表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
干物系チャラ男男装令嬢は、面倒ごとの中心でため息をつく  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/108

第93話「問う鏡」

白い光の奥から響いた鐘は、これまでよりも高く澄んでいた。


チィン――。


その音が消えると、開いた扉の向こうの光がゆっくりと薄れていく。


現れたのは、細長い石造りの部屋だった。


左右の壁には、等間隔に銀色の鏡が並んでいる。

鏡といっても、どれも表面が曇っていて、何も映していない。


「今度は鏡?」

リオンが扉の向こうを覗き込む。

「触らないでよ」

「まだ何もしてないよ」

「しようとしてたでしょ」

「見るくらいならいいかなって」

「前にも同じこと言ってたよね?」

レオが睨むと、リオンは楽しそうに笑った。


「やっぱり、会話の息が合ってきたな」

オスカーが小声で言う。

「要注意だ」

エルマーが即座に返した。

「聞こえてるんだけど」

レオが振り返る。

「聞かせてる」

「エルマー、レオの扱い完璧だね」

「いつものことだろ」


カイゼルは三人のやり取りを横目に、扉の向こうへ視線を向けた。

「先ほどは名を選ばせた。次は何を選ばせるつもりだ?」

「選ぶとは限りません」

仮面の男が答える。


「じゃあ、今度は?」

「映すのです」

「何を?」

「進む者が、他者の目にどう映っているかを」


レオの眉間にしわが寄った。

「帰っていい?」

「入口は閉じたままだ」

エルマーが淡々と告げる。

「知ってる。言ってみただけ」

「先ほど進むと決めたばかりだろ」

「決めたけど、後悔する自由くらいあるでしょ」

「そこは否定しないよ」

オスカーが苦笑する。


仮面の男は部屋の中央へ進み、床に刻まれた円の外側で足を止めた。


「鍵を持つ者は、円の中へ」

「一人で?」

「はい」

「却下だ」

エルマーの返事は早かった。

「同感」

オスカーもレオの隣へ並ぶ。


「この試練は、鍵を持つ者のためのものです」

「だから一人で行かせる理由にはならない」

エルマーは一歩も譲らない。


仮面の男が何かを言うより先に、レオが双子の肩を軽く叩いた。


「大丈夫。たぶん」

「最後の一言が余計だ」

「大丈夫って言い切って罠だったら、恥ずかしいでしょ」

「そこを気にしてる場合?」

オスカーが呆れた顔をする。


レオは銀の鍵を掲げ、円の中へ足を踏み入れた。


その瞬間。


左右に並んだ鏡が一斉に淡く光った。


最初の鏡に、公爵令嬢姿のレティシアが映る。

銀灰色の長い髪。

美しいドレス。

隙のない微笑み。

『完璧な令嬢』


二枚目には、黒髪のレオが映った。

誰かへ手を差し伸べ、次の瞬間には人混みの中へ消えていく。

『名を残さぬ救い手』


三枚目には、私室のソファに沈み込み、菓子を抱えたレティシアが映る。


オスカーが吹き出した。

「そこも映すの?」

「笑うな」

「いや、すごくお嬢らしいなって」

「あとで覚えてて」

「俺も何度も見ている姿だ」

エルマーが真顔で付け加える。

「エルマー、フォローする気ある?」

「事実を述べただけだ」


レオは額を押さえた。

「この試練、今までで一番嫌いかもしれない」


だが、四枚目の鏡が光った瞬間、空気が変わった。


そこに映ったのは、傷だらけで立つレオだった。


周囲には誰もいない。

背後では、何かが燃えている。

『自らを数に入れぬ者』


オスカーの表情から笑みが消えた。

エルマーの目が細くなる。

リオンも黙り込み、カイゼルは静かに鏡を見つめた。


「勝手なことを言わないで」


レオが低く言う。


『他者を救い、自らを置き去りにする』

「置き去りになんてしてない」

『ならば問う』

すべての鏡に亀裂のような光が走る。


『お前が戻らなかったとき、残される者を知っているか』


鏡の中に、四人の姿が映った。


笑わないオスカー。

剣を握りしめるエルマー。

怒りを隠さないリオン。

そして、何も言わずレオを見つめるカイゼル。


レオは息を止めた。

「……反則でしょ」

『映しているだけだ』

「そういうところが性格悪いって言ってるの」


銀の鍵が、手の中で震える。


鏡の中央に、細い文字が浮かび上がった。

『戻る場所を、一つ選べ』


レオは四人を見た。

四人も、レオを見ていた。


「一つ?」

レオの声が低くなる。

「それは無理」

銀の鍵を握り直し、鏡に映る四人を見返す。

「人を一人選べって意味なら、答えは出さない。戻る場所は、人だけじゃない」

レオは、並んだ鏡へ視線を巡らせた。

「家も、街も、レオとして歩く場所も、全部私の戻る場所だから」


八度目の鐘が、部屋を震わせた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ