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「ちょっと。ディアン。どうしたの? あなたのほうが間違っていてよ」
「あ。申し訳ございません」
さっきから丸しかつけていない。ここは丸じゃないでしょう?
「もういいわ。気になることがあるなら今日はやめましょう」
「殿下……」
「ディアンらしくないわ。何か気になるなら直接陛下に聞けばいいじゃない」
「直接ですか?」
「どうせ陛下のことでしょう? ディアンが悩むなんてそれしかないもん」
「すみません」
うなだれるしかない。
陛下に直接聞けばいい。
そうなのだけれど……。
そんなにうまくは行きませんよ。ロレッタ殿下。
廊下を歩いているとばったりとデュランダルに出くわした。
気もそぞろで窓のほうを見ている。
かつて好きだった人のことを考えているのだろうか?
その人が今も好きなの?
その人が現れたからわたしなんてどうでもよくなったの?
いえ、でも……。
「陛下!」
がしっとデュランダルの手を持った。
「え?」
驚いたようにシェリアに視線を合わせる。
「シェリア……」
「どうされたのですか? 最近気もそぞろで……」
「そうか? そんなに?」
「ええ。わたしのことが目に入らないみたい」
「え?」
考え込むようにしていたが、しばらくシェリアを見つめ、そしてため息をついた。
「俺は……何を悩んでいたんだろうな。シェリアにすべて聞いてもらえばよかったんだ。君という最大の俺の武器があったのに……」
「え?」
「ああ。少し時間があるか? 相談したいことがあるんだ」
デュランダルは侍女にお茶を用意させ、執務室ではなく、自室にシェリアを呼んだ。
デュランダルの自室に入るのは、聖王になった日以来だ。
リラックスできる効能のあるお茶を一口飲み、デュランダルが話し始めた。
「何から言ったらいいか迷うが、単刀直入に言う。ダンテ領に先王の妃が潜んでいた」
「ええっ?」
あまりにも予想に反することだったので素っ頓狂な声が出た。
「つまり、ロレッタ殿下のお母様ということですか?」
「ああそうだ」
先王、つまりデュランダルの兄が殺されたあと、この城にはロレッタ殿下がほかの家臣たちとともにひとり残されていたと聞いている。そのとき王妃も一緒に死んだのではなかったか? いや、そういえばデュランダルは父は死んだとロレッタに伝えたといったけれど母は死んだとは言っていないような気がする。
つまり母は生きていたということ?
しかも潜んでいたという言い方からいくと……。
「先の王妃殿下は城からダンテ領へ逃亡されたのですか?」
「そうだ。俺が兄の遺体を回収して城に戻ったときには城にはいなかった。それしかわからなかった。もしかしたら死んだのかもしれないし行方をくらませただけかもしれない。何もわからなかったんだ。ただ、ロレッタだけを残して消えていた」
大きくため息をつく。
「ロレッタが生きていることがナダルにばれていたのは先の王妃、つまりデボラ妃のせいだった。デボラ妃がすべて筒抜けに伝えていた。つまりキルギアの裏切り者ということになる」
先の王妃、デボラ妃はシリア王国の王女だったはず。今はシリアはキルギアの領土になっておりシリア領と呼ばれているが……
「シリア領も裏切りを?」
「いや、無関係だろう。デボラ妃も兄が死んだ際に死んだと世間では思われている。シリア領の侯爵、つまり先のシリア王も嘆き悲しんでいた。シリアとは無関係にダンテ子爵の情婦として潜んでいたらしい」
「まぁ!」
あまりのことに開いた口がふさがらない。




