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キルギアに来て一月が経とうとしている。
仕立て屋はすぐに大量の召物を仕立ててくれたが、もう王女でもない自分が何の見返りもなくこんなにたくさんのドレスや靴をもらうわけにはいかない。進言したけれどデュランダルは必要経費だろうと言って譲らなかった。
だが、王女の教育係がぼろぼろのドレスでいるわけにもいかないので何も言わずに受け取ることにした。
先日は三人目の側近のメルディスと初対面したが、どうやらとても警戒されているようだ。
ラインハルトも柔和に接してくれてはいたが、内心は警戒心のかたまりのようで、陛下とこの国に何かあったら大変だとばかりにシェリアを目の敵にしていたようだ。けれど真摯に接していたからかようやく少しは打ち解けて話せるようになってきた気がしている。
まぁでもまだまだ警戒は解けないだろう。
当たり前だ。
もともとはオルベリアの王女なのだから。
新聞は毎日チェックしているが、オルベリアの評判は日に日に悪くなっている。
せっかく立て直した国だったのに…
少しずつ国民も王家を信用するようになってくれていたのに…
キルギアに住む以上この国の民の生活も見てみたいと思う。
だが、デュランダルが許してくれない限り城を出ることはできない。
いずれにしても自分はもうキルギアの国民だと思っている。
すでに王族貴族でもないし、もう戸籍すらない亡霊のような自分を置いてくれるといったデュランダルには感謝しかない。
国王の秘書という肩書ももらった。
この国のために頑張るのみだ。
午前中は専ら執務室にいて、午後はロレッタ王女とともに過ごすのが日課になっている。
毎日過ごせば過ごすほど王女の可愛らしさが身に染みる。
基本的にツンデレな性格の王女は、少し気に食わないとしばらく言うことを聞かなくなるが基本的には素直ないい子だ。
今日は国語のレッスンだ。
完璧に国語をマスターして陛下にレディの手紙を書けるようにと言ったら頑張ると言い出した。
だから今は完璧なレディの手紙を書けるようになることが彼女の目標だ。
「そうそう。そうですわ。とても綺麗」
スラスラと文字が書けるようになってきた。
「あ、お待ちください。そのスペルはnではなくmです。発音がムに近いのでmと覚えてください」
すると、途端にムスッとする。
そしてポイっと羽ペンを放り投げた。
「そんなの難しすぎるもん。わたしディアンみたいに賢くないしっ!」
「あら、わたしも元々書けたわけではありませんよ。頑張って勉強したから書けるようになったんです」
「え? そうなの?」
「はい。わたしも殿下と同じです?お父様に褒めてもらいたくて頑張ったのですわ」
「お父様に? だからそんなに賢くなったのね? わたしもなれるかな?」
やはり基本的には素直ないい子なのだ。
「ええ。がんばれば結果はついてくるものです。殿下のがんばりは無駄にはなりません」
「じゃぁ。頑張ってみようかな」
「わたしも一緒にがんばりますわ」
「うん」
勉強が終わったら、少し庭の散歩に出てみよう。
まだ10歳なのだ。
ずっと勉強ばかりしていては息がつまる。
本当は遊び相手の女の子がいたら一番いいんだけど……
確か、メルディスには娘がいたはず。何歳なんだろうか?
陛下に聞いてみてもいいかもしれない。




