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はっとその男は腰の小刀に手をやるが、デュランダルは手で制した。
「デュランダルだ。腰から手を放してもらおう」
「なんだと?本人が直接?」
「ああ」
じっとその男と目を合わせる。
本人も納得したようだ。
一方シェリアはこの男があの宴にいたことを覚えていた。
父のナダル王の目の前に座っており、なめるように自分を見ていた気持ち悪い瞳を。
今は髪色と瞳の色を黒に変えて、肌色も小麦色にしているからわからないだろうが、この男を見るだけで虫唾が走った。
「ねぇ。この国を取り戻さない?」
「お前は誰だ?」
デュランダルとは反対の隣から猫なで声を挙げると、驚いてシェリアのほうへ振り向く。
「俺の女だ。交渉ごとには必ず連れていくことにしている」
「ほう……」
また、体をなめるように見る。
この国の男たちは本当に女を何だと思っているのか。
「もともとは王太子だったあなたのものでしょう?ユーリーンが大きな顔をしているのをほうっておいていいの?」
流暢なナダル語であおるように言うと、ギッと唇をかんだ。
「だが、今俺が出て行っても殺されるだけだ。ここに身を潜めているしかないんだ」
「あら、確実に殺すいい方法があるのに…やる気がない人と交渉しても仕方ないわ。あなた行きましょう」
シェリアが立ち上がろうとすると「待て」とニジェールが手で制した。
「ユーリーン王にこの薬を飲ませろ」
「え?」
デュランダルも交渉の術は心得ているわとシェリアは思った。
「幻覚を呼び起こす薬だ。飲み続ければ一年ほどで気がくるって死んでしまう。薬で死んだとは誰も思わない。自分のやったことに狂ったと人々は思うだろう。魔術で生成しているから毒見係には症状は現れない。ユーリーンのみだ。潜入させるくらいの部下はいるだろう?」
「あ、ああ」
「やつはキルギアを狙っている。俺は自分の国を失うわけにはいかない。だからお前を王にしたい。お前ならうちを手に入れようとはしないだろうからな。魔獣と戦うということがどういうことかお前は知っている」
ニジェールはびくっとおびえたように肩を震わせた。
ナダルがキルギアの先王を殺した後、キルギアに攻め入ってきたのはこの男の部隊だったのだ。
先ナダル王はこの男を王太子にしていたが、息子はほかにも何人もいたため、別にこの男でなくてもよかった。
キルギアで死んだらそれまで。ほかの息子に後継を譲るまでなのだ。
だからニジェールが派遣されたが、魔獣たちは彼らを敵とみなし、束となり一瞬で彼らを滅ぼした。キルギア軍が何をするまでもなかった。
魔獣とはそういうものだ。自分たちの聖地である針葉樹林を脅かす者を許しはしないのだ。
そんな魔獣から命からがら逃げ帰ったニジェールなら再びキルギアを手に入れたいとは考えまい。




