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「彼女が大事にしていたロケットです。彼女の母の写真が入っていたロケットがあったんです。それは常に肌身離さず持っていた。それを彼女が婚礼の夜であろうと手放すはずがない。そのロケットが落ちていなかったかと聞きましたが、それはありませんでした。だから僕は疑った。彼女は死んでいないと」
なんと鋭い。
彼女は確かにロケットを持っている。
アンクレットとして左足の足首にずっと巻いている。
今でも大切に。
「どこにいるのかと…ずっと探していましたがナダルではわからず、結局そのまま帰国したのですが、そこで突然アリア王女との婚約が発表されたのです。僕の知らない間に新聞社が勝手にばらまきました。父に問いただしましたが、国王の言うことを聞くんだの一点張りで……それで父とは折り合いが合わなくなり、もう一度ナダルに大使として出向きたいと国王に打診しました。アリア王女と結婚するために自分の経歴に箔をつけたいから、必ずナダルとの同盟を成立させてみせると言ったんです。そうすれば国を出られるので」
思い切った行動をするもんだ。
「口実をもとにナダルに入ってナダルでシェリア王女がどこで生きているという証拠を探し続けていました。ですが見つからず絶望が押し寄せてきたころ、新聞で見たのです。デュランダル陛下。あなたとシェリアが写っている写真を」
俺とシェリア?
新聞に載ったとすればそれは……。
「あの小さな記事を見てわかったのか?」
あのとき、シェリアは帽子を深くかぶり仮面をつけていた。
自分の横でかすかに横顔が写っている程度の写真だ。
それをみてシェリアと判別したというのか?
「はい。オペラを見るために女性を伴うあなたの姿でした。ついにキルギアの国王が結婚か? という記事です」
「はっ」
「キルギアにいたんだと思いました。それでナダルを秘密裏に脱出したんです。キルギアには魔獣がいるため、直接入るのは危険だと判断し、マルコー領に入りました。そこには昔の知り合いがいたのですが、マルコーはキルギアに取り込まれることが決まっていましたから。そしてファルコン閣下に出会ったのです」
しばらくは何も言えなかった。
唐突に絞り出すようにダニエルが言い始めた。
「ひとつだけ教えてください。シェリア王女は……無事なんですか?」
この男は本当に今もシェリアを思っているのだろうか?
「ああ。元気にしている」
「そうですか。よかった」
ほっとした表情。
ダニエルの挙動に嘘は感じられない。
だが、オルベリアの人間だ。
どうしても懐疑的に見てしまう。
それにずっとシェリアが裏切られたと思っていた人間。
その人間を信用できるのか?
「お前を完全に信用はできない」
デュランダルはもう一度ダニエルの目を見た。
「ナダル王の暗殺者がシェリアを殺そうとしたときにお前の名を出していた。だからシェリアはお前が派遣した暗殺者だと思っているはずだ」
「なっ!」
そう言ってから「くそっ!」と自分の太ももをたたいた。
「ゼノア王はどこまで鬼畜なんだ。俺が送ったとわざわざシェリア王女に思わせて絶望に落として殺そうとしたというのか」
くそっ!くそっ!と太ももを三回たたいた。
「デュランダル陛下。僕を信用できないのはわかります。オルベリアからの刺客かもしれないと思うのは当然のことです。ですが、本当に僕はオルベリアと縁を切りました。どうか、ここにおいていただけませんか? もし信用できないというのならよくある誓約魔術で僕が裏切らないように契約をしてもかまいません」
デュランダルはしばらく考えていたが、誓約魔術をかけることにした。
「では誓約魔術を使わせてもらう。いいな」
「はい」
メルディスに言って大神官の持つ魔術契約の際に使う針葉樹林の木からつくったロタという紙を出し、そこにスラスラと内容を書き込んだ。
「これにサインをするとダニエル・リーグはキルギアに対するスパイ行動、暗殺行動をすると同時に命が絶たれる。これでもサインするか?」
「はい。問題ありません」
ダニエルはスラスラとサインした。
契約成立だ。
「ではこれで認めていただいたということで、オルベリアのゼノア王の異常行動について説明いたしましょう」
ダニエルはもう一度ごくりと紅茶を飲んだ。




