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3

本当なら今頃ダニエルと結婚式をしていたかもしれないのだ。

彼とは小さい頃から婚約者で、ずっと一緒に学び遊んだ。

彼の黒いくるくるとしたクセのある髪と黒い瞳が今頃になって恋しくなる。

今更彼を愛していたのだと知る。



『ほんとにいやなの。ダニエル…どうしたらいいの?!』


心の中で叫んでみるがどうしようもなかった。


そうだ、と足首のところに巻き付けてあったアンクレットをもう一度きつく結びなおす。

これだけは絶対に肌身離さず持っていたい。

初夜であろうと、母の形見をどこかに置き去りにはしたくないのだ。

シェリアがまだ小さい頃に王宮を追い出された母。

けれど自分の微かな記憶が母の愛を呼び覚ます。

唯一わたしを心から愛してくれた。

初夜でとれないようにもう一度結びなおしておこう。


と、ガサゴソと暗闇の中で扉が開く音がする。

国王がついに来たらしい。


仕方ない。オルベリアのためだと思って耐えよう。


と、宴のときも聞いたあの吐き気をもよおす声がした。


「おお。なんと色の白いおなごよ。毎晩かわいがってやるからのう。やわらかいのう」


何の前触れもなく突然ベッドの上に倒し、胸をもみはじめた。


耐えるのよ。シェリア。がんばれ。シェリア!


体を固くして目をつぶって乗り切ろう。


そう思ってぎゅっと瞳を閉じた。その時だ。


自分の体の上でうごめいていたナダル国王が突然いなくなった。

正式に言うと、何か『ボコッ』と音がして、それとともに国王がベッドの下に転げ落ちた。


———え?


部屋の中に誰かがいる気配がある。ベッド脇だ。


「死んだな」


男の声がする。


「だ、誰っ!」


暗闇に慣れてきたのかベッドの下にはナダル国王が転がっているのが見えた。


「おおっ! 上玉だな」


ベッド脇のその男がシェリアに近づいてきた。黒ずくめの服を着てマスクで顔を覆っており、誰なのかわからない。声も聴いたことはない。だがオルベリア訛りがある。

そのマスクの下で舌なめずりをする音が聞こえた。


体が震えはじめた。


ナダル国王を殺したこの男は自分のことも殺そうとしているに違いない。

殺気を感じる。


だが、何を思ったのかその男はシェリアをすぐには殺さず、上に覆いかぶさってきた。

両手を上にあげられ、動けないように片手で押さえつけられる。


「いやっ! いやーーー!」


「まぁそう動くな。味見くらいいいだろう?ダニエルさんよ。許してくれ」


え?

思わず凍り付いた。


今、ダニエルと言った?


カチャカチャと男がベルトをはずす音。


けれどもうどうでもいいと思った。


ここで知らない暗殺者に犯されてから殺されようともうどうでもいい。


ダニエルが自分を殺そうとしているということを知ってしまったから。


最初からそのつもりだったのだ。

ここへわたしをやったのは、殺したいからだったのだ。

邪魔だったのだ。わたしが…

ナダルの王を殺すのも最初から決まっていた。

そしてわたしも……。


その裏には考えたくないが…きっとお兄様もいる。

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