳の滝があるのだ。
「みんなさー、華厳の滝見たことある?」
トンネルの残響の長さに驚いた。こんなに響くものなのか。
「俺はないな。今日が初めて。」
「ないよー!結構楽しみ!」
「テレビでしか見たことないなー…。」
みんな初めて見るようで、尚更楽しみだ。
おー……!
景色が開けた。
施設からかなり離れた場所には、大きな滝がゴオゴオと音を立てながら流れている。
「おー…!」
「こんなにでかいのか…!」
「水しぶきが来るね!」
「爽やかな風…!」
滝壺付近を歩く山鹿の姿、大きな崖。
見える全てが美しかった。
「神野さん!あそこに鹿いるよー!」
「おー、見に行こー!」
「二人とも行っちゃったね。」
「そうだね…。」
小林さんは続けた。
「実はケンカしちゃったんだー…。」
「ケンカ…?」
「そう。さっきは機嫌悪くてごめんね」
「そっ、そんなことないよ…大丈夫。」
「…誰とケンカしちゃったの?」
ゴオーッ!!
「うん?なんて言った?」
せっかく勇気を振り絞って話を深めようとしたのに、滝に邪魔されてしまった。
「えーと、誰と喧嘩しちゃっ…」
「そろそろみんな集まれー!!」
「あっ、もう行かなくちゃね」
「あー…そうだね……」
もういいや。散々邪魔しやがって。
でも、今日初めて小林さんとまともに話せた。
その事実だけで気分が良くなったし、明日・明後日の班もグッドだ。
俺の修学旅行は大成功する予感がした。
500PV達成した際、長編の投稿開始に加えペンネームの変更を検討しています。変更後のペンネームは、500PV達成後初の投稿の際に前書きに載せ、指定した時刻に変更する予定です。500PV達成に向け、今後ともよろしくお願いします。
────ナッツ




