学校にて
聖なる夜に夏の話をお届け!
自室の冷房が静かに音を鳴らし、カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
リモコンを操作し、冷房を消すとピーとうるさくない程度の高い音が鳴る。
今日は早起きできたので、清々しくいい気分である。
「新しい朝が来た!」
「今そんな早朝じゃないでしょ……」
2階から階段を降り、リビングへ入った瞬間に言った俺の言葉に鋭いツッコミをいれたのは葉月だった。
ソファーには美咲希がいつもの様に座っていて、湯気が立ち上るほど熱々なホットコーヒーを飲んでいる。
こいついつもいるけどすごいよな。よく一年近く通えるなと感心する。
リビングのテーブルに置いてあるテーブルポットからコーヒーを注ぎ、砂糖を小さじ三杯加えて、美咲希のいるソファーへと向かう。
「…………」
「……?」
そこで彼女を見つめていたら、不思議に思われたようだ。それはそうだ。誰でも急に見つめられたら困惑するし不思議にも思う。
俺は持っていたカップをソファーの前にある小さなテーブルに置き、美咲希の頬に手を伸ばす。
――ぷにっ。
おお、これはなかなかいいな。
――ぷにぷにっ。
初めて女子のほっぺを摘んだが、これはクセになりそうだ。柔らかくハリがあり、何よりもすべすべである。クセにならない方が難しいというものだろう。
「おいバカおにい。イチャイチャすんな。美咲希さんも困ってるじゃん」
「え?」
葉月にそう言われて、美咲希の顔を見ると耳まで真っ赤に染めている。どうやら、少し調子に乗っていたようだ。
「あ、ごめん」
「別に、嫌じゃないからいいわよ……」
嫌ではないのか。なら今度は何をしよう……。
いや、冷静になろう。せっかく許してもらったので、今日のところはもう引き下がるしかない。
なので、大人しく美咲希の隣に座り、コーヒーを啜る。
ほんのりとした苦味の後に、爽やかな甘さが口の中に広がっていく。
体を内側から温められてる感じだが、今は夏に差し掛かろうとしている時期なので、体は十分に温まっている。寧ろ暑い。
「学校かぁ……めんどくね?」
「それでも行くんだよ。サボりは許さないから」
「うひゃー、きびしー」
「いや、普通だから」
高校生たるもの、時折学校に行くのが面倒な時がある。それが今。
しかし、妹がサボりを許さないので行くしかない。美咲希の目も怖いしな。
それからしばらくして、朝ごはんを食べ終え、支度を終えた俺達は、揃って学校へ向かった。
◆
無事遅刻せず、しっかりと4時間授業を受けた俺は、現在学校の購買に並んでいた。
「いやー、悪いね。何せここの空間を1人で並ぶと悲しくなるもんで」
「そうな。お前見るからに友達少なそうな見た目してるからなぁ」
「誰がぼっちだ」
俺と一緒に並んでいるのは、同じクラスの野田卓巳だ。
彼は今日母親が寝坊して、弁当がないらしい。なので、購買のもので何とかしようとしている。
その際、並ぶ時1人は悲しいからと俺が道連れになったのだ。
ここら辺一体は生徒で溢れており、かなりざわざわしている。なので、たしかに1人で並ぶには少し勇気がいるだろう。
「お前何買うの?」
「パンかな。弁当は容器返しに来るのめんどいしな」
「なるほど」
ここの購買のルールとして、弁当の容器を返すというものがある。
しかも弁当は日替わりで、当たりハズレがある。なので、弁当を買う人は相当な物好きか、ガチャ感覚で楽しむ人ぐらいだろう。
「しかし並ぶなぁ」
「そりゃあな。学年問わず様々な人いるし」
俺らは授業が終わってすぐに並び始めたのだが、俺らが購買に着いた時、既に行列ができていた。
こいつらいつから並んでるんだよ……。
「どうでもいいけど最近暑くね?」
どうでもいいなら言うなよ……とツッコミたくなる気持ちを抑え、俺は
「そうだな」
と答える。
7月も迫っていることもあって、最近は気温が上昇している。なので、このただ並んでいる状況でも汗をかく。
そんなこんなしているうちに、順番が回ってきた。
「揚げパンとポテトで」
「はーい」
量が少ない気もするが、卓巳曰く午後の授業を凌げる分で十分なんだそうだ。
無事に購入を終え、俺らは教室へ戻るルートを歩いていく。
「あ、そうだ。一緒に並んでくれたお礼としてジュース奢ってやるよ。好きなの選べ」
急にそんなこと言われてもなぁ……。でも早く決めないと卓巳に悪いし、1番最初に目に入ったやつでいいか。
「じゃあこれ」
「ほい」
学校の自販機は通常の自販機よりも安く、手軽に購入できる。だから普通の自販機で奢るより、ここで奢った方が安上がりなのである。
「しかし、お前こういうの飲む人だっけ?」
「飲みたくなったんだからしゃーないだろ」
俺が選んだのはミルクティー。確かに普段は飲まないが、久々に飲んでみたくなる。
「あ」
「あ?」
突然背後から声をかけられ、俺は反射的に声を出してしまった。
いや、クラスの人なら反射的に声を出すことは無かっただろう。その声はとても聞き慣れたものだったのだ。
「なんだ、葉月か」
「なんだとはなんだ。……ミルクティーって珍しいね」
「時々飲みたくなるじゃんわかる?」
「わかんない」
「即答かよ」
声の主は予想通り葉月だった。
あまり学校で話すことはないので、どこか新鮮な気分になる。
「おいおい、俺らを置き去りにするなって」
「そーだそーだ」
そばにいた卓巳と美鈴がギャーギャーと騒ぎ立てる。
「ああ、いたんだ」
「美鈴じゃん。奇遇だね」
「何その綺麗な連携プレイ。すげぇ」
「ほんと、兄妹って強いんだね」
4人揃って笑う。みんなの表情は柔らかく、きっとほんの小さなことでも笑える状況にあるのだろう。
この関係は好きだ。
「お前らも自販?」
「そーそー。今日暑いじゃん? 前の授業が体育だったから何か飲みたいなって思って」
「へー、美鈴も?」
「あ、いや、私は葉月に無理やり連れられて来ましたー」
「ちょ、捏造すんなし!」
仲が良さそうでなにより。
「そういえば、美鈴の制服姿見るの初めてじゃね?」
「あ、確かに。どうです?」
「予想以上に似合ってるな。いいと思う」
「えへへー」
俺と美鈴がそんなやり取りをしていると、
「あー、浮気だー」
と棒読みで卓巳に言われた。
「いやこれは違うだろ」
「小野塚に言っちゃおー」
「シャレにならないからやめてくれ」
そうやって喋っているうちに、授業開始十分前になっていた。
「じゃ、そろそろ教室戻るわ。またな」
俺達は急いで教室に戻る。弁当を食べていないのだ。このままだと授業始まっても弁当を食べる事になるな。
「あー、遅れちまったなぁ」
「どこぞの女たらしが女と楽しく話し込んでたからな」
「誰が女たらしだ。しかも1人は妹だったし」
「うるせー! かんけーねー! 非リアバカにしてんのかー!!!」
「そんなつもりはねぇ!!」
なんともくだらない会話をしながら、俺らは教室へ飛び込んだ。
感想、アドバイスくださると有難いです!
最近寒いので皆さん体調管理にお気をつけください。




