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最終日 下

サブタイトルから大体の人は察せているとおもいます。暖かい目で見ていってください

 電車に揺られること30分。無事に目的地に着くことが出来た。

「少し歩くぞ」

 ここから映画館まで歩きで10分程度。遠いんだか近いんだかよく分からない距離だ。

 映画館と言っても、モールの中にあるので、1度モール内に入らなければいけない。

 チケット売り切れてないよな……?

 開店から1時間経っているので、その可能性は十分にありえる。それに関しては祈るのみだ。

「あのでっかい場所に行くの?」

「そうだぞ」

 ここからでも見えるほど巨大な建物なのだ。周りに高い建物がないから、余計目立つ。

 心なしか、同じ方向に使う人たちみんなが同じ映画を見に行くんじゃないかと思ってきた。

 それほど不安になっているという事だ。我ながら情けない。

 東京程ではないがここもそこそこ都会で、歩いているとファミレスやらファッションセンターやらが多く存在していて、またかよ……と言ってしまいそうになる。

「よーっし、着いた」

 映画館はこの建物の3階にあるので、そこへ行かなきゃいけないのだが、エスカレーターで行くのは少し面倒なので、丁度1階に到達したエレベーターで行くことにした。

「温かいね」

「眠くなる」

 モール内は暑すぎず、快適すぎてほんとに眠くなる。

 映画中に寝ないようにしないと。

 やがて、エレベーターは3階につき、ドアが開く。3階が最上階なので、俺らの他に乗った数名もここで降りる。

「わくわくしてきた」

 よっぽど楽しみなんだろう。というか、R指定とか無かったよなあの映画。

「ここが映画館だ」

 薄暗いスペースに人が沢山いて、半ば缶詰状態だ。

 すぐさまチケット売り場に向かう。列はまぁまぁ長くて、購入できるかどうか確認できるのはまだ先になりそうだ。

 しかし、回転率が早く、俺らの番はすぐにやってきた。

「案外早かったな」

「うん」

 即行空き席があるか確認する。

 すると、思ったより空いていて、真ん中に丁度いい席があった。

「ここでいいか?」

「うんっ!」

 マルに確認をとると、大丈夫みたいなのでその席を2人分購入する。

 映画はこの後すぐに始まるので、飲み物だけ買い、劇場内へ入っていく。

 マルが終始そわそわしていたことは言うまでもない。


「すごかった! どかーんってなってばーんっなってずどどーんって!」

「あはは。そうだな」

 マルのそれはめちゃくちゃ噛み砕いて言っているが、ほとんど正しい。

 あれを翻訳すると、戦闘シーンに迫力があってすっごく興奮した、だ。

 丁度小腹の空く時間で、俺らはコンビニに立ち寄ることにした。

「これが肉まんだ」

 ほかほかした球状の食べ物。中には餡が詰まっている。

「おいひい」

 一口噛んで、味わいながら食べている。

 安定の美味しさっていうか、冬何を買うか困った時にこれ買っとけば安定みたいなものがある。小腹も満たされるし値段も安いし、色々丁度いいんだよな。

「そろそろ行こっか。電車行っちゃうぞ」

「うんっ」

 たった今葉月からメッセージを受信したし、そろそろ帰ろうかと思っていたのでいいタイミングだ。

 行きと同じ道を辿り、駅へと向かう。

 人は先程に比べると大分少ないので、スムーズに移動することが出来た。

「今日で最後かぁ……」

 突然、マルがそんなことを呟いた。

「楽しかったか?」

「うん、とっても。お兄ちゃんに出会えてよかったよ」

 そんなことを言われて、嬉しくないわけがない。1滴の涙が俺の頬を伝う。

「また……来いよ。絶対」

 もう見られたんだし、死ぬほど恥ずかしいけど誤魔化すのはやめた。

「うん。絶対また会えるよ」

 どこか確信が含まれている言葉に、俺は便乗する。それが、俺の望む未来。また一緒に笑いたい。

「ああ。必ず」

 別れにはまだ早い。でも、二人きりの時に想いを伝えられてよかった。

「じゃ、帰ろっか。葉月が待ってる」

 しんみりしたものは嫌いなので、明るくそう言う。我ながら無理しているなとは思うけど、それが年上の出来ることだ。

「うんっ!」

 程なくして電車が到着し、俺らは座り、残りの時間をしっかりと噛み締めた。


『着いたぞ』

『おっけ。じゃあ入ってきて』

 家の前に着く前に、葉月にメッセージを飛ばした。段取りとかはあいつらに全て任せてあるので、俺はそれに従うだけだ。

 鍵を使ってドアを開け、リビングへと向かう。

「ただい――」

「「「「「おかえり!!」」」」」

 クラッカーで出迎えてくれる5人・・

 てかクラッカーうるせぇ。ビビったじゃねーか。

「さぁさぁ。主役はこっちだよマルちゃん!」

 葉月がマルを先導。ソファーの真ん中のいかにもな席に連れていく。

 マルが座ったタイミングで、俺は疑問を投げつける。

「で、なんで美鈴がいるんだ?」

「ああ。私が呼んだの。大悟さんは理解遅いし凛花さん遊び始めるから真面目な人が美咲希さんの他に欲しかった」

 酷い言われようだな。安易に想像出来るけど。

「どーもです先輩」

「おう。ありがとな」

「いやその不意打ちずるいですよぉ……」

 何故か俯いて顔を赤くしている。

「はい。ラブコメはそこまでにしてもらえるかしら」

 よくこの2人同じ空間にいれたな。てっきり断るかと思ったけど、そこまで追い詰められていたのだろうか。

 テーブルにはありったけのご馳走が並べられており、めちゃくちゃ腹が減ってくる。

「じゃあ晩御飯には少し早いですけど食べましょう。美鈴も食べてくよね?」

「うん。お言葉に甘えて」


 合計7人で行われたマルのお別れパーティー。それはとても賑やかで、とても早く過ぎていった。

 そして、今は親父の言った時間。8時だ。

 ここまで来ると、純粋に楽しめなくなる。みんなが終わりを予感して、自然と黙り込む。

「皆さんと一緒に生活できて、楽しかったです」

 突然、マルが口を開いた。

「お兄ちゃんと葉月ちゃんの家に来る前は、不安で押し潰されそうでした。見たことの無い景色に、想像することしか出来ないお兄ちゃん達。怖い人たちだったらどうしようって、怖くなってました。でも、そんなマルを葉月ちゃんは笑顔で迎えてくれて、お兄ちゃんは優しい顔で見ててくれました。そこでマルの不安は一気に吹き飛びました。それから、お兄ちゃんが凛花さんと一緒に街案内してくれたり、東京行ったり皆さんと初詣に行ったり。最後にはこうしてパーティーもしてくれて、ほんとに嬉しいです。もし死んだとしても、マルはここで過ごした日のことを忘れません」

 涙混じりの言葉を、俺達は黙って聞いていた。別れの言葉に、静かに耳を傾けていたのだ。

「ううん。私達もマルちゃんがどんな子か分かんなくて不安だったんだよ。そもそも、女の子だってことも分かんなかった」

 そう言って、マルに抱きつき涙を流している葉月。その姿を見ていると、もらい泣きしそうになる。

「泣きそうになってるわよ」

「ああ……まだ耐えれる」

 笑顔で送り出そうと決めたんだ。泣いていちゃ、悲しくなる。

「美鈴さん。はじめましてなのに準備とかいろいろありがとうございました」

「全然大丈夫だよ。……ねぇマルちゃん。一期一会って知ってる?」

「ことわざですよね?」

「そうそう。出会いって突然やってきて、終わりも突然なの。一生に一度の出会いになるかもしれないけど、私にとってはかけがえのないものだよ」

 やめろ。もう誰も何も言うな。堪えきれなくなるだろ。

 すると、インターホンが鳴った。

 俺は無言でドアへ向かい、ドアを開ける。

「よぉ。楽しみの時間に終わりを告げに来た」

 来てしまった。始まりがあれば終わりがある。そんなのは当然だ。だったら永遠を願うことは贅沢だろうか。

「……今連れてくる」

 リビングに引き返し、俺は終わりを告げる。

 迎えが来た。たったそれだけなのに、言葉が喉に詰まり、出てこない。

「迎え、来たんだよね」

 俺の様子を見て、マルは察したようだ。

 マルを先頭に、俺らは後から続き、最後の別れを告げる。

「じゃあ皆さん。お元気で」

 その言葉を聞いた途端、俺の中でぷちんと何かが切れる音がした。

 その瞬間、涙が溢れてくる。1滴流れれば2滴目3滴目。ついには絶え間なく流れ始める。

 嗚咽が混じり、言葉も上手く発せない。

 別れは笑顔でって決めたのに、全然ダメだな。

 そうしている間に、マルは車に乗り、ドアが閉まる。

 やがて、車が見えなくなり。

「解散するか」

 回復した俺によって、今日の終了を知らせる言葉を言われた。

すみません、遅れました。本日8/5日中に次話投稿したいと思います。

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