第83話「銀の鍵を狙う影」
黒衣の青年は。
すでに何者かに見つけられていた。
「追うぞ」
レオが店を飛び出す。
「やっぱりそうなるよな!」
オスカーが楽しそうに続く。
「鍵はどうする」
エルマーも走りながら問う。
レオは振り返らずに答えた。
「持っていく」
「まだ受け取ってないだろ」
「今、受け取った」
その手には、いつの間にか銀色の鍵が握られていた。
店主の老人が、背後から声を張る。
「失くすでないぞ!」
「善処する!」
「保証しない言い方だな」
エルマーが呟く。
「レオだからね」
「聞こえてる」
三人は石畳の路地を駆け抜けた。
屋根の上を走る黒い影。
外套だけが風に翻る。
「右へ行った!」
オスカーが指差す。
レオは積まれていた木箱へ足を掛け、そのまま低い屋根へ飛び乗った。
「お嬢!」
「今はレオ」
「そこじゃない!」
オスカーも後へ続く。
エルマーは一瞬だけ周囲を確認し、別の路地へ走った。
「先回りする」
「頼んだ」
屋根瓦を蹴り、レオは影を追う。
前を走る人物は速い。
だが、逃げ切ろうとしている動きではなかった。
時折振り返り。
距離を確認し。
わざと追わせるように進んでいる。
「誘導されてるな」
隣へ並んだオスカーが言う。
「ああ」
「戻る?」
「戻らない」
「だよね」
黒い影が屋根から飛び降りる。
その先は、使われていない古い倉庫街だった。
レオとオスカーも地面へ着地する。
静かだった。
人影はない。
「消えた」
オスカーが剣の柄へ手を添える。
「いや」
レオは銀色の鍵を外套の内側へしまった。
「いる」
その瞬間。
背後から金属音が響いた。
振り返るより早く。
黒い刃がレオの胸元へ伸びる。
キィン!
オスカーの剣が刃を弾いた。
「人の護衛対象に何してんの?」
笑っている。
だが、目は笑っていなかった。
襲撃者はすぐに距離を取る。
黒い仮面。
黒い外套。
古道具屋の老人が話していた者たちと同じ姿だった。
「鍵を渡せ」
低く掠れた声。
「断る」
レオは即答した。
「なら奪う」
襲撃者が合図を送る。
倉庫の陰から、さらに三人が現れた。
「増えたな」
オスカーが周囲を見回す。
「今日二件目」
「数えるな」
レオが短剣を抜いた時。
屋根の上から別の声が落ちてきた。
「相変わらず、面白そうな場所にいるな」
全員が顔を上げる。
高い倉庫の屋根。
陽光を背に、一人の青年が立っていた。
軽やかに飛び降り。
レオと襲撃者の間へ着地する。
直後。
別の路地からエルマーも姿を現した。
「先回りしたはずなんだが」
「俺の方が早かったらしい」
青年は悪びれもせず笑う。
レオは額へ手を当てた。
その顔を知っている。
知らないふりをするには、あまりにもよく知っていた。
「……なぜ、ここにいる」
青年は楽しそうに目を細める。
「久しぶり、みんな元気してた?」
オスカーが思わず目を見開く。
「リオン殿下!?」
エルマーも苦笑した。
「こんなところで何をしているんですか」
青年――リオンは悪びれもせず肩をすくめる。
「ちょっと兄上を探しに来たら」
悪びれもなくレオを見て笑う。
「面白そうなの見つけた」
レオは深いため息を吐いた。
「……最悪」
「ひどいな」
リオンは笑う。
「久しぶりの再会なのに」




