食事
「空、綺麗ね」
「そうだな。真っ赤だ」
俺らが本屋で買い物していると、既に日は沈みかけていた。
薄く広がった雲を、太陽が茜色に染めている。その光景はとても神秘的だった。
美咲希と一緒に見れて嬉しいな。
「次は?」
「飯でも食べよう」
今年の春頃に、美咲希と葉月、それに美鈴がファミレスに行った時、羨ましいと思っていた。
だから今行く。
あの時引きこもりの俺を置いていったことまだ忘れねぇからな、クソ。
「うん、行く」
「よっし決まりだ」
今は、日中より涼しくて過ごしやすい。これなら自転車をこいでも大量の汗はかかないだろう。
そうして俺らは、本屋を後にした。
◆
「まだ混んでないみたいね」
まだピーク時ではないのか、ちらほらと人は見受けられるが、ごった返してはない。
なので、俺らはすんなりと席に案内され、メニューを選び始める。
「毎回ファミレスとか来る時思うんだけど、どれも美味しそうだから選ぶの迷うんだよな」
「そう? 私はすぐ決まるわね。今日はお肉の気分」
「肉か。俺も肉でいいや」
いつもよりすごく早いペースで食べるものが決まり、すぐに店員を呼び、注文をした。
俺はカットステーキとライスを頼み、美咲希はチーズインハンバーグとサラダを頼んでいた。
(サラダかぁ、健康的だな)
普段、サイドメニューはほとんど頼まないので、物珍しさを感じる。
「ドリンクバー行こうぜ」
「そうね」
もちろん、二人ともドリンクバーは注文している。相当金欠の時以外、ほとんどの学生は注文しているのではないだろうか。知らないけど。
「美咲希何飲むんだ?」
「コーラ」
「好きだな」
「そうね。悠眞は何飲む?」
「俺はジンジャーエールかな」
「うひゃあ」
「うひゃあってなんだよ」
突然変な声を上げる美咲希に少し困惑した。
「ジンジャーエール飲む人あんまりいないからびっくりしちゃった。気にしないで」
何気に可愛かったので気にしないわけがない。てか美咲希あんな反応する時もあるんだな。一年近く付き合ってて初めて気づいた。
もう6月も下旬を迎えようとしている。
温度も湿度も共に高くなってきて、お祭りや花火などで一番熱くなる季節がやってくる。ちなみに俺は夏が好き。
気温が高くなってきているので、飲食店や電車などは冷房が徐々にだが付き始めている。なんともありがたいことだろうか。
ちなみに、俺らが入ったこのファミレスも冷房が付いていた。快適である。
「じゃあそろそろ席戻るか…………って、お前何してんの?」
「コーラにコーヒー混ぜてるのよ。見てわかるでしょ?」
美咲希の言葉は実に簡単だった。しかし、脳が理解しようとしてなかったのだ。
てかコーラにコーヒー混ぜるとか何考えてるんだこいつ……。
「それ美味しいの?」
「意外と美味しいのよこれ。クセになる味って言うのかしら?」
ほう……。多分それは俺が手を出していいものでは無い気がする。
「へぇ、そうなんだ」
「飲みたいの?」
「いやー、遠慮しようかなー?」
少し、いや、かなり棒読みになってしまったが、気にしたら負け。
それにしても店内は快適だな。いい感じに冷房が効いていて、喉が渇けばドリンクバーがある。それに料理も出てくるからここは一種の天国かもしれない。金さえ払えば。
そんな馬鹿なことを考えていたり、美咲希と話したりしているうちに、俺らの注文した料理が運ばれてきた。
「昔は純粋に美味しそうって思えたけど、今となると結構複雑よね……」
「ああ、確かに。飲食店でバイトするやつら多いもんな」
「裏事情知るとなにかこう、思うものがあるわね」
やめろ。それ以上はいけない。
世の中には知らなきゃいけない事と、知らない方がいい事がある。この場合は間違いなく後者だろう。
「まぁ、そんなこと言うなよ。素直に料理を楽しもうぜ」
「そうね。せっかくだから楽しむわ」
「じゃ、食べるか。いただきます」
「いただきます」
そう言って、俺らは料理を口に運ぶ。
味は安定の美味しさだが、葉月の作るものに比べると劣っているが、ここで食べる料理はどこか特別感がある。金を払っているからだろうか。
美咲希も、先程の言葉が嘘かのように、美味しそうに料理を頬張っている。
てかこいつ、嬉しそうに食べてるけどハンバーグ好きなのかな。
まぁいいや。嬉しそうに食べてる美咲希が可愛すぎてそんなことどうでも良くなる。決して口には出さないけど。
「? 私の顔にご飯粒ついてる?」
「……ああ。いや、何もついてない」
「そう? ならいいんだけど」
どうやら、美咲希を見つめてたようだ。今更見つめてたからと言ってもどうってことないのだが、まだ恥ずかしさはある。もっと堂々としなければ。
そうして時間が経ち、すっかりと日が暮れてから少ししたところで俺達は店を出た。
◆
夜の街はどことなく不安になる。まだ深夜ではないので、大通りは数多くの車が通っているし、歩行者の数もなかなかであるのに不安になるのだ。
今俺達が歩いている道は、街頭によりひっそりと照らされているが、先が見えずどこまでも続いているような錯覚がする。
「この道、結構暗いわね」
そんなことを考えている時、隣を歩いていた美咲希から、突然そう言われた。
「……そうだな。すごく、暗い」
それに対して、どう答えればいいか咄嗟にはわからなかった俺は、とても微妙な反応をしてしまった。
いや、よく考える時間があったとしてもどう答えるべきかなんてわかる気がしない。
人気も少ないこの道は、しっかりと存在しているが、どこか寂しそうだと感じる。
「なんであんまり人通らないんだろうなぁ」
そんな、独り言のようにひっそりと呟いた俺の言葉に反応したのは美咲希だった。
「みんな知らないのよね。でも、静かだから1人になりたい時はよく通るわ。私の家から近いしね」
「そうなんだ」
ここは大通りと少し距離があるため、車の音は聞こえない。しかし、住宅街ということもあって、たまに遠くで笑い声が聞こえたりする。
それ以外はほとんど聞こえず、風の音がよく聞こえるぐらいだ。
「なんだろう、この雰囲気嫌いじゃないな」
「へぇ。この時間のこの道の雰囲気嫌いじゃないって、結構変わってるわね」
「それお前が言う?」
「えへへ」
そう言って笑う美咲希の姿は、すごく美しかった。
俺が最初に感じていた不安は、もうすっかりと払拭されており、今では安心感すら抱いている。
物静かで暗い道は、捉え方によっては冷静になって落ち着けるということになる。
物事の事象は、様々な見方ができる。これはその1例だろう。
そんなどうでもいいことを考えていると、既に美咲希の家に着いていた。
「今日はありがとね。楽しかったわ」
「こちらこそ。また明日な」
多くは語らない。もう伝わっているだろうから。
明日から学校か。…………頑張るか。
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